03




一撃。ばりばりと大気と地面が激しくびりついた。


「おし、ちゃんと全快にしてきたんだな、心置きなくやれるぜ。」

『後で後悔しないでよ。』

「その日本語はちっと違うな。今蕎麦食べてるなう、みたいな。今って2回言ってるようなおかしな日本語だぜ。そもそも後悔先立たずだ。そんな気色悪い日本語もあたしを心配するかのような冗談もやめろよ鳥肌もんだぜ。」

『俺を見逃した仕返しだって分からない?何の冗談かと思って鳥肌ものだったよ。』


音を立てながら拳と刀が激しくぶつかり合う。瞬き一つで動きが変わる。赤い着物の裾がはためく様子すら目で追ってる暇はない。
ここはもう暴力の世界なのだ。
モーションの大きい振りかぶった拳を避ければ地面にぶつかり、地面を砕くなんてものではなく軽くクレーターのようなものを作り出す。
ほんとに、一発一発がえぐい。つ、と顎を伝う汗を手の甲で乱暴に拭った。
嘉識、という悲鳴にも似た叫び声が聞こえたが、もう戻れなくとも構わないと思ってこの嵐のような、災害のような暴力に飛び込んだのだ。この赤色を前にしては視線を向けることすら惜しい。
しかし、ここで暴れるのは望まないので少しずつ街の外れへと移動しながらもお互い攻めの手を緩めないようにする。
正拳突きを体を傾けて避け、刀で足払いを仕掛けたら跳んで避けられる。飛び蹴りが迫ってきたので刀を突き上げたら、その場で宙返りをして刀にかかと落としをして手ごと地面に叩きつけられた。手に振動がびりびり響く。


「零崎人識といい、殺人鬼なのがもったいねえ。刀さばきだけ見りゃ一流だ。紛うことなく本物だ。殺人のプロにもなれる。殺し屋稼業だってできただろうよ。」

『それは匂宮の話でしょ。俺は殺人屋ではない、殺人鬼だ。零崎だ。人を殺すのに理由などない。』

「だからもったいねえって言ってんだよ!」


横からこめかみに向かって飛んできたエルボーを刀の面で受け止める。がちがちと膠着、均衡した状態。いつの間にか街のはずれまで来れたらしくトラファルガーたちの姿や声はなかったが、代わりに街中から騒がしい音が聞こえ、後を追ってこないとなるとちゃんと行かせてくれたってことでいいんだよねと勝手に思うことにした。
急に均衡していた力がなくなって体が彼女側に傾いた瞬間、長い足が鋭く下から振り上がってくるのが見えて体を逆方向に思いっきり反らしたが、変な体勢で筋痛めそうである。
額あたりをがっと音を立ててヒール部分が掠った。顎につま先が当たってたら脳震盪でも起こしたに違いない。かすった部分から血が勢いよくでてきたがそれを気にすることなく伸ばされた足へ刀をスライドさせた。着物から伸びていた白い脚にぴ、と朱線が入る。
ほんとに殺る気あんのかよという挑発にあえて乗ってやる。どちらともなくまた拳を、刀を振りかざした。


この心臓尽きるまで
(これが最期と知っても)




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