01




真っ暗な空間で自分の周りがどうなっているかもろくに見えないまま、ぼんやりとした意識のまま歩き出す。
一歩踏み出した瞬間、ぴちゃと音が足元から聞こえた。
裸足の足が赤い。地面が、赤い。まるで血だまりのような、ぬるりとした感覚。
目が醒めるような、覚醒するような、はっとした感覚に思わず後ろを振り返れば、知っている人たちが血だまりの中倒れ伏す光景が広がっていた。双識、曲識に始まり全員零崎、一番奥には俺が倒れてる。心臓があるべき場所にぽっかり穴が開いていた。


「な、言った通りだろ?」


前を振り向けばシニカルな笑みを浮かべた赤色が天気予報で雨が降るって言っていたのに傘を持ってこなかったやつに傘を持ってこいってお天気のお姉さんが言っていただろと言わんばかりのさも当たり前のことを言うかのような調子で言ってみせた。お前が死んでも人生終わりってわけにはいかないという言葉が思い出される。
じゃあ、俺の終わりは何なんだ。
その問いは口から発することはなく、ただ赤い口紅が塗られた唇が弧を描いた。


『っ、ぐ、』


目の前にぎらりと鈍く光りを放つ切っ先が迫って来て顔面に刺さる前に首を思いっきり横に傾けると頬がぴりっとした。
白い枕にじわりと広がる赤を見たら、血の匂いが鼻孔をかすめたのが分かった。するとさっきの光景を思い出し、咄嗟にベットから転げ落ち、しかし間に合わず、床に胃液を吐き出す。
喉と胃液を吐き出す胃が酷く痛んだ。痛む両腕で腹を抱える。がたがた手が震えてなんだか全身寒い。
吐きながら脂汗が滲んできて、胃液に血が混じっているのが見えて、ようやくさっきのは夢かと自覚できた。
別に現実逃避しようだなんて思っちゃいないのに、嫌味な夢。赤色の言葉で自分がしでかしたこと、死んだ事の重大さに怖気付いて吐き気がしたわけではない。死んだら終わりじゃないことなんて零崎の俺だってよく知ってる。そういう人間の集まりだってことぐらい、お前なんかよりずっと知っているよ、人類最強。
息を落ち着かせながらよく周りを見渡すとサニー号の医務室ではないことがわかった。
というか見覚えがある。ルフィがいつぞや治療を受けていた部屋だここ。
まだ心臓をばくばくさせながらベッドの隣のサイドテーブルにあるフルーツのとなりに自分が手にしていたフルーツナイフを置く。
そしてとりあえずモップ探してこようと思って立ち上がった途端、内臓が軋むように痛んで体が倒れかけ、同時に重い鉄の扉ががらりと音を立てて開いた。
音を聞きつけたゾロがトラファルガーを連れてきたらしい。
ゾロに体をひょいと起こされ、ベッドに座らされる。


「おい、大丈夫か。」

『気持ち悪くなって吐いちゃった、胃液。』

「…また、やったのか。」

『また、ね。』


トラファルガーのその言葉が何をさして言ったのか分からないとすっとぼける気はないが、ゾロにはバレなくていい。
しかしそんな思いなど関係なしに、トラファルガーは口を止めない。以前の約束など知らぬと言うように話し続ける。


「いつまでこんなこと繰り返してんだ。」

『ちょっと黙ってくれない、前言ったこと覚えて、』

「その時は言わなかった。俺には別にメリットないことを続ける必要はない。」

『それを承知の上でお願いしたんだけど、』

「いずれバレることぐらい分かってないほどガキじゃねえだろ。」


まったくもってその通りだけど、だからって今言う必要あるのか。余計なお節介って言うんだよそういうの。
医者として俺は見逃せないと言葉を続けたトラファルガーは、何言ってんだこいつらみたいな顔をしたゾロに向き直る。


「ずいぶん前からこいつは無意識に自殺しようとしているんだが、知らねえか。」

「…は?」

「そこの果物ナイフ、血の脂が拭き取りきれてねえ。俺が前見た時はメスが枕に刺さってた。」


ナイフの血の脂を見てほんとだと他人事のような感想を抱く。ゾロの顔が見れない。喉が乾く。
俯いていた顔のあごに手を当てられてむりやり目を合わせられ、顔が思わず強張った。


「…これはさっき自分でやったのか。」


頬についた傷を親指でなぞられる。
ここで嘘ついてもどうしようもないので頷きひとつすれば、死にてえのかと尋ねられた。
いいや違う、答えはノーである。
渇いた唇を薄く開け、我ながら少し情けない声色で一言言葉を発した。


『殺したいだけ。』


そう言えばゾロは言葉に一瞬つまり、そのあとため息を吐いてバカか手前はとデコピンしてきた。


何かが欠乏
(生きていくには致命的な何か)





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