05




請負業とは、依頼人がいて初めて成り立つ。
誰かが俺を殺せと言ったのだろう、それを遂行するためにわざわざ違う世界まで足を踏み入れてなお依頼を遂行するのだろう、この哀川潤という請負人は。
さて、逃げろと言われ続けた存在をいざ目の前にすると簡単に怖気付いてしまうのだがどうすべきか。
否、世界を超えてまで殺しに来たというのにこのまま殺されずに終わる方法などないだろう。


「やり合う前に1つ警告というか、なんというか、まあ、見学人は見学人に徹しろ。これは表のやつが首突っ込むもんじゃねー。」

『あんたの狙いは俺だけでしょ、それは何のための言葉だ。』

「とばっちり食らわせたくねえのはお互い様だろ?」


それはそうだがそんな気が回るとは。おっと失礼。心が読めるんだったね。
しかし同意だ、頼むから見るだけにしてほしい。口は出してもいいけど手は出さないで。そもそもこの最強相手に横槍入れることができる奴なんているわけないんだろうけど。俺が知っている最強はやはりこの赤色しかいない、たとえこの世界であろうと最強は最強なのだと思う。そう思わせる力がある。
よせよ、そんな褒めてくれるな、別にお前が殺されなくなるとかそんな単純じゃねーんだあたしはと言う人類最強は照れている。いや単純じゃん。
お互い一斉に地を蹴り刀の面と拳がぶつかり合って、一気にぶわっと勢いよく衝撃が周りに広がった。大気がびりびりする感覚。刀を握る手も痺れた。
揺れる傾く大地など御構い無しに哀川潤は攻撃の手を緩めない。
対してコンマ一秒遅れる俺は防戦一方だ。一発一発が隙もなく漏れもなく早くて重い。
さすが、人類最強、勝てる気がしないのは初めて。
顔面めがけて放たれた拳をしゃがんで避けた瞬間、赤く鋭い脚が眼前に迫った。しゃがんだ時に体重を乗せた足が痛んで後ろに跳び損ねる。


「なんだ、手負いかよ。」


みぞおちにつま先がクリーンヒット、吹っ飛んだ体は木を何本かぶち抜き、岩に背中を打って止まった。息がうまくできなくて咳き込む。胃の中のものが血と混ざって地面に吐き出された、うわ汚い。地面に突き刺してブレーキ代わりにしていた刀を持つ手がガチガチと震える。チカチカする、目の前が、かすむ。
たった一撃でこれだよ。むしろ体に穴開かなかったことが奇跡か。
赤色は最後の零崎なんだからガッツ見せろと言いながら、目の前に仁王立ちした。


『さいご、』

「そうさ、零崎はもうお前だけだ。」


零崎一賊は崩壊したよ。
何を言われたのか一瞬理解できなかったが、分かった瞬間膝から力が抜けるように崩れ落ちた。ダメージを受けてとかじゃなくて、茫然自失のような脱力感に襲われたからだ。
それを表情一つ崩すことなく眺めながら哀川潤は零崎の経緯を語る。
お前を殺したのは想影真心。零崎は身内に仇なす者は皆殺しだからその性質ゆえにその家訓ゆえにその習性ゆえにその常識ゆえに、立ち向かって返り討ち。
零崎曲識ですら、だ。


『ま、がしき、が、死んだ?』


嘘だ。デタラメだ。笑えない。殺されるわけない。死んでいいわけない。零崎成り立ての奴じゃあるまいし、そんな聞いたことないようなぽっと出の奴にに殺されるわけ、


「ぽっと出とは言え、次元が違った、災害だったんだよ。たまたま偶然狙われたのが、はじめの一歩が、引き金が、お前だった。そんな未曾有の大災害のような奴にはあたししか勝てなかった。そんな災害によって零崎は皆んな滅んだ。お前が死んでもお前の影響は残るんだからな、死んだら人生終わりなんて簡単なわけないんだぜ。」


そう飄々と言い放つその口ぶりとは裏腹に言葉は真意を得ていた。
俺が弱かったせいなのかという言葉が一瞬出かけたが、そんな被害者面が顔出す前に零崎としての面が顔だしてきて、ふつふつと煮えたぎるような怒りが、憎しみが久しく身体中に巡り渡る。
零崎たる者、身内に仇なす者は、殺さなくてはならない。壊さなくてはならない。それを利用したというのならば、悪用したというならばなおさら、そんな奴生かしておくわけにはいかないのだ。


『ならば、そうだとするならば、俺はその想影真心を壊すしかない。』

「はん、そう言い出すと思ったから殺される前に依頼人は殺すように依頼したんだろうが。」


それは矛盾した依頼だろ、なんだそのやられる前にやれを歪ませて解釈したようなトンチンカンな依頼内容は。
どういうことだと口にする前に哀川潤が得意げにシニカルな笑みを浮かべながら拳を構えた。


「安心しろ、あたしはハッピーエンド至上主義だ。どうせやり合うならもうちっと回復してからの方が後悔残んなさそうだから、待ってるぜ。はっ、何であたしが殺人鬼なんかに気ィつかってんだか!」


殺人鬼相手になんて破格の待遇と言ってのける請負人。防ぐ気力も体力もない。
為すがまま重い拳がズドンとみぞおちに入って、今度こそ意識がブラックアウトした。
回復させる気あるのかというツッコミは口から出すことができなかった。


間も無く、沈む

(余命幾ばくか)




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