04
クジラの樹から降りていく道中、これからについて話し合いが行われた。
白ひげ海賊団一番隊隊長だった不死鳥マルコに声かけて戦力アップを図りたいネコマムシ、ワノ国に残る同志が気になる錦えもん、サンジを追いたいルフィらそれぞれ異なるため、ワノ国に集合という話でまとまる。
俺もサンジのところに行きたいが、あいにく怪我がまだ治っていないため足を引っ張りうるので断念。
ワノ国チームになりそうだ。
そんな話をしながら森を抜け、もう少しで拠点に着きそうなところで、視界の端を何かが掠めた。
嘘だろ。そう思いたくなるようなそれは俺の視界を持っていくに十分で。
まるで白い布に垂れた赤い血のように目立つそれは、こちらが気づいたことに気づくと身を翻して森の暗がりの中に消え、声が出かけ、足が出かけたが、止まる。
行ってはならないことを警告するがごとく、追おうとした足が本能的にびたりと一歩踏み出せなくなり、そんな怪しい挙動に気づく人も何人かちらほらといるが、意識を向けてられない。
俺はそいつに会ったら、遭ったら、遭遇したら、遭遇してしまったら、姿を見る前に逃げろって言われてて、そんなことを思い出して、鼓動が一気にうるさくなる。喉がひきつるように渇いて、脂汗なんだか冷や汗なんだかよく分からない汗が体から出てくる。じとりと額に前髪が張り付く。何でここにいる、何で俺がここにいることを知っている、どうやって、どうして、嗚呼、嵐が来たように心がざわつく。
しかしそれでも、どうしても、行かなくてはならないと足を踏み出し、どこへ行くんだという声を置いて彼らが進む反対方向に走り出した。
距離およそ1キロ弱。揺れだした大地は気にならない。
森の開けたその空間に異質なその赤色はいた。
足がすくむような感覚がする。恐怖というべきか。
2人追ってきたのは知っているが、頼むからただ見ていてくれればいい。そう願った。
「よォ、零崎。探したぜ。こんだけ姿形変わんねーまま転生するってすげーな。」
『二度目の再会という、たったそれだけの、それっぽっちの縁にもかかわらず、死人に対して探したという言葉をかけるのか。
――人類最強。』
赤。赤。赤。頭からつま先まで真っ赤なその人は、ここにいるはずのない異質だった。
声が震えてしまったのはきっと伝わっているだろう、ひどく情けない。
異質を言うならお前もだろと言葉を返される。勝手に心読まれてるとはプライバシーもへったくれもない。
「あたしがどうやってここにいるかとか、見学者は去れとかそういうことは今はどうだっていい。どうしてあたしがここにいるかすら、語るに及ばずだ。」
『請け負ったからでしょう。俺があんたに聞くべきは何を請け負ったかだ。』
「それすら語るに及ばずだな。どうせ察しがついているのにわざわざ語らせようとは無粋だと思わねーのかよ。」
『理由なくして殺すのは俺たちだけでいい。俺たち殺人鬼の専売特許のようなものだ。零崎の、殺人鬼の特権だ。あんたは別にそうではない。殺人はしたことあるにせよ、殺人鬼ではない。劣悪にして最悪な殺人鬼ではない。しかし無粋であるならば、お気に召さないならば質問を変える。請負人、俺を殺しに来たんだろう。』
「その通り。やっぱ知ってんじゃねえか。」
『もう一つ、何で俺が生きていると。』
「お、誰に何のためには聞かないとは。…ははァ、まあ関係ねーよな、どうしてここにいるかはそれが理由だ。それだけで十分だもんな。2個目の質問に答えるならば、死体どころか血痕がなけりゃ、普通飛んだと思うだろ?」
『どんな常識だそれ。そんなことで分かるのか。』
「そんなことだよ。世の中そういうバカらしいことが意外と通用するもんだぜ。さて改めて、あたしは請負人、哀川潤。知っての通りだ。気軽に潤ちゃんって呼べ。零崎嘉識、あたしはお前を殺しに来た。」
シニカルな笑みを浮かべてあっさり殺人予告。
汗が顎を伝ってぽたりと地面にシミを作った。
殺るか 殺られるか
(突然のエマージェンシー)(冷静なんて無理)
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