01




がしゃんと微かに物音がひとつ。パンクハザードから出航し、ドフラミンゴに今の地位である七武海と国王の座を放棄するよう脅迫したその夜、医務室前に様子を見に来た瞬間、中から何かが割れた音が聞こえた。
扉を勢いよく開けると、そこにはベッドの上で寝ていたはずの少年が掛け布団といっしょに転げ落ちてうずくまっていた。
シーザーをまたぼこぼこにしたルフィが毒の成分を吐かせてなんとか治療薬を作って落ち着かせたところである。
サイドテーブルにあった水の入った瓶が床で割れているのが見え、音の正体はおそらくこれだが、しかしメスがなぜか彼の枕元に突き刺さっていた。


「おい、大丈夫か!敵か!?」

『…いや、敵はいない。』

「いないだと?なら何だ、自分で刺そうとしたのか。」

『そんな簡単に、言うな。言ってくれるな。黙ってくれないならここであんたを殺してもいい。』


額に汗を浮かべながらまだ青い顔で割れた瓶の破片を掴み、首にその破片をあてがわれる。
手のひらが破片で切れて、ぽたぽたと血が流れ出した。


「…血が出てるぞ。」

『黙っていると約束できるのかと聞いているんだけど。』

「分かった、言わねェから破片から手を離せ。」

『…。』


無言で目が合ってその爛々とした瞳にぞわりと毛が逆立つ感覚を覚えたが、それも一瞬のことで、手からぱっと破片を離せば手のひらに入った赤い線が見えた。
思わず眉間にシワがより、その様子を見た少年が青い顔をしながらも少しおどけたような表情で話し始めた。


『別に、…珍しいことでもないんだ。俺が零崎でいる証拠なんだ。身内に仇なすものは殺すが信条の俺は、兄を殺したこの海賊団を殺さなければならなかった。けどそれができなかった。知るのが遅かった。彼らはもう身内になっていた。この矛盾は俺を零崎たらしめない理由になる。その矛盾がある限り、俺が彼らを殺さない限り、俺は零崎でいれない俺を殺そうとしている。これを彼らが知ったところで何もできないし変な感情にさせるだけってことは俺が知っているから、だから、こうして言うなと言ったの。』


だから、俺をもう放っておいて。
言うだけ言って、最後のそのつぶやきは消えそうなほど小さな声で、手のひらの傷を覆うように包帯を巻きながら一体誰に向けて言ってんだという言葉を飲み込んだ。


もうイヤだよ。

(弱々しい声が暗がりに消えた)




139/224

 back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -