02
嘉識がモドモドを食らい、煙が辺りに立ち込める。
モドモドを食らわせた彼女はもちろん、仲間であるナミたちも嘉識のあっけない死を思った。 さぁ、絶望的な表情を浮かべる彼らにもとどめを、と。
「よくも嘉識を!!!」
「あなたたちもすぐに後を追うわよ。」
「くっ…!」
『―――へぇ、誰のあとを?』
「っ!?」
ぞわり、とした何かが辺りを支配する。煙が立ち込めていた方へ、その声がした方へ誰もが目を向けると、さきほどより幼い姿になった薄ら笑いを浮かべる嘉識が立っていた。
『16-12=4、17+4-12=9でしょ。俺今9歳なわけ、初めて人殺した年の俺に"遭う"だなんて不幸だね、すごく同情する、ただの人災でしかない。災害だ、嵐のように、暴力的でわがままで自己中心的で。だってまだ殺意のコントロールができてない身体だ、"呼吸"はいつでも最大限、いわゆる深呼吸ってやつなわけ。』
「な、んで、」
『いや何でかと言われてもこれは理論的ではないことだけど、―――前世って信じる?俺17で死んじゃった、殺されちゃったんだよね。いきなり通り魔に襲われたように、あっという間に素手で心臓ぶちぬかれた。』
ね、かわいそうだろ、哀れだろ、俺もあんたに同情するから、あんたも俺に同情して殺されてよ。
あ、これ、この世界の誰にも言ったことないんだった。
普通の表情を浮かべながら、言葉を口にする。
『―――零崎を、開戦する。』
ぎらりと鈍く光る刀を抜き取ったその瞬間、船内から爆発音、そして、ゾロとサンジが吹き飛んできた。すぐに蔦でとらえられてしまったが、俺にはなんも仕掛けてこない、ああ一瞬で萎えた、びびってんなよ。
そして、爆発があった場所に目をやると、ゼットの右腕にはルフィがいた、…あの男なら相手してくれるだろうか。
ルフィを放り投げたと同時に弓をしならせ、その巨躯に2本矢を放つ。勿論右腕で弾かれた。
「なっ、嘉識!?」
「懲りない海賊だなァ!」
『こちとら仲間やられてんだからさ、相手してよ。』
刀と拳がぶつかって高い金属音が鳴り響いた。
そのぶつかった威力の反動で体をひねって宙に跳び、剣を肩に向けて振り下ろすが、右腕でまたもや跳ね返された。
地に足を着いた途端、右腕がこちらに迫ってきたのを避けた、ら、
「生身でもお前みたいなガキは十分だ!」
『ぐっ』
左のストレートが横っ面に入り、咄嗟に矢を左拳につきたてた。
吹っ飛ばされた時にこめかみから流れる自分の血と男の血が混ざって垂れるのを見て興奮が高まる。ああ、楽しいなんて思っちゃいけないのに、どきどきする。
続けてきた右ストレートを剣で流し避けて、背後に回り込んで、その背に矢をまた放った。もちろんそんな矢は拳を振った風圧で当たらず、でかい図体のくせしてなかなかの速度、厄介だが、楽しい。
自分でも高揚して笑みがこぼれるのが分かる。
しかし、男は追撃をしてこなく、視線が弓矢に向けられているのに気付いた。
『なに。』
「いやなに、その弓矢、見覚えがあるぞ。」
『似たようなものなんていくらでも…、』
「ライルという男は今どこにいる?」
『!』
「やはり、知っているな。」
俺の、この世界での産みの親は父がライル、母がローズ、兄はラム。
何でこんな男と自分の父が関わりあるのか知らないし、知らない父親だった人のことなんて知ろうともしなかったが、
『…父親。死んだよ、いや殺されたよ、8年前に。』
「なんだと?はっ、どうりで、自分のガキが海賊だなんて、あいつなら止めてただろうに。惜しい男だ。」
『どういうこと。』
「お前、自分の父親がどういうやつか知らないみたいだな。その弓矢はお前が生まれたであろう島特有の彫りと細工が施されているから分かりやすい。」
『いや、だから、どういう、』
「いいだろう、お前が生きてまた会う時が来たら教えてやろう。確認だ、殺されたんだな、ライルは。」
『質問に答えろって言ってんだよ!』
真正面から突っ込む、自分から殺意だけじゃなくて焦りが混じった怒気も発せられていることが感じられた。
頭に血が上っている、さきほどの興奮とは違ったものが胸中を渦巻く。
「生意気な口をきくなガキが!」
刀を右腕でつかまれ、咄嗟に刀から手を放して後ろに跳んで目の前で手をクロスさせたが、その腕ごと強力な拳で砕かれ、自分の肺から空気が全部出たのを感じつつ重くなる意識に逆らえずに倒れた。
撲滅シルバー
(その右腕は正義か)(悪か)
106/224 ← → back