08.過去の因縁話は5年前にさかのぼる。良守と珠守は9歳、時音は11歳の時のことだ。まだ小学生だったが、すでに夜の妖退治はこの3人が行っていた。子供の2歳差は成長にも大きな差がある。時音はもうすぐ中学生で、ある程度は体が成長し始めていた頃だった。対して良守と珠守はまだ成長期を迎えておらず、まだまだ未熟な子供だった。 「はあ、はあ、よしにい、まって…!」 「!ごめん珠守、ほら、手つなごう?」 同年代の子供の中でも、小さいほうだった珠守は、いつもふたりについていけなかった。良守は気を遣って待ってやるが、それにしびれをきらした時音がさっさと退治してしまうという構図ができあがっていた。 「あんたたち、トロい。やる気ないなら帰ってもらっていいのよ?」 「ハニー言うねぇ。ヨッシーもプリンセスも頑張ってんだから、ちょっとくらい許してやろうぜ?」 白尾が珠守をプリンセスと呼ぶのには、単純に可愛いからという意味と、守られてばかりで何もできないからという皮肉がこめられていた。珠守もそれを分かっていて、烏森に来る時はいつも後ろめたい気持ちでいた。 「みんな、ごめんなさい…。足引っ張っちゃって…。」 うつむいて歯を食いしばった珠守に、良守と斑尾が寄り添った。 「気にすんなって!ていうか俺こそごめん!置いていっちゃったな…。」 「ううん、私がもっと速く走れればいいだけなの。ごめんなさい。」 この頃から珠守には、どうして自分に方印が出たのか、自分は結界師には向いていないんじゃないかという暗い気持ちが芽生えていた。素質もなければ体力もない。そんな自分が嫌だった。 「気にしちゃあ負けだよ。アンタたちは雪村の娘より年下なんだから、その分経験も浅いんだ。これからきっと強くなれるさ。」 斑尾はいつも時音にコンプレックスを抱くふたりを励ましていた。もっとも、墨村の次期当主を立派に育てようとしていただけかもしれないが。 「あっちの犬よりはアタシのほうが鼻がきく。あいつらよりも先に見つけてあげるから、さっさと滅しちまいなよ。」 そう言って斑尾はすんすんと鼻を鳴らした。ゆらゆらと空中をただよって、妖を探す。 「あ、あっち…。」 珠守が大きな木を指差したのと、斑尾が「あそこにいるね」と呟いたのはほとんど同時だった。 |