09.後悔と使命

この子は妖の気配に敏感だ、そういち早く気づいていたのは斑尾だった。良守には咄嗟の状況にすぐ対処できる瞬発力と、大きな結界を作ることができるパワーがあり、珠守には結界や式神を複数同時に操ることのできる力配分のうまさと、斑尾や白尾にも負けない妖への敏感さがある。
そしてこのふたり、手を繋いで行動することが多いが、手を繋いでいる間に限って珠守はあまり疲れる素振りを見せず、良守は適切な大きさの結界を成形することができる。斑尾はまるでふたりが力を共有しているようだ、と思ったが、誰に伝えるわけでもなく黙っていた。

「ほら、あそこの木。良守、アンタまるまる囲えるだろう。木ごと滅しちまいな。」

珠守もこくんとうなずいて、良守の手を握った。良守は半信半疑ながらも大きな木を囲う。

「ほんとにこれでいいのか?」
「うん、よしにい、滅して。」
「わかった。珠守、ちょっと力貸してな。」

その言葉を受けて、珠守は両手で良守の左手を包み込んだ。がんばれ、と念じると、自然と良守に力がみなぎってくる。

やっぱり、この子たち…。斑尾が自らの立てた仮説を確信したときだった。

「お、おねがい…、やめて、ころさないで…。けがしちゃって、ここにいたらなおるって聞いたから…。なおったらすぐ出ていくから…、おねがい…!」

木の影から幼い少女の妖が姿を現した。良守は同情して、結界に込めた力をゆるめてしまった。

「え…、ほんとにちゃんと出ていくか…?」

よしにい、だめ!という珠守の叫びと、やめな!という斑尾の声が同時に響いた。

え、と良守が再び力を込めようとしたが、時すでに遅し。

「甘いなぁここの守護者は!ガキじゃねぇか!おかげで完全復活だぜ!!」

巨大に変化した妖は結界を破り、ふたりに襲い掛かった。

事態を予測していた珠守はすぐさま良守を突き飛ばして印を結ぶ。

「方囲!定礎!」

珠守は狙いを定めるが、妖のほうが何倍も動きが速い。攻撃はすぐに珠守に及んだ。

「ぎゃっ!」

脇腹に攻撃を受けた珠守は吹っ飛び、校舎の壁に体を打ち付けて咳き込んだ。涙で霞む視界の中、どうにか意識は保ち続け、定めた狙いを外すことなく、結界を成形する。

「…っく、……け、つ!!」

げほっ、と強く咳き込みながら珠守は妖を囲んだ。しかし珠守には滅するだけの力がない。その時、心配した良守が駆け寄ってきて、珠守を抱き締めた。その瞬間、珠守に力がみなぎってきた。

これなら。

ぴん、と安定した結界に最大級の力を込めて珠守は唱えた。

「滅!!!」


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