07.学校生活

学校は基本的には手抜き。式神を作るのが得意な珠守は、それはそれは精巧な式神を作って授業を受けさせるし、良守もバレない程度のそれなりの式神を作って授業に送り込んでいる。給食だけは自分が食べに行くが。

屋上に良守が結界を張り、その中でふたり仲良く眠る日々。夜の疲れは3時間睡眠なんかでとれるはずもない。

「毎日毎日仕事する必要あるのかな、1日くらい妖放置してもバレないでしょ。」
「そうだよなぁ、でも夜中に烏森の力でめっちゃ変化した妖が、昼間も暴れてたら授業どころじゃないんだろうな。」
「うーん、そうかぁ。校舎も壊れちゃうしねぇ。やっぱり毎日やるしかないのかぁ。」

よいしょ、と珠守は上体を起こした。2本指を立てて、印を結ぶ形にする。良守はそれを横目で見ると、また眠りにつこうとした。

「結。」

珠守の柔らかな声が静かな屋上に響いた。滅する対象もなく生み出された多くの結界は、ひし形になるようにきちんと積み上げられた形でそこに存在していた。珠守と結界との距離は約5メートル。まあまあの距離だ。近寄って確認すると、結界同士にズレはなく、大きさも一定だ。

「解。」

今度は良守を起こさないように小さくつぶやいた。跡形もなく消え去った、結界があった場所を見つめて珠守はため息をついた。

小さい結界なら同時にたくさん作れる。少し大きいものになると5個が限界。ズレなく思った場所に成形することはできるが、結界ひとつひとつに強度はない。それに比例して、滅する力もあまり強いものではない。

まだまだだな、と思ったが、学校で修行ができるわけでもないので再び良守の横に寝転んだ。

「…珠守はさ、なんで烏森で仕事してんの?」

どうやらまだ眠ってはいなかったらしい良守が、空を見上げながら言った。

「なんで…って、そりゃあ方印が出たからっていうのもあるけど、わたしは…。」

強く、なりたいから。誰にも心配や迷惑をかけたくない。ひとりで前を向いて立ちたい。そしてあわよくば、誰かを守りたいから。

「俺は、この烏森で誰かが傷つくのをもう見たくない。珠守や時音が傷つかなくて済むように、守れるように、強くなりたい。」

だから、烏森で毎晩眠い目をこすって妖退治をする。

どちらからともなく手が繋がれた。珠守の手は少しだけ冷たくて、良守の手は少しだけ温かい。それが二人にとっては心地良い。

珠守は繋いでいない手でそっと自身の脇腹を撫でた。服に隠れたそこには、大きな傷跡がある。

「もっと、強くなりたい。」

ふたりの願いは烏森の空に消えた。


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