10.負い目

「天穴!」

慌てた様子で走ってきた時音が、すぐさま天穴を構えた。散り散りになった妖は天穴に吸い込まれていく。

「珠守…、珠守!!ごめん、おれ…!」

良守は治れ治れと願いながら珠守を強く抱き締めた。珠守は壁を背にしたまま強く咳き込み、お腹を抱えるように背中を丸めた。

「分かったでしょ?ここは妖に力を与えるんだ。無害な妖でも、ここにいれば一気に凶暴になる。」

天穴を終えた時音がふたりに歩み寄る。説教を続ける気でいたが、珠守が怪我をしているのを見ると顔色を変えた。

「珠守、大丈夫!?どこ怪我した?見せてごらん?」

時音は優しい声をかけた。珠守の前にしゃがんで、小さな腕をそっとほどいてやる。

「ときね、ちゃ…、おなかいたい…。」
「わかった、おなか見せて?」

普段から年長者として面倒を見ていた時音。厳しい言葉もあるが、双子のことを嫌っているわけではなかった。

「珠守、ケガ…!」

良守は妹の怪我を見て驚愕した。脇腹がえぐられ、とぷ、と音が聞こえそうなほどに血が溢れている。もちろん腹部を抱えていた腕も血まみれになっている。時音は努めて冷静に振る舞おうとした。年長者の自分が慌てたらだめだ。

「よしよし、痛いね。おうち帰って手当てしてもらおうね。」

今ここでできることは何もないと判断した時音は、珠守をそっと撫でて立ち上がった。

「帰るよ良守。このままここにいたら珠守が危ない。早く帰って手当てしなくちゃ。」

半泣きになりながら良守はうなずき、珠守をおぶろうとした。血の気がなくなって真っ青になっていく珠守が、怖くてたまらない。もしこのまま死んでしまうなんてことになったら。

その時、動揺する良守の背後から、聞きなれた低い声が聞こえた。

「ちょっと遅かったか。良守、そこに珠守寝かせて。無理に動かすと危ない。」
「あ、にき…。」

突如として現れた兄・正守に疑問を抱く暇もなく、良守は珠守を寝かせた。時音も正守の登場に驚いている。どうやら時音が呼んだ訳ではないらしい。正守が式神を出すと、式神はすぐさま珠守の止血を始めた。

「まさ、にい…。きてくれた…。」
「ああ。がんばったな、珠守。遅くなってごめんな。」

謝る正守に珠守は微笑んで、ゆるゆると首を振った。

「たいした子だよ、アンタ。妖を見つけたときから正守を呼んでたね?」

斑尾が言うと、珠守はにへ、と笑った。肯定の意味らしい。珠守は妖の気配を感じたときから、自分たちでは手に負えない可能性があると直感していた。その時すぐに家へ式神を送り、救援を呼んでいたのだ。

どくどくと溢れる血液が式神の手を濡らす。もう話すのも難しいようで、珠守は苦しげな息を漏らしている。

「珠守…。おれがなおれなおれってしたらなおるよな?なあ…。」

良守は涙目で珠守の手をとった。ぎゅっと強く握り、治れと念じる。そんなことで治るのか?と、正守と時音は目を見張った。白尾はなんとなく気づいているようで、斑尾にいたっては「もっと強く念じな。」と助言までしている。

「う…。よしにい、もっと………。」

珠守が小さな声で言った。その瞬間、周りにいる全員にも分かるほど良守から力が溢れ、珠守の方へ流れ込んでいった。

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