11.決意じわり、じわりと溢れていた血が、勢いを弱めていく。次第に珠守の頬に赤みがさしてきた。「珠守…、珠守…!」 多くの血を失ってはいるが、致死量ではなかったらしい。まだ少し冷たい体を良守が抱き締めると、弱々しく珠守が腕を回した。 「もう大丈夫そうだな。」 正守のその言葉に、式神は姿を消した。仕事着は血に濡れているが、傷はふさがっており、血も止まったようだ。 「痛かった…。よしにいのバカ…。」 本来「痛かった」のひとことで済む怪我ではない。傷が塞がっていることもあり得ないのだ。それでもこのふたりはそれが当たり前のことのようにしている。いままで妖退治中にできた怪我は、いつもお互いに治れと念じれば治ってきたからだ。 「ごめん、ごめんな珠守…!」 良守は珠守を起こし、再びぎゅっと抱き締めた。珠守も今度はそれに応え、抱きしめ返す。 「もう大丈夫だから。まさにいも来てくれたし。ね?片付けて帰ろう?」 泣いている良守の背中をとんとんとあやすように撫で、珠守は言った。良守はなんとか泣き止んで、こくんとうなずいた。 自分があの時油断しなければ。言われたとおりに滅していたら、珠守が大怪我を負うことはなかった。もしいつものように治れと願って、治らなかったら。考えれば考えるほど、恐ろしい想像ばかりが湧いてくる。まぶたの裏に焼き付いた、血を流す珠守の姿は、きっと一生消えることはないだろう。 もし、はじめから自分にあの木を囲えるだけのパワーがあれば。良守に任せるまでもなく、ひとりで滅することができていただろう。そうすれば今みたいにみんなを不安にさせることもなかった。妖の攻撃からすばやく逃げることができれば、脇腹に直撃することもなかったはずだ。 良守は己の甘さを恥じ、珠守は自らの無力を悔いた。 「…ごめん。」 ふたりが自分にしか聞こえないほどの声でつぶやいた謝罪は、烏森の闇に溶けた。 それからというもの、良守は誰かが傷つくことを恐れ、珠守は自分の力不足に敏感になっていった。それとは裏腹にふたりは修行に励み、少しずつ技に磨きをかけた。苦手なこともそこそこに、自分の得意分野を伸ばすように。それは時音も同様だ。いつまでも過去に怯えるふたりを支えようと、修行を重ねた。 そして、5年の月日が経過したのだった。 |