どうくつ


「これに足通して。んで、俺から離れねーこと。」
「あぃっ!」

しっかりとその胴に浮き輪を装着したみお。総悟と繋いだ手は絶対に離すまいと強く握った。風呂で溺れたという前科持ちだから、ふたりとも慎重になっているのだろう。

熱く焼けた砂浜から一歩海へと足を踏み出せば、火照った体に心地よく、ひんやりとした海水が足を濡らした。

「つめたっ!おぉ、みずがいっぱいでさァ…。」
「海ってのは、水は水でも海水っつってしょっぱいんですぜ。ほら。」

ざぶざぶとみおの足が届くギリギリの深さまで進む。総悟は海水に濡れた手を突き出した。ぺろり、とみおは舐めると、目を見開いた。

「しょ、しょっぱいぃぃ…!」

ぺっぺっと海水を吐き出す。その様子を見て、総悟は笑う。微笑ましいからではない。その塩味に苦しむみおがおもしろいのだ。サドの血が騒いだと言わんばかりの黒い笑みである。

「じゃあもっと深い方に行きやすぜ。」
「あぃっ!」

総悟は浮き輪の紐を掴んで沖へと歩き出した。まだまだ総悟の太ももが濡れる程度だが、みおにとっては十分深く感じられる。もう足はついておらず、ただぷかぷかと浮いているだけだ。

「そっ、総悟ぉ…。あし、ふわふわしてやす…。」

じたばたと足を動かして、その浮遊感をやり過ごそうとする。

「暴れると転覆しやすぜ。捕まってろィ。」

総悟はみおと向きあう。両手を差し出すと、即座に小さな手が重ねられた。流されて行かないようにしっかりとその手を握ると、ようやく安心したのかみおは動きを止めた。

「んー、ぷかぷかぁ、たのしーでさァ!」
「そうかィ。」

じりじりと照りつける太陽も、海の冷たさで緩和されて心地よい。総悟の胸のあたりに水面がくるほどの深さになると、いくらか波も穏やかになった。透き通る水は太陽を反射してきらきらと輝いている。目を凝らせば波の模様が描かれた水底が透けて見えた。

日差しを浴びながら波に揺れ、適当にぱしゃぱしゃ泳いでいると、岩場に割れ目が見えた。

「みお、あっち行ってみやしょう。おもろそうでさァ。」
「あぃっ!」

肌を焦がす日光からにげるように、ふたりは洞窟のようになっている岩場に向かった。




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