おもかげ
総悟は、みおが泣き止んだのを確認してから朝礼に参加した。案の定土方には小言を言われたが、みおがいないのを知ると何も言わなくなった。何事かあったのを察したのだろう。
当の総悟は朝礼に参加したものの上の空であった。というよりは、みおのことを考えていた。食事は何を与えればいいか、幼児は風邪薬を飲んでもいいのか。そんなことを考えてぼーっとしていると朝礼は一瞬だった。
解散後は食堂に行き、自らの食事をお盆に乗せた。食べている間にみおが起きてぐずったら大変だ。総悟は足早に部屋に戻った。
「ん…、そう、ご…?」
「わりィ、起こしちまいやしたか?」
「んぅ…。あつい…。」
にょきにょきとみおは布団を這い出た。起き上がったが、その表情はぐったりしている。総悟はお盆を置いてみおのそばに寄る。
「体冷やすんじゃねーや。いいから寝ろィ。」
「やー…。総悟といっしょがいいでさァ…。」
みおはついに布団を脱ぎ捨てて総悟に抱きついた。総悟としては寝かせたいのはやまやまだったが、またぐずられても困る。暑い暑いと言っても、風邪を引いている時に体を冷やすのは良くない。総悟はみおに上着をかけてやって、座ったまま横抱きにした。これなら暑すぎることはないだろう。
本当なら額を冷やしたり食べやすい食事を与えたりしたいのだが、みおは総悟の腕の中で安心したように眠ってしまっている。まだ朝食もとっておらず、お盆の上の食事は湯気を立てているままだ。さすがに空腹を感じ始めたが、自分はそうとうこの幼児に甘いらしい。少し赤い頬を撫でてやれば、心地よさそうにするみおを見ると、空腹すら忘れられる気がした。
「う、ふぇぇえぇんっ!」
「びっ…くりした。突然泣くんじゃねーや。」
みおの寝顔につられてうとうとしていたら、突然泣き出した声で意識を呼び戻された。抱き直してあやすようにしてやる。熱が出ると泣くのか。幼児を通り越して赤子のようだ。
「おかーさま…っ!」
みおは総悟の首に手をまわした。しっかりとしがみついて、よりいっそう激しく泣く。
「…おかーさま、じゃあねェんだけどな…。」
夢でも見ているのか。そういえば以前、自分の髪をかき混ぜながら「こんないろの、おかーさま!」と言ったことがあったか。髪の色が似ているのだろうか。自分の姿に、亡き母親を見たのかもしれない。
「いか、ないで…。」
ぎゅ、と腕に力がこもった。みおの髪を撫で、背を撫でた。
「どこにも行くかよ、バーカ。」