はっけん


ここで飛び出しては相手の思うつぼだ。姿こそ見えないが、こんなところに幼児を放置しておくわけがない。みおをエサにするなら、誰かみおが真選組にいる幼児だと知っている者が怪しい。と言っても考えられるのはごくわずかだ。真選組以外なら万事屋しかいない。しかし、彼らがこんなことをするはずがない。

…考えるのは後だ。まずはみおの安全を確保することが第一。総悟は周囲を見回した。刀の柄に手をかけ、臨戦態勢を整える。そして、一歩、また一歩とみおとの距離を縮めていく。たどり着くまでが永遠に感じるほど、重く、ゆっくりと時間が流れていった。

「みお、ケガはねぇですかィ?」
「むっ、んー、…ぷはっ。総悟…?」

ようやくみおのそばに駆けつけて、そっと口のテープを剥がしてやった。パッと全身を見たところ、大きなケガはないらしい。ひとまず安心だ。

次に目隠しを外そうとして、総悟はその手を止めた。ひとつ、またひとつ。殺気が増えていく。

「みお、絶対目隠し外すんじゃねーぞ。ついでに耳も塞いどきなせェ。」
「えっ、なんっ…!?」

ぎゅっ、と先ほどよりきつく目隠しが結ばれた。その後先に手の拘束だけが解かれて、その両手を耳に当てされられた。みおの小さな手の上から、総悟の大きな手が耳を覆う。こんっ、と額と額がぶつかって、総悟の手が離れていった。みおの恐怖感は一気に増したが、総悟の言いつけを守らないとどうなるかは、すでに現在の事態が立証してしまっている。だから何も見えない、何も聞こえない中でも、みおは動かなかった。

それでいい、もう何も見るな、何も聞くな。
こんなにも恐ろしく、無情で、慈悲もない世界に足を踏み入れる必要はない。

━━━━俺は今から、人を、殺す。

総悟は刀を抜いた。ゆらり、と振り返ると、狭い路地には攘夷浪士たちがひしめき合っていた。

「どっからでもかかって来なせェ。コイツに触れた奴は…、」

スーッと刀を肩の高さまで上げる。「殺す」と言い切っていたかどうかは定かではない。だが確かに、この言葉が開戦を意味した。

刀と刀がぶつかり合う音。斬りかかる時に発する雄叫び。指の隙間から聞こえたが、みおはすべて聞こえないフリをした。

総悟に怒られて、ふてくされて屯所を飛び出して、万事屋を目指したのはいいものの、途中で見知らぬ人に声をかけられて立ち止まってしまった。もちろんみおも真選組に住むものとして、知らない人にはついて行かないだの、道路を渡るときは左右を確認するだの、総悟以外の人からも口を酸っぱくして言われていた。だが無視しきれなかったのは、見知らぬ人の発するにおいが尋常ではなかったからだ。悪臭というよりは、異臭。みおはそれに覚えがあった。大江戸スーパーの裏で感じたにおい。火薬のそれではなく、攘夷浪士の纏う血のにおいだと、みおは一瞬で悟った。

だから、逆をついて屯所に連れて帰ってしまえば一件落着。さらにはたくさん褒められるだろうと思って、罠にはまるフリをしたかっただけなのだ。

もちろん大人の力に敵うはずなく、あっさり拘束されてしまったのだが。

「そー、ご…。ごめ…な、さ……。」

ぽつり、またぽつりと、みおはごめんなさいを繰り返した。

「終わりやした。屯所に帰るまで目隠しは外したらいけやせんぜ。」

どれくらい経ったのだろうか。きっと短い時間だったはずだ。これまでのことを振り返っているうちに、総悟は敵をひとり残らず倒してしまっていた。

ふわり、と総悟はみおを抱っこした。先ほどのように担ぐのではなく、優しく、優しく。血のにおいが鼻につくのか、みおは終始総悟の服に鼻を押し当てていた。




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