ゆくえふめい
「ふーっ…。」
総悟はゆっくり息を吐いた。竹刀を握りなおし、前を見定める。正面にゆらりと敵が浮かぶ。敵は剣を構え、こちらに向かってくる。総悟は何度も何度もそれをイメージし、斬っていった。
無性に苛立つ。先ほどのみおの言葉が原因だろうか。動きを止めて汗を拭った。
「あいつ…ちゃんと寝てやすかねィ…。」
勝手にしろと言った手前、心配してしまうなど滑稽な話だ。しかしやはり幼児をひとりにしてしまったのは気がかりで、稽古もそこそこに、部屋に戻った。
そーっと、音を立てないように障子をあけた。目の前の布団はこんもりと盛り上がって動かない。寝ているのだろうか。
布団に歩み寄って様子を伺う。潜り込んでいるのか、姿が見えない。少しくらいなら、めくっても大丈夫だろうか。
「…ちゃんと、寝て……っ!?」
思わず勢いよく布団をはぐった。そこにあったのは安らかに眠るみおではなく、積み上げられた枕だった。
「どこ行きやがったんでさァ、あのガキ…!」
ふと横を見ると、さっきまで使っていた新聞紙の筒がない。まさか。
総悟は急いで隊服に着替えた。刀を引っ掴んで部屋を出る。まず向かった先は道場。もしかしたら自分を追って行き違ってしまったのかもしれないからだ。しかし考えられるすべてのルートを通ったがみおの姿はなかった。
「あとは…旦那のところですかィ…。」
危ないから勝手に出るなといつも言っているのに。道順を覚えているとも思えない。ただみおのことなら「こっちからにおいがしまさァ!」などと言って走り出しそうだ。しばらく屯所内を探しまわった後、総悟は往来に出た。
めんどくせェ。ぼやいたところでみおは戻ってこない。小さなその姿を見逃さないように視線を下に巡らせながら、総悟は万事屋まで急いだ。