おけいこ


「てーぃっ!」
「うわぁぁ、やられたぁぁぁ!」

あいつら、何やってんだ。沖田総悟は目の前の光景に対して率直にそう思った。みおが、新聞紙を丸めて筒状にしたもので隊士たちをぽこぽこ叩いている。それだけならまだしも、隊士たちまでノリノリでやられ役を買って出ている。

「はぁ…。みお、昼寝の時間でさァ。」
「まだねないー!」
「オメー昨日もそうやって言って夕方にぐずったじゃねーかィ。いい加減にしろィ。」
「うー…。」

"昨日も"、と言ったが正しくはそうではない。かれこれ一週間近くこのやり取りをしているのだ。

「オメーらも、あんまりみおを煽るんじゃねぇや。そんなにやられてぇなら稽古つけてやりやしょうか?」

黒い笑みで総悟が言うと、隊士たちは謝りながら去って行った。未だに不服そうなみおを担いで部屋に戻る。みおが駄々をこねて大人を困らせることはかつて無かったはずだ。なのになぜ、今になって駄々をこねはじめたのか。

部屋に戻って布団を敷くと、半ば無理矢理寝かせた。

「いーやーでーさァー!まだねない!」
「なにがしたいんでさァ…まったく…。」

あまりにも眠らないから、総悟もその身を布団に収めた。隣であやして寝かしつけようという魂胆である。この1週間、みおはこうしてやればいつの間にか眠っていた。しかし今日ばかりは"その手には乗らない"と言うようにじたばたしている。

「そろそろ怒りやすぜ。さっさと寝なせェ。」
「いーやー!」
「いやいやばっかり言ってんじゃねぇや。」

怒鳴ることなどほとんどなく、どちらかと言えば怒鳴る前に牽制するタイプの総悟は、かなり困った。

「みおも『おけいこ』したいんでさァ!」
「はぁ?誰に吹き込まれたんですかィ?」
「ふき…?みんなが、じょーずっていうから!」
「んなわけあるかィ。オメーがガキだから褒めてんでさァ。」
「…っ、も、もー総悟なんかしりやせん!ふんっ!」

あーぁ、拗ねた。みおはそっぽを向いて布団を全部引っ張ってしまった。

「勝手にしやがれィ。」

やはりみおは、昼寝中に総悟が稽古をしていることに気づいていた。実際一度、たまたま目覚めてその様子を見たことがあるし、見る分には構わないと思っている。しかし問題はその後なのだ。「隊士になりたい」などと言い出したらたまったもんじゃない。危険な仕事に首を突っ込ませたくないのだ。

総悟はみおを放ったらかして部屋を出た。後ろから鼻をすする音がした。泣き疲れたら眠るだろう。竹刀を振って心を落ち着かせようと、総悟は今日も稽古に向かった。




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