おぼれる


ごうごう、ごぽごぽと、水の音が聞こえる。溺れた時とは、妙に冷静になるもので、苦しくて怖くてたまらないのに、腕を伸ばして水面を探すのだ。現にみおもそうである。本能的に水を飲んではいけないと分かっているのか、水の中でも声を上げようとした。だがその度に、空気だけが無情にこぼれていく。水面を探して必死にもがくけれど、何がなんだか分からないままでは見つかるはずもない。

(…っ、そーご、たすけ、て…!)

ごぼっ、と息を吐いてしまった。もう肺の中に空気はない。苦しくてパニックになる。こわい。こわい。

「おいっ、大丈夫ですかィ!?」
「う…げほっごほっ。はぁっ、ごほごほっ。」

総悟はみおの脇腹を支えて持ち上げた。風呂用のイスに座らせて、抱きしめるようにして背中を叩く。

それはもう驚いた。体を洗い流し、振り返るとそこにみおの姿はなく、あるのは波紋だけ。まさかと思って近寄れば、みおがごぽごぽと空気を吐き出しながら溺れていた。慌てて引き上げると、かなりの時間湯船の中にいたと思われ、みお激しく咳き込んだのだ。

「げほっ、はぁ、うっ…。」
「喋らねェで良いから、呼吸だけ整えろィ。」

何か言おうとしていたみおだったが、総悟の言葉にこくこくと頷いて、胸に手を当てた。その間も総悟は背中をとんとんと叩いてやっている。

「はー、はー…。びっ…くりしたぁ…。」

呼吸が整ったらしいみおは、目を見開いてそう呟いた。

「バカヤロー、それはこっちのセリフでさァ…。ったく。」

うかうか目を離していられない。今まで危なっかしい場面は多々あったが、基本的に屯所の中は安全だと思っていた。まさか自分の横でこんな事態が起こるとは。

総悟は長く息を吐いてみおを抱きしめた。無事で良かった。そのひとことに尽きる。

「そっ、総悟…。」
「ん…?どうしやした?」
「…こ、こわかったぁぁぁぁぁ…。うっ、えぐっ。」

あーぁ、泣いた。なんて総悟はぼやいたけれど、そりゃあ溺れるのは怖かっただろうな、と内心同情していた。

うわぁぁぁん、といっそう泣き出してしまうみおを見て、これはもう湯船に入らないほうがいいな、と判断した総悟は、そのままみおを抱っこして風呂場を出た。

泣きっぱなしのみおをバスタオルでくるみ、浴衣を着せた。よほど怖かったのか、総悟が着替えている間もみおは総悟の足にしがみついて離れなかった。

ぐすぐすと泣き続けるみおを見て、明日からはちゃんと湯船に浸かるのも一緒にやってやろうと思ったのだった。


Fin.




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