ごんっ
「みおー、風呂いきやすぜィ。」
風呂の準備が完了したということで、総悟はみおを呼んだ。幼いみおは早く寝なければならないので、他の隊士が入る前にいつも入浴を済ませている。
「あぃー!」
見ていた植物図鑑をぱたんと閉じて、総悟のもとに歩み寄った。
「みお、図鑑。」
笑顔のみおとは対照的に総悟が厳しめに言うと、みおは総悟を見、図鑑を見て頷いた。
「みたら、しまうー!そんでー、」
ぐるりと部屋全体を見回して、散らかっていないかを確認。特に悪いところはなさそうだ。もう一度本棚にしっかりと図鑑を押し込んで、今度こそ、と総悟に駆け寄った。
「すいやせんでした!」
「へい、よく出来やした。」
総悟はみおをひと撫でしてから、その手を引いた。
ぷにゅ、と手のひらにシャンプーがひろがる。軽く手で泡立ててからよく濡らしたみおの髪の毛に馴染ませた。ほどなくして白い泡がもこもこと立ち始めた。
「うぉぉ、ふわふわー!みおもやりたい、でさァ!」
「ほれ、続きやりなせェ。目ぇしっかりつむってな。」
「あぃっ!」
ある程度泡立てたし、ほとんど洗えているだろうから、総悟はみおに続きを任せた。ずいぶん楽しんでいるようだ。これならみおがひとりで頭を洗っている間に、自分の頭も洗い終わるだろう。手に残った泡に、新たにシャンプーを付け足して再び泡立てた。
自分の洗髪もそこそこに、さっさとシャワーで流してしまうと、未だにはしゃぎながら泡で遊んでいるみおを膝の上に寝かせた。肩のあたりが太腿にくるようにし、片手で頭部を支えた。シャワーを前髪からあてていく。目に入らないように細心の注意を払った。というのも、一度目にシャンプーが入った時、「うぎゃぁああぁ、めがぁぁぁぁ」と叫ばれて大変だったのだ。
「んー、きもちいいでさァ…。」
うっとりとした表情のみお。なんかムカツク。
「おりゃ。」
「へぶっ!?」
シャワーを顔にかけた。一瞬である。一瞬の間でも、完全に油断していたみおは、若干溺れた。
「ははっ、だっせーなァ。」
「げほっ、総悟、めっ!」
起き上がって、ぱんっ、と両手で総悟の頬をはさんだ。力を込めると、むにゅ、と総悟の唇が突き出た。
「てめー、なにしやがんでィ。仕返しでさァ。」
総悟もみおの頬を挟む。しばらくじーっと見つめ合ったあと、どちらからともなくおでこをこつんとぶつけた。
しかしやはりみおの力は尋常ではなく。こつんどころかごんっと鈍い音がした。
「いってェ…。おめー、いい加減にしろィ…。」
「おごぉぉぉぉ、いたいぃぃぃ。」
はぁ、とため息をついてみおを立たせ、額を見る。目立った外傷はないようだ。さてはこいつ、石頭か。いや、確か石頭は痛みを自覚しないのであったか。では何だ。ただのバカか。
総悟は少しだけみおの額に触れた。…まぁ大丈夫だろう。
「体洗いやすぜ。」
「あーぃ。」
しばらくズキズキと頭部に痛みを感じたが、いずれおさまるだろうとみおの体を洗い始めた。手を上げろと言われれば手を上げ、後ろを向けと言われれば後ろを向く。言いなりになって動くのを見ていると、優越感を覚えるのはドSの性だろうか。
全身が泡に包まれたのを確認して、シャワーで流していく。みおは、動きたいのかうずうずしていた。幼児ゆえか、たまにぐらつくので、みおは終始総悟の肩に手を置いている。その行為がどうにかうずうずを抑えこんでいるようだった。
「よーし、じゃあ俺が体洗う間に、みおは先に浸かっててくだせェ。」
「あいっ!」
総悟は湯船に背を向けて体を洗い始める。みおは湯船に浸かるべくそちらに向かった。
今日はどんな話をするだろうか。何をして遊ぶだろうか。みおは総悟が湯船の中で見せてくれる遊びが好きで、いつも楽しみにしている。
そんな楽しいことしか考えてなかったからだろうか。
足を滑らせたみおは、どぼん、と頭から湯船に突っ込んだ。