じぇらしー


ちゅどーん。どどどど。ばきゅんばきゅーん。

みおの目の前では現在進行形で総悟vs.神楽が繰り広げられている。あの傘はどんな仕組みになっているのだろう、とみおは素直に思った。弾丸を装填している素振りもないのに、番傘の尖端からはひっきりなしにそれが放たれている。

「ふぁぁ、ねむい、でさァ…。」

小さな手のひらで大きく開く口を覆った。初めてのちゃんとした外出に加え、店内を歩きまわって疲れたのだ。イスの上で膝を抱えると、よりいっそう眠気が増した。しかしなおも戦闘は終わらない。

「相変わらずしぶてェや。さっさとくたばりやがれ。」
「それはこっちの台詞アル。しねぇぇサドぉぉぉ!」

というよりむしろ激化した。みおは子どもながらに呆れた。せっかく外に出られたのに、これでは何もせずに終わってしまう。すっくと立ち上がり、弾丸飛び交う中に身を投じた。

「やーめーなーせーぇ!」

ていっ、とふたりの真ん中で両手を広げた。突然視界に入り込んだ小さな影に、ふたりはぎょっとする。

「みお!?よ、避けるアル!」
「なんでまた危ねぇマネしやがんだ、バカ!」

総悟は数多の弾丸をくぐり抜けてみおを抱きかかえた。そのまま真横に一回転。緊急回避である。

「総悟がみおとあそんでくれないからー!それに、おうちこわしちゃ、めー!でしょ!」

びしっ、と辺りを指差した。人通りは少ない通りだったが、その分活発に動けてしまって建物が壊れてしまっている箇所があった。いつもどおりかと聞かれればいつもどおりである光景で、今や地域の方々も微笑みつつ見守る有り様だ。だが今回に限って、"慣れていない"みおがいたために戦闘は中断された。地域の方々もびっくりである。

「総悟!かっ、かぅ、…ちゃいな!ごめんなせェはー?」

"神楽"が発音が出来ず、迷った末の"ちゃいな"である。神楽としては宿敵・沖田と同じように呼ばれるのはあまりいい気はしなかったが、相手がみおなので黙って許すことにした。

「え、あぁ、すいやせんでした、みお。」
「…ワタシも、ごめんアル。」

普段ならこれくらいのことで引き下がるはずもないふたり。幼児パワーといったところだろうか、躊躇こそしたものの、素直に謝った。

「あとね、あとね、チャイナはね、」

にょきにょきとみおは総悟の腕から出て、神楽の前でうつむいた。恥ずかしさに耐えるようにもじもじしている。

「みお?どうしたネ?便所アルカ?」
「ちっがう!あんね、チャイナは、総悟とっちゃ、めー!」

ガバッ、と顔を上げて叫んだ。頬を真っ赤に染めて。その声量は大通りに響き渡った。

「「え。」」

神楽と総悟の声が重なった。ふたりは互いに目を見合わせた後、ふたたび頬を染めたみおを見た。しばらくうつむいた後、顔を上げたみおの目はうるんでいる。

「わ、ワタシ別にそんなつもりはないネ!」
「俺もでさァ。」

ふたりはしゃがんでみおに言った。

「ほ、ほんと…?」

その問いには、迷わず頷く。そもそも互いに恋愛感情といった特別なものはなく、ただなんとなく反りが合わないからやっていたらお決まりになってしまっただけのことなのだ。だんだん楽しく感じつつはあるが。

「はー、よかったでさァ!」

みおの"とらないで"がどういう意味なのかは分からない。だが心底安心したようにぺたりと地面に座り込むみおを見て、神楽は"こんなサド野郎でも好いてくれる人はいるのだな"なんて失礼なことを考えた。

「あっ、銀ちゃんも新八もいないアル!ワタシ帰らなきゃ!」

今更ながらに気づいた神楽は立ち上がった。そして、にかっと笑ってひとこと。

「次はみおも一緒に遊ぶヨロシ!またなー!」

そう言って駆けて行った。

「うぉー、チャイナ、おつかれっしたー!」

みおはぶんぶんと神楽の後ろ姿に手を振る。神楽の姿が見えなくなると、総悟はみおに目線を合わせた。"とらないで"の真意が聞きたかったのである。ようやく手を降ろしたみおも、総悟の目をまっすぐ見据えた。

「なァみお。なんでチャイナが俺を取ると思ったんですかィ?」
「うーん。総悟とチャイナが、なかよしだったから…?」
「疑問形…。じゃあ、俺が取られたら、何が嫌なんでさァ?」

またみおは少し迷ったように唸った。腕を組んで眉を寄せるというアクション付きである。

総悟がとられたら。もし、いなくなったら。もちろん寂しいし、悲しい。それよりも、ずっとそばにいたいと願った人が、別の人の大切な人になるのが悔しい。自分がいちばんでいたいのだ。抱っこされて、たくさんのお話をして。隣にいる自分にしかない特別が欲しい。

けれど幼い子には、それを伝えるだけの語彙も、能力もなかった。それが世間一般では嫉妬と呼ぶことも知らず、言葉に詰まりながら必死に声を発する。

「みおは、総悟すきなのに、ほかのひとも総悟すきで、いやで、それで、」

言葉で伝えられないのなら、実力行使。抱きついて、強くしがみついて、さらに大きな声で、はっきりと。

「総悟すきなのは、みおだけでいいんでさァ!」

言い終わったみおの表情は爽快そのもの。ふへへ、なんて口元を緩めている。

こんなに無邪気で、可愛らしい嫉妬があってたまるものか。恋なんて大人びた感情ではなく、純粋な照れから総悟は顔を背けた。こうストレートに好意を向けられるのはどうも慣れない。

「それは困りやす。俺だってたまには誰かに好かれたいでさァ。」

でもその代わり。

「まァ、いちばん好きだって言うのはみおだけだって、覚えといてやりやす。それで我慢しなせェ。」

がしがしと乱暴に頭を撫でた。みおの髪が宙を踊る。それでもみおは嫌な顔ひとつせずそれを受け入れた。ぼさぼさになった髪がおかしくて、ふたりは吹き出した。

手をつなぐふたつの影は徐々に伸びはじめる。

ひと通りの買い物を終えて屯所についたのは、空に夕闇が差し迫った時だった。


Fin.




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