ふわふわ、ふたたび


しばらくすると呉服屋に着いた。みおは小物屋を見たりして終始「うぉぉ、きれー…。」など呟いていたが、これといって欲しいものはなかったらしい。

「女将さん、こいつに合うサイズの、適当に見繕ってくれやすか?」
「あらー、沖田さんじゃない!久しぶり!この子は親戚の方?」
「いや、真選組で預かることになったガキでさァ。着替えもねェから買ってやろうと思いやして。浴衣を5着と着物を2着ほどお願いしやす。」
「はいよ。毎度ありがとうね。」

総悟は懐から茶封筒を取り出して現金を手渡した。実はこのお金、ポケットマネーではなく真選組が出したものである。なんでも、幼い少女がいると聞きつけた松平のとっつぁんが資金援助をしてくれたとかで、みおひとりを養うには十分すぎる金額を頂いたのだ。

「みお、どれでも好きな柄を選びなせェ。」
「すきなのー?んー…。」

ぴょんっ、と総悟の腕を飛び降りると店内を回り始めた。走るな、と伝えればいつものように元気な返事が返ってきた。みおは言われた通りにゆっくりと店内を見て回っている。狭い店内なら迷子にはならないだろうが、一応この場にみおが帰ってきた時にパニックにならないように、と総悟は側のイスに腰掛けた。子どもが7着も選ぶのは似たりよったりになって難しいだろうし、何より時間もかかるだろうから、総悟も見える範囲でみおに似合いそうな柄を探した。その時。

「あっれー?総一郎くんじゃん。何してんの?浮気相手の着物でも買ってやろうって?太っ腹ぁ。」

後ろから間延びした声が聞こえた。振り向くまでもなく分かる。この話し方は確実に「万事屋銀ちゃん」の店主、坂田銀時だ。

「旦那ァ、総悟でさァ。旦那こそ何してんでィ。ここは旦那の財力で来れるような場所じゃありやせんぜ。」
「余計なお世話だっつの。たまたま通りかかったら総一郎くんが女物の着物なんか見てたから気になっただけですぅ。」
「女物…、あァ、女物でしたねィ。あんまりそういうのは考えてなかったもんで。」

女物というよりは、子ども服を探しに来た感覚なのだ。言われるまで女性が多い店内に自分が訪れているとは意識しなかった。

「えぇ、大丈夫かよ。まぁいいや。銀さんもひとりの男だし?そのへんちゃーんと分かってるからよ。ここで会ったことは秘密な。ひ、み…ぐほぁがぁぁぁ!?」

突然銀時が「く」の字に折れ曲がった。なんらかの衝撃を受けて、そのまま往来に突っ込んでいく。なんらかの、と言ったが、もちろん総悟には予想がついていた。おそらくあれは「必殺・土方殺し」に上下の動きを付け加えることで腹部への攻撃を可能にした「必殺・土方殺しEX」だろう、と。

「いってぇ…。何が飛んできたんだ、こりゃ…。」

銀時は腹部にのしかかる重みを片手でつまみあげる。

「ふわふわー!こんにちは、でさァ!!」
「えっ、お前、ええぇぇええぇぇぇ!?」

試着中だったのだろうか、新品の着物を身に纏ったみおは、空中でにっこりとわらった。

「なにこの子、でさァ、って…まさか沖田くんのこども!?」
「旦那ァ、そりゃあいくらなんでも白々し過ぎやす。屯所の前にこいつを置いていったのは旦那でしょうに。」
「あれ、知ってたの?」
「へい、大体はこいつから直接聞きやした。」

総悟は銀時からみおを抱き上げると、先ほどまで自分が座っていたイスに立たせた。着ている着物は、鮮やかな夕陽色の着物だ。濃淡のある色合いに、散りばめられた小花柄が可愛らしい。明るい性格のみおにぴったりだと思った。

「そうか…、まぁ良かったよ。ジェシカちゃんがしっかり育ってるみたいで。」

いてて、と言いながら銀時も立ち上がる。

「ジェシカじゃないでさァ、みおは、みおでさァ!」
「…みお、おめーすっかり総一郎くんに似ちまって…。」

ドSプリンセスの誕生だろうか、と銀時は慄いた。「旦那、総悟でさァ。」と聞こえると、もう苦笑いしか浮かばなかった。一見ちぐはぐにみえる性格のふたりだが、話し方やナチュラルに暴力的なところが似ているように思えてならないのだ。

「みお、他には決めたんですかィ?」
「んー、あとよっつ、だよー!」

指を折り数えて、4本立てて誇らしげに言った。すでに3着も決めたのか、と総悟は変に感心した。

「よっしゃみお、銀さんも選んでやろう。」

腹部をさすっていた銀時は言った。みおも目を輝かせた。

「ふわふわがえらぶのー!?どれがいい?あんね、これと、あれと、あっちのやつはもうきめたんだよ!」

「とうっ!」とイスから跳躍し、みおは銀時にしがみつく。よじよじと銀時を登って行って、ようやく首に腕を回した。

「あー、でもね…。」

ぐいっと身をよじって、上半身を総悟に向けた。

「ふわふわは、ひとつしかだめでさァ!のこりのみっつは、総悟にきめてもらおーとおもってた!でやんす!」
「…でやんす、なんて俺は使った覚えはありやせんぜ。」

と言いつつ、総悟はみおの頬を撫でた。みおも目を細めて喜び、「ていっ!」と銀時を壁にして蹴って総悟の胸に飛び込んだ。

みおが腕に収まると、総悟は満足したような表情になった。それを見て銀時は頭を掻いた。

こいつァ、そうとう独占欲が強ぇなぁ…。

そして同時に思うことには、

「みお、俺の名前いーかげん覚えてくんねェ?」

この歳でふわふわ呼びはキツイな、と思ったのであった。




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