12.ちょうおんぱ


みおの叫び声は、空気を震わせ、その場にいた全員の耳に届いた。一同が動きを止める。はぁ、はぁ、と、みおは肩で大きく息をした。

しばらくすると、動きを止めていた人々が、ばたり、ばたりと倒れ始めた。

総悟は辺りを見回した。後ろで刀を振り上げていた浪士も、ぐらりと体を傾けて倒れていく。あろうことか、真選組の面々も地面に横たわっていた。

「これは…。」

しゃがんでみおを地面に降ろし、近くに倒れていた山崎の首筋に手を当てた。

とくん、とくん。

それは確かに脈打っていて、あたたかみを感じた。その表情は、気絶しているというよりは、眠っているといったほうが適切だと言えるほど、穏やかだ。

この状況の原因と思われる少女は、ぺたりとしりもちをついたように座り、惨劇に目を逸らせないでいる。口もぽかんと開ききったままだ。

「みお」と、名を呼んで手を伸ばした。みおは「ひっ」と小さく息を吸い、怯えた目をした。そこでようやく、自分の手が血に濡れていることに気付いた。

「………わりィ。」

総悟は目を伏せて、ごしごしと手を拭った。刀をしまって再び手を伸ばすと、今度は小さな手のひらが重ねられた。ごつごつとした手が、柔らかなみおの手をしっかりと握って引き寄せた。

「無事で、よかった…。」

ぎゅ、と抱きしめて、自分が切ったせいでバラバラになった髪の毛を撫でると、少女の肩が震え始めた。

「ふっ、えぐっ、えぐっ、そーご…!」

総悟の肩に目頭を押し当て、涙を拭うみお。相当怖かっただろう。こんなに幼いのに、人が斬り合い、血を流し、そして死んでゆく有り様をみたのだから。撫でてやりながら無線機を取り出して、現場に来ていない近藤に連絡を入れた。後はおえらいさんたちがうまく処理してくれるだろう。近藤たちが来るまでに隊士を起こさねば、と思い、みおを抱きかかえながらひとりひとり頬をビンタして起こしていった。

なぜ自分だけが巻き込まれなかったのか。考えて、すぐに分かった。あの時みおに頭を抱きしめられたからだろう。つまり、この状況はみおの叫びが作り出したものだ。

あの、超音波のような高音。みおが天人であることの証明であるような声だった。

全員を起こすと、やって来た近藤に仕事を引き継ぎ、みおとパトカーの後部座席に乗り込んだ。疲れた。みおが土方を呼んでくるまで、山崎とふたりで相手をしたのだ。大きな傷こそ負わなかったものの、蹴られたりしたところがズキズキと痛んだ。運転手を務める隊士が来るまで、総悟はみおを抱きしめ続けた。みおは泣き疲れてうとうとしながら、必死にそれに応えようとしている。

柔らかい体躯がここにあると感じられることが、総悟は嬉しくてたまらなかった。




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