...trash can

【宮高】(緑高も有)@
2014/03/25 10:40
「っくそ」
昨日、友人を部屋に泊めた。そのせいで部屋がかなり汚い。実はかなり綺麗好きな俺だが、ばれると色々と気を遣われたり、逆に一切の気遣いのなさに苛立つことが必須なので隠している。そんなわけで、友人の昨晩の暴挙(服を脱ぎ散らかす。寝っ転がってスナック菓子を食べる。ゴミを捨てない。etc……)をよく我慢したなぁ、としみじみ思いながら俺は掃除機をかけている。やっと出ていった友人を恨めしく思いながら、畳のへりとへりの間に挟まった柿の種の破片を睨みつけた。この際だ、畳を取って掃除をしよう。そうと決まれば早い。部屋の端から、畳を一枚めくっては掃除機をかけ、を繰り返す。そんなに広い部屋でもない。すぐ終わる。
「あ?」
思わず声に出てしまった。畳の下のベニヤに何か赤い跡が付いていた。赤というか茶色というか。まるで、いや、まさに血が乾いたような色だった。実は一介の貧乏大学生がこんな新しいマンションに住めているのは、何年か前にこの場所で集団自殺(詳しくは知らない)があったからなのだった。不動産の人が一応、濁して説明してくれたが、そんなのは調べれば一発だ。そういうことは信じない性質だし、ホラーは割と好きなので俺には好物件だったりする。友人たちが面白半分で泊まりに来るのが玉に瑕。それ以外は、風呂もキッチンもあって、和室もあるしコンビニも近い。駅は少し遠いが、大学には自転車で行ける。いいことずくめだ。
そんな話は置いておいて、とにかくそんないわく付きの物件で、畳めくったら血痕出現。フラグ立ったよね、これ。
さてさて、ここでめくらないという選択肢はない。
畳がずっと被さっていたせいで、日焼けした様子もなければ腐っておるようにも見えないベニヤ板に手をかける。影になってはいるが、食べかすなのかホコリなのか、そんなのの集合体が微かに起きた風にもふわふわと舞い上がったのが見えて、咳き込みそうになった。マスクでもしときゃあ良かったと思うも後の祭り。もう知らん。勢いだけでめくる。
「っわ?!」
そこには、オレンジのパーカーとジーパン。それらの服の端から覗くのは白骨。指の骨に、足の骨。頭蓋骨。理科室の標本のように白くはなくて、どこか茶色っぽくくすんでいて、頭蓋骨には髪の毛が中途半端に残っていた。
よく収まってたなぁ。
成人男子が腰を抜かして盛大に尻餅をついておきながら何を言っているんだろう。本当にそう思う。どうしよう。どうしよう。したいじゃん。骨じゃん。死体?! 警察に電話だ。いや待て。いま電話したら実家もどんなきゃいけないやつだわ。ふむ、あかんな。
「こんにちわ」
「あ、こんにちわ」
正座した男がぺこりと頭をさげた。俺も首だけで会釈するが、この姿勢(相手から見たらM字開脚。野郎のM字開脚ですがなにか)はものすごく首が下げづらい。
「オレ、高尾和成って言うんすけど」
「はあ」
「お名前伺ってもいいすか?」
にへら、と笑ってみせた男は、いつの間にかあぐらに脚を組み替えていた。俺もこんな姿勢でいるわけにいかない。よっこいせ、と片膝を立てた。
「宮地清志、デス……?」
「宮地サンですか。大学生?」
「大3ですけど……」
「まじか、年上じゃん。オレ、大2……だった?」
大2だった、というのは中退でもしたのか。
「ん? あんた誰だ? 勝手に家入ってんじゃねーよ」
「気が動転して一周回って、冷静になるってやつ? 高尾和成ですってば。あー。オレね、これ」
そう言ってにやにやと(笑みの絶えないやつだ)と自分の真下を指した。
高尾と名乗った男の下は畳でもベニヤ板でもなくてコンクリとホコリと服を着た白骨死体。なんでそんな不安定なところに座っていられるんだろう。

オレ=これ=骨

やっと元の感覚? を取り戻した俺。同時に冷静さを失った。
「え…………幽霊…………? は?? 轢きたい」
「オレ轢かれんの? ブフォォ」
腹を抱えて笑い出した高尾にイラッとしたので、殴ろうと拳骨を振り抜くが空振った。
「え?」
自分のグーに握った手と高尾の顔を何度も交互に見る。
「分かった?」
「高尾和成19歳。死因は練炭自殺やって一酸化炭素中毒。苦しかった。ここに埋めたのは自殺者応援サイトの運営者かなんかの多分、ヤのつく自由業のお兄さん。オレの内蔵とか今頃、誰かの体のナカだったりして。でも、服とかそのまんまだし、平気かも。っつーか、一緒に自殺した人とどうしてオレだけ別の場所なんだろう。山に捨ててくれるって約束だったのに。まあ、そんなわけで、8年前に自殺した幽霊です☆ ふつつかモノですがヨロシクでっす!!」
「死ね」
「ざんね〜ん! もう死んでマス」
癖とは恐ろしいものである。初対面の人間につい、で死ねなどと言ってしまうとは。いや、幽霊だった。人間ではない。そういう問題でもないが。
「なにがヨロシクなのか、俺もよろしく聞きたい」
「笑顔こわっ」
「うるせえ、デフォだ」
「だからさっき説明したじゃないすかー」
「成仏しろ。即刻。今すぐ。」


ひとしきり騒ぎ倒した後、ふと部屋を見回すと骸骨と幽霊がいて、もう一度、静かに腰抜かした俺は散々高尾に笑われた。
この幽霊は地縛霊ならぬ物縛霊とでもいうのか。Wi-Fiのように骨を中心とした一定の距離しか自由がきかないらしい。骨を警察に渡されると困る、と突然、真剣に言われてしまった。八年も見つかってなければ後何年経とうがあまり変わらないかもしれない。俺が越す時にでも通報はすればいいか、という結論に至った。ベニヤ板も畳も戻して、掃除機をかけて、おしまい。いつも横にうるさいのがいること以外は生活にはなんの影響もなかった。基本的に家を出れないのか出ないのかは分からないが、俺が大学行く時もバイト行く時も、帰ってきた時も家にいる。もしかしたら俺がいない間にどこかに行っているのかもしれないが知ったことではない。
なんだかんだと二週間が経過した。そして、やっぱり問題はこの何事もなく馴染んでいる幽霊なのだった。

「オレ、けっこうメシとか作るの上手いんすよ?」
「いや、お前、幽霊だから」
「……あ、そうだった」
ぽん、と手を打った高尾。
「お前がいたんじゃ、女とか連れ込めねーだろうが、成仏しろ」
「宮地サン、彼女いないじゃん」
「うっせ。いいから邪魔」
油を多めに引いたフライパンで四つに切った茄子を炒める。じゅー、と小さな気泡をあげながら青紫を一層黒に近づけていた。いいなーうまそーオレも食いたい、と繰り返す高尾をシカトして、程よく色がついたところで菜箸であげる。しなぁ、とした茄子を皿に盛った。
「おかず、それだけ?」
「めんどくさいからな」
一人暮らしの大学生がまともに料理をするのは珍しいことなのだ。元大学生のくせにこの高尾という幽霊は俺に向かってもっとマメに料理をしろと言ってくる。なんでも、生前は毎日きちんと自炊してお弁当も作っていたという。実家暮らし、ではなかったのだろう。はっきりとは言わないが口ぶりから誰かと一緒に暮らしていたようだ。どうせ社会人の女性のヒモでもやっていたのではないだろうか。身長もそこそこ高いし、顔もそこそこ整っていると思う。イケメンかと言われると、どちらかと言えばイケメンかな、くらいだが、何よりも人懐こい笑顔が目立つ。笑顔、というか笑いが絶えない。俺自身も感じているが、高尾はすごく距離の取り方が上手い。出会って数時間で、そこらの友人よりも楽しく会話ができてしまった。お互いのことを何も知らないのにおこまで話を盛り上げられるというのはなかなかすごいコミュ力だと思うが、同時に少し怖くもあった。なんとも言えない違和感がわだかまったまま胸の中にある。
「白メシと素揚げの茄子って……せめて味噌汁くらい作りましょーよ」
「てれれっててー。いんすたんとみそしーるー」
「似てない」
ばっさりである。
「じゃあお前がやれ」
「ちょ、ムチャ振り」
こほん、と一つ咳をした高尾。俺は茶碗と茄子を乗せた皿を持ってキッチンからリビングへ。脚の低い、本当はキャンプだとかアウトドア用のテーブルにそれらを並べる。フローリングに置くにはあまりにも不似合いなそれはとても便利なのだ。仕舞おうと思えば仕舞えるし、しかもかなり小型になる。そう思うとどれだけの人数をこの部屋に泊めてきたのかと頭が痛くなってくるが見なかったことにしよう。
ちょっと待って、と叫んでいる高尾をキッチンに置いて俺は手を合わせた。いただきます、とポン酢を茄子にかけた。
「ぼくドラえもん〜」
初代ドラえもんのそっくりの声であの有名な自己紹介が耳元で囁かれた。とどめにふぅ、と耳に息を吹きかけられてポン酢がそれはもうどぼっ、と。一気に出てしまった。茶色くポン酢色に染まった茄子から視線を高尾にあげる。
声にならない何かがこみ上げてきた。そう、これは殴りたいのに殴れないもどかしさである。

ーーーー
高尾ちゃんが自殺するに至る経緯だとか、一人だけ部屋に転がされてた理由とか。真ちゃん(恋人?)との過去とかさ、実は真ちゃんとヤのつく自由業の方(青峰くん?? 黄瀬くん??)が繋がってたりとか。湧き出る妄想。
そして、こいつら出すと、まさかの宮地が一回り年下になってしまうという大問題。


宮高
2014/02/14 00:00
日も暮れてしまった道を宮地と高尾は歩いていた。緑間は、一人で帰ると言ってそそくさと帰ってしまった。気を遣わせてしまったことを悪いと思いながらも甘えてしまう。
「あー、高尾。これ」 
宮地はズボンのポケットから何かを掴んで高尾に差し出した。それがなんなのか全く分からないまま受け取る。
「あ。チロルチョコだ」
手のひらに三つ乗っている四角いチョコレート。カラフルな包装。
「バレンタインだろ?」
「宮地さんからもらえると思ってなかった……。オレ、何もないや。あ、ん? あった!!」
ズボンの横のポケットを叩き、後ろのポケットを叩き、コートのポケットを叩いて、高尾がぱっと顔を輝かせた。宮地は特に期待していないのか、興味なさそうにそんな高尾を黙って見た。コートから出てきたのは、のど飴。誇らしげにそれを押し付ける。
「おー、ありがと」
何も考えずに宮地はそれを口へ放った。高尾は、チョコをまだ食べるつもりがないのか、じっと見つめてから大事そうにポケットに仕舞い込んだ。そんな扱いをされても困るのだが、満更でもない。キシリトールの爽やかさ、今は痛いくらいに喉に冷たい。
「これで、ホワイトデーはなしでいいな」
なんとはなしに言った言葉。高尾が酷く驚いていた。自分が言った言葉を考える。納得した。考えなしに、容易に言っていい言葉ではなかった。ただでさえ、卒業という言葉に過剰反応するのに。なんで、そんなにも先のことを怖がっているのか。俺が信じられないのか、と少し不満を抱く。でも、それだけ自分と離れたくないと思っているのだと思うと、やはり満更でもないのだった。
「宮地さん、返して」
ぼそっと呟いた高尾は、また、いつだかのように寂そうな表情をした。
「もう、喰っちまったし、んぐ?!」
肩をぐっと下げるように掴まれて、強引にキスをされる。周りを確認をする暇もなく。そして、呆気なく、離される。
「あーあ、色気のねーキスだな」 
苦笑いで言う。冷たさの余韻のようなものが口に残っていた。
「ホワイトデーはオレがきんと、用意するから、待っててください」
半ば、睨みつけながら、べーっと小さくなった半透明の飴を下に乗せて見せてきた。紅い舌と白い飴がコントラストになっていて、不意にキスしたくなったが、やめる。
「期待してっからな。三倍返しな」

「10円の三倍で30円すか?」
「ちげーよ。20円の三倍で60円だよ」
 
ーーーー
(チロル⇔のど飴)
Happy Valentine!!


チャリア
2014/02/14 00:00
やっと平坦な道に差し掛かり、高尾はいつも通りリアカーに乗って、ラッキーアイテムも抱えている緑間に話しかけた。
「ねぇねぇ、真ちゃん? 今日、なんの日か知ってる?」
「知らん」
「えー。うーん、そっかぁ」
緑間の表情を見ることはできないが、日頃に比べ機嫌の悪そうな声をしていたので、(素気ないのはいつものことだ)大人しく引き下がる。これ以上は何も聞かないことにする。何か怒らせるようなことをしたかなー、と考えつつ、角を曲がる。なかなか、このリアカー付き自転車、操縦が難しいのである。重いし、自転車の幅とリアカーの幅は全く違うし、といろいろ気を遣わなければいけないことが多い。最近は慣れてきたからいいものの最初は何度もぶつけて緑間に怒られたものだ。それもこれも高尾が常にじゃんけんに負けているのせいなのだが。一番、注意しなくてはいけないのが坂道。次に曲がり角だ。ぎりぎりで曲がろうとすると、リアカーを壁に擦ってしまうのだ。
「高尾、止まれ」
「え?」
急になんだ。
「らじゃー」
角を曲がってすぐのところへ停める。車も歩行者もいないので問題はない。緑間はリアカーを降り、角に置いてあった自販機の前に立った。ああ、おしるこか、と納得する。
「落とすなよ」 
そう言って、何かを放った。それは綺麗な弧を描いて高尾の両手にすっぽりと収まる。
「?」
缶だ。ホットココアだった。手袋をしていても、その熱が伝わってくる。手袋を外して、素手で持つ。冷えてぎこちなくしか動かない指にじんじんと痛いほどに響く。
「真ちゃん、ありがとー。珍しいじゃん、どしたの?」
「人にあんな質問をしておいて、お前も大概だな」
そう言って鼻で笑った。その緑間の手には当然、おしるこである。
「え? もしかして、もしかするの?! ぶふぉっ……!! 真ちゃんったら、キザねー」
「笑うなら、返せ!!」
「来月には、おしるこキャンディー探し出しとくわ」

「もしかして、さっき怒ってたのってオレがチョコあげなかったから?」
「……何のことなのだよ」

ーーーー
(ココア⇔おしるこキャンディー)
Happy Valentine!!



黄笠
2014/02/14 00:00
いつもよりも人、というか女子が多いことにうんざりしながら、シュートを入れる。仕方のないことだと分かっていても、落ち着かない。集中できない。黄瀬を追い出したらいいのか、と本気で考える。
眉間にしわを寄せ、険しい表情の笠松に黄瀬が申し訳なさそうに小さく頭を下げた。気にするな、という意味で顎で入口に溜まっている女子を指す。

「センパイっ! すみませんっス!!」
「いいよ、気にするな。仕事みたいなもんだろ」
練習が終わり、やっと女子達が去って静かになった体育館。部員達も帰ったが、今日は全く練習した気がしないので、いつもよりも長く居残る。黄瀬の大きな紙袋の中からは軽い紙やビニールの擦れ合う音がしていた。
「いくつもらったんだ……?」
「あー、いくつくらいっスかねぇ」
「食べるのか?」
こんなにたくさんの菓子類を仮にもモデルをやっている人間が食べるとは思えなかった。まず、この量は食べ切れる量ではない。特に素人の手作りが日持ちするはずもないし。
「そこはマネージャーさんと相談っス。センパイさ、今日、機嫌悪かったのって嫉妬してたから?」
楽しそうににやけながら黄瀬が言った。きょとん、とした表情で笠松は返した。
「嫉妬って何に? え? 俺、機嫌悪そうだった?」
無意識で表情に出てしまっていたのか。体育館がうるさいことには特に問題はなかったのだが、やはり女子があれほどいると駄目なのか。顔には出してないつもりだったんだがな、と小さく呟く。
「センパイ……ひどいっス」
何か、ぐちぐちと言っているようだが無視して、ドリブルシュートを決める。何本かシュートを入れて、何かに気が付いたらしく、黄瀬の方を向く。
「あー、あのさ、黄瀬」
「なんスか?」
「少しだけ、待ってろ」
ボールを置いて、床を指さす。え? と驚いた表情の黄瀬を振り返ることもなく走っていってしまう。

「これ、やる」
照れているのか、目も合わせずに手のひらよりも少し小さいくらいの箱を手渡しして、笠松はすぐにボールを持った。黄瀬はひにゃりしたものが乗った手のひらを見る。橙とも黄ともとれない、渋い色合いのあの箱。キャラメルだった。
「センパイ。これってどういうイミ?」
「っだ、だって、今、チョコレート買うの恥ずかしいだろ?! ……やっぱり、チョコじゃなきゃダメか?」
ちゃんと、バレンタインとしてくれたんだな、と安心とともに嬉しさと愛おしさもこみあげてくる。後ろから、ぎゅっと抱きしめた。笠松が頬を赤くして、黄瀬を見上げていた。
「オレ、センパイからもらえると思ってなかった」
「急に真面目な顔すんなよ。なんか、照れる」
「さっきから、ずっと照れてるっスけどね」 
「っせえぞ!」
「次の14日には、センパイが食べ切れないくらいのあめ、準備しとくっスよ!」
「あめ?」
「何味が好き?」
「……はつみつれもん」

ーーーーー
(キャラメル⇔はちみつれもん味のあめ)
Happy Valentine!!


チャリア(ショタ)
2014/02/14 00:00
「真ちゃん! 真ちゃん真ちゃん真ちゃん!!」
ランドセルの留め具が外れているのか、走った歩数分だけ、ばこばこという独特の音がした。大声で叫びながら、緑間の方へ駆けてきた高尾。すぐに横に並んで、もう一度、真ちゃんと呼んだ。
「なんなのっお……?!」
何なのだよ! と怒ろうとした瞬間、口に何かを詰め込まれた。甘い。むきゅむきゅと咀嚼するたびに甘さが口いっぱいに広がった。
「なんなのだよ!」
飲み込み終わって、きちんと言い直すと高尾は自慢げな顔をして答えた。
「ましゅまろだけど?」
「……」
そんなことは分かっている。
「えへへ、バレンタイン。真ちゃん、ましゅまろ、きらいじゃなかった?」
今更、聞くことではないと思うのだが、結果から言えば、嫌いではないからいいのだろう。高尾は照れているのかはにかんで、そう言った。
「お前はどうなのだよ」
「へ?え、オレ?オレ、すきだよ。ましゅまろ」
やっと、気が付いたのか、ランドセルの留め具を片手で閉めていた。見えないのは分かっているだろうが、どうしても手の方に視線が行ってしまうらしい。斜め後ろに首を伸ばしていた。自分から視線が離れた隙に緑間は自分の手提げに手を入れた。
「高尾」
「どした、真ちゃ、んぐ」
「バレンタインなのだよ」
振り向いた瞬間に高尾の口に押し込む。仕返しだと言わんばかりに緑間も勝ち気に微笑んだ。
「しんひゃんもまひょまおなのかお」
「何を言っているのか、分からないのだよ」
高尾が咀嚼し終わるのを待つ。
「真ちゃんもましゅまろなのかよ、って。ましゅまろってふにふにしてて面白いよな!」
あと、甘いし! と付け加えた。
 
「チョコでなくともよかったのか」
「なに、いまさら。いーんじゃね? だって、バレンタインって好きな人に甘いもんあげる日だろ?」
頭の後ろに手を組んで、笑った。
「なっ……! 高尾?! な、なにを、言ってるのだよっ!」
「え、なんで真ちゃん、そんなあわててんの?オレ、おかしなこと言った?!」
 
ーーーー
(マシュマロ⇔マシュマロ)
Happy Valentine!!


宮高
2014/02/06 00:19
「……一体いつから俺は宮地さんに愛されていると錯覚していた?」
「泣きながら言うセリフじゃねーだろ」
はは、と乾いた笑いを零す宮地。俯く高尾の頭にその大きな手を置く。
「高尾、お前が嫌いになったわけじゃない。ただ、もう、好きじゃなくなった。ごめん」

ーーーー
愛染さんのセリフの誤用。


緑間
2014/02/06 00:19
俺は起きたら、シンタロウ・ミドリーマになっていた。

ほとんど狂いというものを知らないはずの俺の誇るべき体内時計に従い、目を覚ましたらまだ日が登りきっておらず暗かった。眼鏡を取ろうと枕の横に手を伸ばす。もふり、とあまりにも柔らかくすべすべとした何かに当たる。枕だ、枕。俺の枕は蕎麦殻で枕カバーは麻の筈なのに、俺の頭を支えているそれは羽毛のように軽く、しかしやんわりと押し返す低反発。さらりと滑るような絹に包まれ、触り心地が良かった。どんな素材だ、軽くて低反発って。というか俺の蕎麦殻枕を返せ。枕が変わるとしっかり眠れないタイプなのだよ、俺は。バンバン、と周辺を叩きまくりようやく、見つける。メタルフレームの冷たさが一瞬にして俺の体温と同化する。

「……ここはどこだ」

体を起こせば壁は白い煉瓦が積まれていて、窓にはガラスははまっていない。ぬるく磯臭い風が頬を撫でた。

「お目覚めですか、シンタロウ様」

音もなく現れたのは黒子。ただ、高尾みたいなオールバックセンター分けの上、触覚もきちんとあった。なんだそれは高尾の真似か、と聞こうとしたら、ムッとしたように唇を尖らせた。

「僕の名前はテツヤ・クロコーです。クロコではありません」

「クロコー……」

日も登り始め、視界も良好と言える。黒子……の服装はまるで古代ギリシャのような白い布を肩からかけているだけのようなものだった。まあ、俺もそうなのだが。 肩から腿へ落ちた薄手の毛布を適当に畳みつつ、黒子が何かを差し出した。受け取る。

「これはなんだ」

「シンタロウ様が作らせたものではないですか、カズナリ様と仲良く設計なさっていましたよね」

魔法のステッキだった。よくやすられた俺の身を包んでいる絹と遜色ないほどの木のステッキ。木目がうっすらと透けるが、鮮やかな青に染められている。先端には陽光に青や緑、赤と色を変えるハート型の宝石。オパールか何かだろうか。重さや触感からしてガチな宝石である。プラスチックなどではない。カズナリ様とは。

「おはよっす、シンタロウさま!!」

「お前はリョウタ・キセーか?」

「突然、なんスか?オレはリョウタ・キーセっすよ!!」

人の名前間違えるなんてひどいっすよぉ、とくねくねしているいつも通り鬱陶しい黄瀬は黒子に絡み始めた。こいつも無音で現れたな、と思ったら俺が寝ていたベッドの後ろがドアもなく空間が開いていた。どおりでこの開放感だ。ちなみに後ろを確認していなかったのは首を寝違えているからである。首を回すと痛いのだよ……。

「じゃあ、そこにいるのは、なんだ。ダイキ・アオミーネにアツシ・ムラサキバーラにセイジュウロウ・アカーシか」

「? シンタロウ、大丈夫か?」

赤司が苦笑いで首を傾げた。流石というほどに古代ギリシャ風の服に違和感がない。黄瀬に引き続きぞろぞろと入ってきたのは、中学時代のチームメイト達だった。全員がオールバックセンター分け触覚付きである。青峰は触覚も糞もないが。なんだその頑張りすぎなセンター分けは。

「僕はセイジューロウ・アカシだし、こいつはアツシ・ムラサーキバラだろ?」

「 ダイーキ・アーオミネだ。 お前、ほんと大丈夫かよ。頭でも打ったんじゃね?」

青峰が眉根を寄せる。一人だけのばし棒が2本あることにもアーオミネってなんだよ、とも決して突っ込みはしない。だって、面白くないし。にしても呼びづらい名前である。赤司だけちゃっかり回避しているしな。黄瀬も回避させてやればいいものを。リョータでいいじゃないか。いっそ、リョーター・キセにでもしろ。いや、黄瀬の名前なんてどうでもいいのだよ。

「……ちなみに俺は?」

「ミドちんさまはミドちんさまだし、あえて言うならシンタロウ・ミドリーマ?」

「良かった……まだマシだったのだよ」

ーーーー
身に覚えのないファイルがあって、ファイル名が『緑間』。で、開いた結果がこれです。これを書いた私の心理状況を30字以内で述べよ。


緑黒
2014/02/01 07:52
「どうして、僕に感情を与えたのですか」
抑揚などなく、音と音がむりやり繋ぎ合わさったような言葉が紡がれる。獣の骨でできた冷たく滑らかな手足。つるり、とした頬をぎこちなく撫でた指先は、小さな球体関節が機能する細い指だ。
「俺とて望んでいたわけではない」
ただの偶然なのだよ。白い絹の手袋に包まれた技師のその右手からも造りものの骨の音がした。
硬い骨と骨がぶつかる音。皮膚も肉もない、脂肪も血管もない細い細いそれらも模したただの骨。
筋肉は愚か可動部の決まった人形に感情を表す手立てなど、言葉しかない。人ならば、と人なのに表情が乏しい自分を造った男を見る。なぜ、こんな無骨な大男から人形が生まれるのか分からない。変わることも動くこともないけれど、優しい微笑を浮かべる人形、今にも泣き出しそうな人形、眉を下げ困った表情を浮かべる人形。僅かな差異のある喜怒哀楽の顔を持った何も思わない同胞たちを見つめる。

ーーーー
人形技師の真ちゃんと人形の黒子っち。



高黒
2014/01/30 07:53
君が僕を嫌いなら、僕も僕が嫌いだ。君が僕を好きなら、僕も僕が好きだ。そうありたいと願い努力するも、叶わないことだってある。どうして自分で自分を律し、統制することができないのか。謝るのは筋違いだろう。しかし、ほかに誰に謝ればいいのだろうか。 この世には何億何千という人がいるというのに、とてもとてもおかしなことに、
僕には君しかいなかった。
僕には君しかいらなかった。
君が嫌いな僕を僕は嫌いになれなくて、僕は僕のために君の中に残りたかった。

ごめんなさい。

引き攣った君の顔は、もしかしたらずっと求めていた言葉や想いよりもはるかに僕に歓喜と愉悦を与えたのではないだろうか。僕は体が動いてさえすれば今にも踊り出していたに違いない。まさに狂喜乱舞。喜びに狂う。嬉しくて嬉しくて、自分が愛おしくて仕方がない。まさか、ここにきて、僕は君よりも僕に愛していると伝えてしまうことになるとは。君の一番になりたくて犯した罪は巡って僕の一番へと導くものとなった。今まで僕は崇高な確信犯だったのに、その事実に気づいた瞬間、僕は窃盗を犯した者よりも卑しく、人を殺したものよりも愚かで、強姦を行った者よりも穢らわしい身となった。歓喜は絶望に変わり、罪にまみれ、あまりにも自分勝手で甘い罰に甘んじる。
どこで何を間違えたのか。問うにはあまりにも手遅れだった。
やっと僕はこじれた想いは、もはや半分眠りについた意識と共に終わりを迎えることができた。

ーーーー
高尾くんへの片想い拗らせた黒子っちの話


花黒
2014/01/13 09:48
おめでとうございます。ただ一言、ありきたりな言葉だけを花宮に告げた。黒子は何も返さない花宮を睨みつける。たっぷり溜めたあとにどうして、と小さく呟いたのは聞き逃さなかった。
寒空の下の公園。木々に阻まれて街灯はあまり意味をなしていなかった。灰色の空、それほど厚くもなさそうな雲の向こう側には月が隠れているのだろう。
あのさ、返ってきた言葉は礼ではなく次の話題。黒子は花宮が何を伝えようとしているのかなんとなく予想がついていた。これだけの年数一緒に居て、でも、男同士で。転がる先はどこのなのか。見たくないからなあなあにしてきた。できれば、ふんわり自然消滅してくれればいいのに。相変わらず口を開こうとしない花宮を見つめながら、そんな後ろ向きな思いがぐるぐる巡る。
突然、名前を呼ばれる。少し上擦った声。逸らされていた目がこちらを向いた。地味に高い身長は、キスをするには丁度いいだけで、どこからどう見たってただの下衆でしかない発言は思いの外、空っぽで黒子にとっては痛くもかゆくもなかった。
「どうして……どうして、俺の誕生日なのに俺が、プレゼントなんて用意しなくちゃいけないんだと思う?」
そんなことは知らない、と薄く微笑んで首を横に振る。ため息をついた花宮が焦れったくて目の前の首に両腕を回した。そこにぶら下がるように腕を絡める。花宮の何かを言いかけていた口を強制的に塞いでしまった。
「馬鹿!! ックソ、やめろっての!!」
首を後ろに逸らして、逃げた花宮。再び黒子は無機質なビー玉の瞳をまっすぐ向けた。冷たい夜風が黒子の唇に触れる。花宮の口はいつだって、甘さなんてどこにもないカカオのすっぱい味がした。大丈夫だろうか、この味覚オンチ。そんなことを思うくらいにはまずい100%カカオのチョコレート。花宮と知り合わなければ知らない味だった。こんなに身近な味になるなんて誰が予想できただろうか。くすり、とまるで嘲笑うように笑い声を漏らした。
「僕はもう誠凛高校の黒子テツヤではありません。20代半ばのしがない保育士の黒子テツヤです」
「はっ……薄情なやつだな。じゃあ、ただのしがない黒子テツヤさんは俺のそばにいてくれますか」
「……どう、しましょうかね」
言いながら革の手袋を外す。黒子は迷うような素振りは一切見せず、花宮にその白い手を差し出した。困っているのか蔑んでいるのかか、どちらにも見えるような器用な表情でその手を取る。そっと、薬指にシルバーの指輪をはめる。手袋から晒されたばかりの指をゆっくりと這う指輪が冷たかった。いつの間にか、雲は流れて満月と半月のちょうど真ん中くらいの大きさの白い月が花宮の頬の紅を露にした。赤いですよ、と声をかけると、視線を外して至極不満そうに
「バァカ」
と言うのだった。

ーーーー
花宮くん、お誕生日おめでとうございました。大好きだよ。眉毛もげろ。



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