...trash can

宮高
2014/11/25 18:31
ソファーに並んで座った宮地と高尾。特に興味もないくせに真面目にテレビを見つめる宮地は横から見つめる高尾の視線には気付いていないようだった。二人の間には黒いリモコンがあった。宮地はリモコンを握り、高尾はその上からそっと手を乗せた。ゴツゴツとした肉の少ない男らしいようで細い指を有する宮地の手。ちらりとさえ、向けられることのないその琥珀はとっくのとうに諦めている。
宮地の手をリモコンから剥がして、自分の顔の前まで持ってくる。手のひらのしわから、指先までじっくりと舐めるように見回す。みかんが嫌いだからなのか宮地の手のひらは白い。赤や青の血管が透けていて、どこか病弱そうにも見えた。生命線長いなぁ、と人差し指でなぞる。くすぐったかったのか、宮地の肩がほんの少し跳ねた。
薬指の先端を口に含んだ。爪と皮膚との境界を執拗に舌で撫でる。少しずつ、指を奥へ送り、硬い爪先が喉の入口にぶつかる頃、高尾は指の付け根に歯を立てた。薄い皮膚の下の骨がコリコリと口内に音を響かせる。指と指の間のやはり薄いひれのような部分にも舌を伸ばす。含んだ指をぬるい口の中で舌のまわりをぐるりと回した。わざと閉じきっていないくちびるの端からぴちゃぴちゃ、と水音が溢れていた。
「なんなの?」
やっとテレビから視線を外した宮地。口から指を離すと、部屋の照明にそれはいやらしく光っていた。両手で支えていた宮地の手首は、現役の頃に比べると若干細くなっていた。まあ、そんなことに気付けるのは高尾だけだろうが。
きらり、と光る薬指のやわらかい腹に音が出るようにちゅっとキスをした。
「はいはい」
呆れたように宮地は空いた手で高尾を引き寄せ、唾液に濡れるそのくちびるを舐めとってから、自分のそれを押し付けた。

ーーーー
ずっと前にタグで書いたやつです。
#一番目にリプきたキャラに二番目にリプきたキャラへキスさせる 1、高尾 2、宮地
高尾から宮地にキスさせなきゃいけないのに、分かった上でこれを書いた私ってなんなんですかね。


宮高
2014/11/21 22:42
『キスより濃厚な』

見ました? と高尾がテレビを顎で指した。宮地は怪訝そうに目を向けた。液晶画面には、某アイスのCMが流れていた。
「お前、ほんと柴咲コウ好きな」
「違うっすよ。柴咲コウ確かに好きだけども」
「ああ、なんだっけ。チョコレートブラウニー?」
「そうそう。気になりません?」
お前、辛党じゃん、と言おうとして口を噤む。ぼうっとテレビを見ている高尾の顎をさらう。するりと指で頬を撫でてから、それを覆う。
高尾が息を飲んだのだのが分かった。ごくり、と喉が上下をして、宮地を見つめる瞳が丸くなる。宮地てるの影に入って、瞳孔は黒さを増した。
「こういうことか?」
「そう、いうことです……」
唇を重ね合わせて、離して、重ね合わせて。舌でべろりと舐めあげるとくすぐったそうに目を伏せた。下唇に歯を立てる。肉があまりにも柔らかくて、少しでも気を抜けば噛みちぎってしまいそうだ。
体を離す。唇と唇から、銀の糸が引いた。手の甲でそれを拭う。
「ガリガリ君じゃダメか? 来週、シングル出るんけども……」
「全然、足りない。濃厚の意味分かってんすか?」
「あとでな?」
高尾の額にキスをして宮地はソファーから立ち上がった。背もたれにかかっていた、パーカーを羽織って笑う。
「腹が減っては戦はできぬ、だろ」
「情緒もへったくれもねえ」

ーーーー
なんも誕生日ぽくないけど、高尾ちゃん、おめでとう!!
千と千尋の神隠し見てるせいで、高尾くん水神さまパロとか書きたくなってきた。


黛黄
2014/11/18 18:21
「ごめんね、黛サン」
「謝るくらいなら退け」

嫌っス、と黄瀬は勢いを付けて黛の肩を押した。後頭部をぼふん、と柔らかな枕に沈ませて目を白黒させている黛がなにかを言おうと口を開いた瞬間に黄瀬は黛に覆い被さりその口を無理矢理に塞いだ。黄瀬は目蓋を閉じていて、黛には合わない焦点に黄瀬の長い睫毛が朧げに見えた。強く押し付けられた唇の隙間から質量のある生暖かいものが歯列を撫でた。ぞわり、と今まで感じたことのない恐怖に目の前の端整な顔を殴ってしまう。
「っっにすんだ!!?」
「恨むんなら黒子っちじゃないスか?」
黄瀬は商売道具の顔を殴られておきながらも薄い笑みを崩さない。黄瀬を殴った手で口を拭いながら、次の言葉を探す。体勢を変えて、黛の太腿あたりに座り込んだ黄瀬が自分のベルトにかけていた。カチャカチャと軽い音がする。黛がその腕を掴んで、やめろと言えば黄瀬は半ば睨みつけるように黛をまっすぐに見つめた。
「……ひとつ聞きたい」
「いくつでもドーゾ」
「俺は黒子の代わりか?」
へ? と間抜けな声を漏らした黄瀬はさっきまでうって変わって、柔らかな笑みを見せた。へにゃ、とまるで幼子のように屈託なく、黒子にだけ向ける笑顔。
「オレね。愛とか恋とか、そーいうので縛るの好きじゃないんスけど、愛の対象? がひとつである必要はないと思うんス」
「素直に俺に惚れたと言え」
「ははっ、『俺にも』ね」
黒子の代わりではないと聞いて、どこかほっとしてしまった自分自身を恥じる。感情が顔出る性質ではないから黄瀬には気付かれていないと思うが、それでも黄瀬に体を許したとは思われたくない。
「離せ」
「え。オレ、ちゃんと黛サンのこと好きだよ?」
「死ね。俺は黒子を愛しているんだから、お前なんかのヤンデレルートはいらねえ」
「分かってるし、知ってる」
背を丸めて黄瀬はもう一度、黛にキスをした。ちゅ、とわざとらしいほどのリップ音を立てて離される。

ーーーー
黛黒前提の黛黄。あの日、黛黄が検索結果ゼロだったのはいい思い出。


影月
2014/11/18 11:15
[首]

誰もいない部室には全開の窓から生ぬるい風が吹き込んできた。黄ばんだカーテンは寒々しい蛍光灯に元の白さを見せていた。絶え間なく揺れるその隙間からは真っ暗闇が広がっていた。
ガツン、と後頭部がロッカーにぶつかる。衝撃でロッカーの中身が崩れた音がした。喉ぼとけの下のくぼみを圧迫する拳を見遣る。細い指が強く握こまれ白いシャツと絡む。そこから少し視線を上げる。黒い瞳にぶつかった。余裕がないと顔に書いてあるような影山。影山の吐いた息が首筋の表面を通り過ぎて襟の奥へ吸い込まれるように消えていく。10cmにも満たない身長差だが、胸倉を掴まれても月島のかかとは浮きはしない。けれど、苦しいものは苦しい。
「影山……離して」
告げて数秒後、影山の右手が開かれ、ぐしゃりと握られていた襟の皺も開く。下から睨み付けてくるその鋭い視線は決して上目遣いなどという可愛げのあるものではない。目を閉じると溜息がこぼれた。よくあることなので諦めはついている。少し待てば落ち着くのだ。
影山が月島のシャツのボタンをひとつ外した。第一ボタンはもとより外してある。何も言わないでいれば、もう一つ外される。シャツの合わせ目から見える素肌に影山の指が這わされた。中指の、人差し指の腹が触れ、滑るように手のひらまでもが肌にぺたりと骨の上の薄い皮膚を押した。すぐ近くに迫る影山の顔から目を逸らし、首をひねる。相変わらず見えるのはカーテンの向こうの黒。
影山の指は、ないに等しい凹凸をなぞってから、浮き出た鎖骨に指をかけ、ぐりぐりとそこを弄んだ。
「ねえ、何がしたいの」
濃密だが張り詰めて、殺伐とした沈黙に耐えかねて声を出す。黙れと言わんばかりに接している手に力がこもった。
「触っていいか」
今更だろうが、と返してやりたくもなったが大人しく頷いておく。再び手が離れ、胸元がすうっと涼しくなる。両手で襟をぎりぎりまで広げ、露になった首筋に影山は口付けた。俯くように顔を埋める影山の真っ直ぐな黒髪がくすぐったい。暖かい何かが鎖骨のくぼみから伸びた筋を撫でる。ぞわり、と冷たいものが背中を走り、同時に体中の表面を覆うようにじっとりとした汗が出てくるのが分かる。暑い。
首の皮を前歯で噛み、引っ張るようにした。それは痛みというほどの刺激ではない。空いた片手は月島の肩を押さえつけ、もう片方は頭に回されている。短い髪の間を指が這った。ちゅ、と軽い音が繰り返される。くちびるのやわらかさをぼんやりと感じれば、フェイントのように小さな刺激が訪れた。
「僕からもいい?」
その沈黙は否定だった。


随分前に書いたのを発掘。


宮+高
2014/11/07 22:27
[PSYCHO-PASSパロ]
椅子の背もたれをぐいー、と押し、首を仰け反らせると真後ろのデスクで作業している同僚の姿が見えた。珍しく真面目にやってるのか、と椅子のキャスターを転がして、その液晶を覗いた。たくさんのウィンドウが開かれているようだが、やけに画面は暗く、表示されているのはどれも画像のようだった。
「何見てんだ?」
「宮地サン? あー、ちょっと前の事件のほとけさんの写真すね」
「……お前、それ、ギリギリっつーかアウトじゃん」
「なんだかんだ言って、セキュリティ、ザルっすから」
宮地は溜息をひとつ吐いて、椅子を隣に並べて画面を覗き込んだ。ひとつひとつをじっくり見ていくと、どれも切断された体の一部だった。そして、どの断面にも共通点があった。
肉の断面、赤から黒へ変色しつつ、しかし、中央の骨は白い。時には脂が外気に触れることによって、冷えて白く固まっているものもあった。総じて死体が見つかった場所が暗かったからなのか、どの写真も鮮明とは言い難かった。
「ザルだと感じてんのはお前くらいだ。いいから、仕事しろ、高尾」
「気付いたっしょ? 言ってもシカトされんだよなぁ。多分、緘口令が布かれてる」
「うちの係の仕事じゃないしな」
しかし、所詮は裏道を使ったとしても執行官が手に入れることのできる情報なんていうのは価値があるものではなく、あえていうのならば、隠してあるという状況にある情報そのものがエサにほかならない。
「担当って三係でしたっけ?」
「これって、のこぎりか……?」
「っぽくないすか?」
肉の断面がぐちゃぐちゃになっており、よほど切れ味の悪いもので切ったのだろうと思ったが、どうもこのぐちゃぐちゃっぷりをつい最近見た。昨日の現場に転がされていた死体だ。
「のこぎり好きなんすかね〜」
「ちらっと聞いただけだけど、三係の方では切ったあとにやすったんじゃないかっていう話も出てたみたいだぜ?」
「やするってなんすか……金属ヤスリ?」
ありえねえー!! と笑い出した高尾、執行官であり、宮地の部下である。この係の中では最も若いのだが、一番の古参である。宮地よりもこの仕事には詳しいかもしれない。しかし、あまり仕事熱心ではなく、今までの数々の功績からは想像は付きにくい。熱心ではない、というだけであってもちろん不真面目ではない。やるときにはやる、最善の一手のみを打つことに長けているので、傍から見ると何もしてないように見えるだけなのだ。と言っても、本人が一手で終わらせるのをもったいないなどと言って普通に働くこともあるので、さらに日頃がただのサボりにも見える。この部下についてこれだけのことを把握できたのここ最近の話だった。
同時に仕事に慣れ、自信を感じ始めたのもここ最近である。
「まー 、そんなに面倒なヤマじゃないっすね、コレ」
腹を抱えていたと思えば、突然、笑うのをやめて言った。元から少し吊った目を細める。緩く弧を描く口元も相まって、鋭く冷たい印象を与えた。
「……へえ、お前が言うならそうなのかもな」
複雑な思いを全て押さえ付けて宮地は、高尾に釣られるように薄い笑みを浮かべた。


宮+高
2014/11/07 20:12
[PSYCHO-PASSパロ]
ずっしりと重い、奇形の銃を構える。それを奇形と呼ぶ世の中ではないのだが、少し旧時代の武器をかじってきたせいで、この銃の方が奇形だと思ってしまう。リボルバーだとか、ライフルだとか実弾を込めるような武器は、数十年前に比べると遥かに一般人には手に入らないところにあった。学んだ以上、実物を手にしてみたいものだとか考えながら、脳内に響く聞き慣れた女性の声に耳を、いや、意識を傾ける。
対象の犯罪係数が更新されました、無機質な機械音がそう告げるやいなや、銃のあらゆるパーツが開き組み変わる。さらに複雑な形へと変形したその銃。そして、銃口に青い光の粒子が集まり、収縮していく。
放たれた光線は誰の目も止まることなく、対象の身体へと吸い込まれていった。
大きな破裂音と共に狭い室内に細かく裁断された肉片、生臭く赤い鮮血が雨のように降り注いだ。紺色のウィンドブレーカーの背にそれらが付着するのを感じながら、宮地清志はその部屋を後にした。

ーーーー
最近、相互さんになった柚月さんに「執行官宮地さん、どう?」って言われてときめき死を迎えたので、ちらっと。もうちょい書く予定あります〜(フラグ) あ、でも事件とか考えるのは無理なんで、それっぽいことだけ(フラグ)


宮+高
2014/11/02 19:21
高尾和成はため息をつきながら、定期券を改札に押し付けた。終電も近い時間となり、駅には人がまばらにいるだけ。たまには定時で帰って満員電車に揉まれてみたいものだと、歩を進める。エスカレーターをゆっくり登り始める。どうせほかに乗っている人はいないのだ。これもダイエット効果あったりしないのかな。あまり長くはないエスカレーターと階段は比較的にこの地下鉄が古いということを示している。新しい列車ほど地下へ潜るのなんのって。
駅を出ると空は濁った紺色を広げ、ぼんやりと細い月の姿を確認できるくらいだった。小さな古い駅の横は寂しい商店街がある。これまた駅と同じく小さい。日中や休日は和気あいあいとした商店街なのだが、如何せん時間が遅い。もう少しで日付が変わってしまう。そんな商店街も半ば、とある金物屋の角を曲がった。いかにも、な路地裏。狭い路地が長く伸びていた。木造の家がちょこちょこ目に付く。そのうちの一軒。蔓が絡みついた小さな家の壁には暗い緑の蔓が絡みついていた。曇りガラスの窓はオレンジに染まっている。ほっ、とさきとは違う安堵のため息を零しながら、くすんだベルのついた扉を押す。
「ただいま、宮地サン」
「おう、おかえり」
ちりりん、とベルが鳴った。
カウンター席に座り、隣の椅子に鞄を置いた。宮地は高尾が席に着くと同時くらいにカウンターの内側へ入った。その手には布巾が握られていたので、掃除でもしていたのだろう。
「新しい豆仕入れたんだけど、どうする?」
「え〜、こんな時間に2杯も飲んだらオレ寝れないじゃないすか」
「だよなぁ。明日、土曜だしよくね? ……もう今日か」
ポットを持ち上げる腕が見えた。でも、と突っ伏した高尾の耳にコーヒーをドリップする音が聞こえてくる。コーヒー独特の匂いも香ってきた。
「オレも手伝いましょうか?」
「ん? ああ、いつもの会合だから? いいよ、休めって」
「はぁ。深夜の宮地サンは無駄に優しくて辛い」
「俺はいつも優しいだろうが、轢くぞ?」
「そこは挽かないと」
「誰が上手いこと言えと。ていうか、そこまで上手くないわ」
薄い浅葱色のコーヒーカップを受け取りながら高尾は笑った。宮地が銀のミルクが入った容器とスプーンも渡す。
「そんなこと言っても独り身だし、暇なんすよねー」
「まあ、分らなくもないけど。言っとくけど、時給は850円までな。3食付き」
「高校生すか!!」

ーーーー
脱サラしておじいちゃんがやってた喫茶店を継いだ宮地と常連になった高尾。
古書店めぐりしてきた黒子が来たり。


森笠
2014/03/27 12:14
三月十日。森山由孝は晴れて海常高校を卒業した。泣くのをこらえて後輩に見栄を張る同級生たちの輪の中で、森山も涙を隠した。湿っぽいのは大嫌いな元主将に倣う。そんな元主将を尊敬してやまないとある一年生が号泣しているのは想定内で、森山も元主将もバスケ部全員が「やっぱり」と笑みをこぼしたのだった。
式が終われば今度は、どこぞのカラオケだのファミレスだので打ち上げが待っていた。バスケ部で行われる三送会(三年生を送る会)はもう少し先の予定なので、ここで最後な訳じゃないし、と二年生の眼鏡がわんわん泣き続ける図体ばっかり大きい子供みたいなモデルを慰めた。
校内は、賑わっていた。笑い声も泣き声も響いていた。まだ春というには遠く、春一番もまだだし、桜はつぼみの先端をほんの少しだけ赤くさせているだけだ。それでも、花粉だけは意気揚々と春を告げていた。ただでさえ、花粉で眼も鼻も痒くて困っているのに誤解されかねないな、とぼやく。誰も突っ込んでくれないので、元主将に同意を求めると、部で一番長身のおかんポジが笑った。森山、それ墓穴だろ、と。否定すれば、ら行の言えない二年生は全力で泣きついてくる。「分かい(り)づらいっすよおおおおお」とモデル以上にうるさい泣き方だ。

「止まるな。負けるな。お前等ならできる」

元主将はくるり、と背を向けてそう言った。
男は背中で語るもの、と言ったのは誰だろう。
うるさくむさ苦しい集団が突然静かになって、近くで騒いでいた人たちもなんだなんだ、というように黙ってしまった。たくさんの視線を感じるなか、元主将は声を張り上げた。練習中の怒声と同じように、短い言葉を三つだけ。後輩たちには大きく確固たる強いものとして映っているだろう背中は、同じ三年生からしてみてばボロボロで決して強くはなかった。涙を隠しているだけで、ただの照れ隠しだということに後輩たちは気付く様子はない。笑いをこらえて肩を震わせたり、むりやり引き攣った困り顔を作ったりと三年生は大忙しである。
分かりやすい背中だな。そうだな。熱くなってきた目頭を押さえる。視界から元主将もおかんポジも眼鏡もら行言えないやつもモデルも消えた。真っ暗な世界。
勝て、と言わないのは自分が負けたから。進め、と言えないのは自分はもう一緒に進んでやれないから。
そこに自分たちはいないから。
元主将の思いが痛いほどに伝わってくる。
今日、誰よりも大きくて重い後悔と責任を背負ったまま、この元主将は海常高校を卒業する。

森山の瞳から涙は零れなかった。


ーーーー
卒業もの一個も書いてなかったなぁと思って。


B
2014/03/25 10:50
バイトから帰ってくると、玄関には高尾はいなかった。いつもなら、ドアを開けるとそこには絶対高尾がいる。日中暇なのか俺が帰ってきたときが一番饒舌でテンションが高い。おかしいな、と思いつつリビングに行く。ここにもいない。
「たかおー?」
いないのだろうか。
いない?
いないってどういうことだ。当たり前だが高尾は幽霊で、いや決して当たり前などではない。なにが当たり前だ。元から朧げな存在だ。いつ消えてもおかしくない。むしろ、今まで本当に存在していたのかどうかすら不安になってくる。
リュックを投げ捨て、じわりと冷たい汗が体中這うのを感じながら和室のふすまをすべらせた。
「たかお!!!」
白骨の上に敷かれた畳の真ん中に高尾は座っていた。入口に背を向けているので俺からは黒い後頭部とオレンジのパーカーしか見えない。
「宮地サン、ごめんなさい」
「なにが」
「オレには体がないし、どうも宮地サンにしかオレのことが見えないみたいだから、オレには解決できない。近い間に、警察、じゃなくても黄瀬か青峰か……緑間あたりがオレの死体を回収しにくると思う」
淡々と告げる高尾。その声には、悔しさのようなものが滲んでいる気がした。
「それって……」
「ここに住めなくなったら、やっぱり困ると思うんだけど、本当にオレには謝ることしかできない。ごめんなさい。すごい迷惑かけました。申し訳ないです。オレのわがままだし、もう今更って思うかもしれないけど、早いうちに引っ越してください。今だったらまだ、平気だと思う……」
「どういう意味だよ!!!」
「…………オレからは何も言えない。実はオレの記憶、半分くらい飛んでるんだよね。親の顔とか名前とかも分かんないし、家とかも。覚えてるのは、殺される瞬間と、それに関わった奴らについてだけ」
「は……はあ? え、なにいってんの。意味わかんねえ」
「ごめんなさい」
「俺に、できることは」
「え……なにいってんの。分かってるよね、あいつらヤクザだよ!? 何してくるか!!」
「いいから!! ここまできて何にも知らないまま、なんてできるかかよ」
音もなく立ち上がった高尾が下に人差し指を向けた。あの日、初めて高尾を見た時と同じように。出して、と消え入りそうな掠れた声でそう言った。今にも泣き出しそうな表情をしている高尾に笑って見せて、俺は畳とベニヤをめくる。半年ぶりくらいに見たそれは全く変わっていなかった。
「手袋とかある?」
「手袋?」
指紋とか残るとまずいから、とすらすらと指示を出す。できるだけ動かさずに指の骨を折れ、と死体の横にあぐらをかきながら薄く笑っていた。
「今、上になっている左手の薬指折って。指輪……ごとでいい」
「結婚してたのか……」
掃除用に買っておいたビニール手袋をはめて、骨に触れた。温かくも冷たくもない骨。軽い。そう思った。ゆっくりと指一本だけを摘みあげる。肉に覆われてないそれは、本来ならばありえない方向にも容易く関節を回す。高尾を見る。高尾はにこり、と無言で頷いた。
ぱき、と大した力も込めずに折れてしまった。
「それ、持っててくれる……?」
懇願するような、縋るような視線。

ーーーー
書き殴ったなぁ。まとまらなくてごめんなさい。というかまとめる気はなかったですよね。
宮地に高尾の指の骨持たせたかっただけ。今となっては、本当にそれだけ。
ここで一句。

ニュース見て 思わずホモる 腐女子かな

事実は小説よりも奇なり、とも言いますし、ニュースの事件はそのままネタになります。


A
2014/03/25 10:45
インターホンに出ると高そうなコートに身を包んだスーツの男が立っていた。画質の悪い画面に、眼鏡が反射しておりその顔はあまりはっきりとは見えなかった。
「…………しんちゃん……?」
「え?」
高尾の独り言に振り向いたところでもう一度、チャイムが鳴った。居留守は使えないだろうし、俺には使う理由がない。ただ、あまりにも青い顔をした高尾を見るとどうしていいかわからなかった。こんなに明るい高尾だ。かなり世渡りが上手かったはずだ。人から嫌われるような性格はしていない。曲がりなりにも数ヶ月一緒に暮らしているのだ。
どうして自殺したのだろうか。
何度か聞こうとしたことはあるが、珍しくあからさまに嫌そうな顔をして聞かないでくれという雰囲気を出すのだ。
「はい……」
「突然、すみません。〇〇銀行の橋本というものです」
「あーあの、いいです大丈夫です」
小さな液晶の向こうで男が声を発した瞬間、後ろからひっ、と引き攣ったような声がした。急いでインターホンを切って、高尾のもとへ行く。ソファに丸くなって、ガタガタとわざとらしいほどに大きく肩を震えさせている。
「こっちむけ」
カーペットに膝をついて俯いた高尾の顔をのぞき込む。
「っひ……!! あ、しんちゃん、ごめんなさい、ごめ……っ……だから、もう、」
「高尾!!」
まだ外にさっきの男がいるかもしれないなどと気が付いたのは怒鳴ったあとだった。触れられないのがもどかしい。思わず、その肩を揺すろうと伸ばした手はすぐに冷たい布地を撫でる。


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