...trash can

奈良荒さにわ珍道中。
2015/02/27 16:47
※奈良坂と荒船が一緒に審神者をするお話。


ここ、どこだ……? と呟いたのは荒船だった。どこまでも続いていそうな野原と青空。だだっ広いのひとことに尽きる。周囲を見回すが、何も見当たらなかった。
「荒船さん、俺たち、さっきまで昇降口にいましたよね?」
「俺、まだ片方上履きなんだがどう思う?」
荒船が自分のつま先を指差し、奈良坂もそちらを見た。確かに片方は革靴で、もう片方は上履きだった。
「ご愁傷様です」
学校からそのままボーダー本部に向かおうとしていた奈良坂はちょっとした用があって、荒船を探していた。本部まで行けば会えることは分かっていたが、学校に関することだったので、できれば校内で済ませたいと考えていた。一日の授業が終わり、部活に向かう生徒と帰る生徒、ぼんやりと居残りをしようとしている生徒に別れ始めた。荒船はまっすぐにボーダーに向かうだろうから、居るなら玄関だろう、急いだ方がいいな、と階段を降りて玄関へ。案の定、玄関に設置された靴箱で今まさに靴を履き替えようとしていた荒船を見つけ、声をかけた。そこで話を始めると同時に、爽やかというにはいささか強い風の吹く、野原へと景色が変わっていた。
「幻覚でも見てるか、夢を見てるかだな」
どちらにせよ、ふたりで同じものを見るというのはおかしな話だ。どちらかが、どちらかを勝手に脳内で作り上げている可能性もいなめない。
「頬でもつねってみます?」
「このリアリティだと無駄な気もするな」
風にそよぐ下草を一瞥した。荒船は自分の左頬へ、奈良坂は荒船の右頬へ、腕を伸ばす。
「おい。自分の頬にしろ」
上履きの裏が奈良坂の脛へ衝撃を与えた。
「冗談じゃないですか」
「お取り込み中のところ、少しばかり失礼してもいいだろうか?」
ふたりしかいなかったはずなのに、背後から声が聞こえた。隠れる場所もないはずだ。戦闘職種なだけあって、他人の気配というものに過敏であるふたりが全く気付くことなく背後を取った人間がいるというのか。
「誰だッ?!」
勢い良く振り向き、同時に大きく飛び退く。互いの手にトリガーが握られていた。起動せずに済んだのは、振り返ったところにいたものが、瞬時に理解できなかったからだろう。
「僕は歌仙兼定。いろいろと話したいことがあるんだけど、手違いで今はそんな時間がないみたいなんだ。とりあえず、僕は文系名刀だって覚えておいてくれ」
「ブンケイメイトウ……?」
漢字の脳内変換が追いつかなかった奈良坂が首を傾げた。すぐに荒船が「文理選択の文系に、名のある刀で名刀じゃないか?」と囁いた。
「あまり納得いかないんですが……」
「そうか? だって、そこで喋っているのは刀だぞ」
文系はよく分からねえけどな、と奈良坂を見る。色々と意味が分からなさすぎて、深く考えることを互いに放棄したようだ。
「……俺には、カラフルな男性に見えますが」
歌仙兼定と名乗ったそれ、奈良坂には男性に見えていて、荒船には刀に見えているものは、はっはっは、と笑い声をあげた。
「帽子のあなたが、主なんだね……」
「あるじ? 帽子って俺か?」
歌仙兼定がどこか悲しげに微笑んでいるように奈良坂には見えていた。荒船は自分とは違うものが見えているらしいので、その表情は見えていないのだろう。そう思って歌仙兼定をちら、と窺うと、歌仙兼定はくちびるに人差し指を当ててウィンクして見せた。
「おーい!! こんのすけー、見つかったぞー!!」
そして、大きな声で空に向かって叫んだ。
「お手数おかけしましたぁぁ!」
声と共に小さな狐が空から降ってきた。器用にも作務衣を着て、三角巾を被っている。歌仙兼定が、帽子の彼だよ、と告げると、こんのすけと呼ばれた狐は着地してすぐに荒船を見上げ、荒船の上履きの上にぽん、と軽く触れた。よく分からないまま、こんのすけをじっと見つめた荒船。きつねはイヌ科だったろうか、ネコ科ではないよな……?
そんなことを考えていると、目の前で直立していたはずの刀が霞に包まれた、と思った瞬間に音もなく人に変わっていた。縹色の着物に明るい灰色の袴、裏地の華やかなマントを羽織り、その留め具には薄紅色の花が使われている。腰には武具をまとっていた。奈良坂の言う通り、カラフルの男がそこにいた。
「うわ、刀が……!?」
目を大きく開いて、ぽかーんとしている。歌仙兼定はドヤ顔で「文系名刀だよ」と再び言った。
荒船から一歩離れ、恭しく手を三角についたこんのすけ。ちらちらとせわしなく周囲を確認し、落ち着かない様子だ。
「こんのすけと申します。案内と説明の任で遣わされたものでございます。とりあえず、ここは危ないので本丸へと御案内させ、」
「こんのすけ、遅かったようだよ。もう、主との契約は済んでるね?」
「一時的なものではございますが……!」
歌仙兼定はすっと目を細めて、遠くを見た。つられて奈良坂と荒船もそちらを向く。数十メートル先に黒い影があった。
「百聞は一見に如かず、だ。ふたりとも黙って見ていてくれるかな」
ふたりとも戦い慣れているようだからね、そう言われてしまっては、手の中のトリガーを仕舞わざるをえなかった。
ガシャガシャと金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。まるで鎧をきた武者の行進のような音だった。その音が徐々に大きくなり、禍々しい光を灯す、金属でできた骨格だけの蛇のような怪物が近付いてきた。見たこともないものの出現に、奈良坂と荒船は、無意識に戦闘体勢に入る。ポケットの上からトリガーを握っていたらしい。ズボンにぐしゃり、としわがついていた。荒船が帽子のつばを引っ張った。
痛いと感じてしまうほどに張り詰めた空気は、今まで感じたこともないほどの強い殺気のせいだった。その殺気は怪物から惜しげもなく発せられていた。
「すぐに片をつけるよ」
歌仙兼定が腰の刀をゆっくりと抜いた。

大きな平屋作りの家に通された荒船と奈良坂。広い中庭を囲むように建っているらしい。中庭には、手入れの行き届いているだろう植物の緑が目に眩しく、庭の真ん中には池があり、橋までかかっている。少し目を凝らせば魚影が見て取れた。
「僕がお茶をいれてくるよ。こんのすけはふたりに話すことがたくさんあるだろう?」
歌仙兼定はそう言い残して、襖を閉めた。深緋色の座布団に正座をしたふたり。向かい側にはこんのすけだ。こんのすけは、自身の大きさにあったふたまわりほど小さい同じ色の座布団を使っていた。
「お二人の名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「荒船哲次だ」
「……奈良坂透」
先程までの歌仙兼定の言葉を思えば、自分は名乗る必要はないのではないか。奈良坂は、隣の荒船へそっと視線を遣った。何を思っているのか荒船はまっすぐにこんのすけを見ていた。
「単刀直入に申しますと、お二人に審神者としてこの地で戦って欲しいのです」
こんのすけは続けた。
歴史の改変を目論む「歴史修正主義者」によって過去への攻撃が始まった。時の政府(荒船、奈良坂の住んでいる時代よりもずっと先らしい)がそれを阻止するため審神者という者を各時代へと送り出す。審神者となる者とは、眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる、技を持つ者。その技によって生み出された付喪神「刀剣男士」と共に歴史を守るため、審神者は過去へ赴かねばならないのだという。
「歴史とは幾重にも選択を重ねてできるものです。選択肢はいつの時代であれ、たくさんございます。その中には民衆に選ばれることのなかったものも、勝ち取ることのできなかったものもあるのです。そして、その分岐点を狙って歴史を覆そうという輩が現れてしまいました。対抗できるのは審神者のみ……!」
話の内容は理解できた。にわかには信じ難かったが。ふたりは顔を見合わせた。先に口を開いたのは奈良坂だった。
「審神者の……その資格みたいなものは荒船さんにしかないのでは?」
「いえ、この土地に足を踏み入れることができた段階で、あなたは審神者の器をお持ちございます。そこにおります歌仙兼定の主が荒船さまだったのです。奈良坂さまもじきに会われることになるでしょう。あなたの刀剣男子に……」
襖に影が写った。歌仙兼定が盆に湯呑を乗せ、襖を滑らせた。もう平気かな? と部屋の中をぐるりと見渡して、湯呑をそれぞれの手元へと渡した。こんのすけに並んだ歌仙兼定は先程までの服装とは変わっていた。前髪をあげて、白い着物の袖は紅白のたすきで邪魔にならないようにまとめられている。
「まさか、他に審神者の器を持つ方がすぐ近くにいるとはつゆとも知らず、荒船さまだけのはずが、奈良坂さまもお呼びしてしまったようです。わたしの不手際にございます……!! 」
ひとつの時代に、ふたりも審神者がいること自体が珍しいという。しかも、それが知り合いということなど今まで一度もなかったとか。時代と審神者の器だけを選択して呼び寄せた結果が、未だに某政府に認知されていなかった奈良坂までもをこの地へ転送された、とのことだった。メカニズムは全く分からないし、問い詰めようという気にもならなかった。
「申し訳ありませんでした。しかし、結果から言わせていただけば、遅かれ早かれ、器である奈良坂さまもこの地に呼ばれていたでしょう。ここの本丸は荒船さまのために用意したもの。早急に奈良坂さまの本丸もご用意いたします。少々、お時間を頂けるでしょうか?」
改めて頭を下げるこんのすけ。
「まだ受けるとは言ってない」
荒船はぴしゃり、と言い切った。
「この地の時の流れは特別でございます。今から、元の世界にお帰りになられても時は一秒とて進んではおりません。その点はご安心ください。現に荒船さまと奈良坂さま、お二人の審神者がいらっしゃいますように、他にも審神者はいらっしゃいます。常にこの空間に拘束されるということもございません」
こんのすけが必死に説明する。奈良坂は、小さな狐があせあせと説明している姿が可愛くなってきてしまった。はっきり言って情が移り始めていた。それだけで引き受けようなどという迂闊さを奈良坂は持ち合わせてはいなかったが、もうひと押しされたら引き受けてしまうだろうとは感じていた。
対して、荒船の表情からは頑なな拒絶が窺えた。
「断ることはできるか?」
「はい、無理強いできることではございませんので。刀剣男子は付喪神、もとは意思の存在しないものとはいえ、今や自ら戦う運命の元に生まれた存在です。自らの意志で戦う決意を固めたものたちですから、指揮官である審神者がやる気がないのでは、その本丸には破滅しか残されていません」
「自らの意志で……」
荒船のつぶやきは、もはや荒船の陥落宣言に等しいものだと気付くことができたのは、当然だが、奈良坂だけだった。
「他にも審神者がいるとは言いましたが、審神者の器を有する方というのはとても稀有な存在です。決して多くはないのです」
奈良坂は荒船を見た。荒船はゆっくりと頷いた。
「引き受けよう。具体的な話をしてくれるか?」
「はい、もちろんでございます!」
審神者は刀剣男子を率いて戦場に赴くだけではなく、手入れだとか鍛刀だとかもやらねばならないらしく、それらの方法を教わりながら、こんのすけと歌仙兼定が本丸を案内した。厨房に入ると歌仙兼定は「料理は得意なんだ、任せてくれ」と笑った。
「本丸の造りはほとんど変わりませんので、奈良坂さまはこちらである程度のことを覚えていっていただけると助かります」
「そのことなんだが、俺もここを利用することはできないのか? いいですよね、荒船さん?」
「その方が安心だしな。なにかと便利そうだ」
「俺のこと、コキ使う気満々ですか」
「もちろん、平気でございます。ただ、少々、手狭になってしまうと思いますが、それでもよろしいですか?」
構わない、と首を縦に振る。
本丸、と呼ばれた屋敷内をぐるりと一周し、元いた部屋に戻ってきた。茶を入れ直してくる、と盆とこんのすけを左右に抱えて歌仙兼定は部屋を出ていった。じたばたと短い手足で暴れるがまるで何も見ていない聞いていないという風だった。部屋を後にする際、足の指を引っ掛けて襖を閉めたのを荒船は見ていた。

「こんのすけは忙しいからね。あとは引き受けようと思って」
すぐに戻ってきた歌仙兼定は、出会った時の服装だった。小脇に抱えていたこんのすけは見当たらなかった。
「これを飲んだら出陣しよう。習うより慣れろ、だね。あなたを主とする刀が近くにあらわれているはずだから。早く回収してあげないと」
奈良坂に目線を送った。曖昧に頷いて応える。
いま、荒船、奈良坂、歌仙兼定の三人がいる部屋が居間である。他にもいくつもの空き部屋があり、というよりはこの屋敷は無人で、空き部屋しかなく、それぞれに植物の名前が付けられていた。まるで旅館みたいだと、奈良坂が言うと、その方が便利なんですよ、とこんのすけは答えていた。そして、この居間からあまり離れいない桜の間を荒船に、菫の間を奈良坂に使ってもらいたいとのことだった。どの部屋を使っても構わないそうだが、特に部屋の大きさや内装に違いは見えなかったので、言われたとおりに使わせてもらうことにした。
「部屋の箪笥に着物が一式入っているから、それに着替えてくれ。戦装束だよ。といっても、そんなに気負うようなものではないから。準備ができ次第、行こうか」
「……あなたで戦うのか?」
なんと呼んでいいか分からず、当り障りのない二人称を使った荒船が歌仙兼定を見る。
「なんと呼んでくれても構わないよ、主。戦場に行けばわかるが、そうだね、審神者は自ら戦いはしない」
「そうか。着替えてくればいいんだな?」
空になった湯呑を置き、立ち上がった。

白い着物に紺の袴、黒い漆塗りの木でできた靴、神主が履いている浅沓というおそろいの出で立ちとなった、荒船と奈良坂。見慣れない服装で、互いにコメントのひとつも出てこなかった。
「着替えには手間取らなかったかい? 着物の文化は衰退してしまっているのだろう?」
「きちんと着れているのかも分からないくらいだ」
歌仙兼定の問いにため息をついたのは荒船だった。奈良坂は履き慣れない硬い履物をじっと睨み付けていた。
「ぱっと見た感じだと、大丈夫そうだよ」
じゃあ、行こうか。歌仙兼定が外へと目線を向ける。
玄関を出ると、相も変わらずのだだっ広いだけの草原があった。

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ゼロからスタートなんてするんじゃなかったと後悔。続きは書きたいと思ってます。うーん、でも書かないな……。あと、こんのすけは全裸です。なんとなく作務衣を着せてしまった……。顔に朱は差してるけど。


宮黒
2015/02/23 14:48

意味分かんねえよ、と吐き捨てた宮地に黒子はため息を漏らした。まだ、理解する気があったのか。できると思っているのか。自分でも分からないことが赤の他人に分かるわけがないだろう。

「……はじめからあなたに理解されようなんて思ってない」

悔しさと悲しさのようなものが混じった表情をする宮地の方が黒子にとっては理解し難かった。なぜ、当の本人よりも傷ついているのか。なぜ、自分のためなんかにあなたが心を傷めなくてないけないのか。放っておけばいい。そこらに投げ捨てたところで僕は傷つくことも壊れることもない。そのまま、何事もなかったかのように生きていくだけだ。誰も困らないし、円満解決だろう。

「意味なんか、ないんですよ」

珍しく笑みが零れた。


危なっかしくて見ていられない、そう言って宮地は黒子の世話を見るようになった。後輩の元チームメイト、今は大学の後輩。それだけの関係だった。黒子は宮地が同じ大学だということは高尾から聞いていて知ってはいたが広いキャンパス内、違う学部だろうから会うこともないだろうし、会ったところでむこうは気が付かないだろう、と思っていた。黒子自身、宮地のことは朧げにしか覚えていなかったのですれ違ったとしても分からないと考えていた。しかし、向こうはそうでもなかったらしく、すれ違いざまに声をかけられた。一瞬、誰だか分からなかったがあの高身長と染めているのか地毛なのか分からないような明るい髪色。あとは、瞬時に思い出さなくてはならないと感じさせてきた笑み。思わず背筋が伸びた。

「あ、えっと。秀徳のミヤジサン……」
「おう。誠凛の黒子、だよな?高尾から聞いてるぜ」

一緒にいた友達に先に行っててくれと伝えて、宮地のもとへ数歩、駆け寄った。

「お前、次、講義ある?」

今日はもう何も入っていないので、素直に首を横に振った。すると宮地も一緒にいた人間と別れ、なぜか二人で昼食を取るという流れになった。まっすぐ家に帰ってこの間買った本でも読もうと思っていたのだが、仕方がない。
まだ昼食というには早い時間なので、食堂は案の定ガラガラだった。黒子は日替わり定食を頼み、宮地は豚汁定食を頼んだ。突然、プリンを手に取るから顔に似合わず甘党なのか、いや、結構甘党っぽい顔してるか、なんて考えていたら軽く頭を叩かれた。オレのじゃねえよ、入学祝いに先輩がプリンを奢ったる、と顔を赤くして言った。疑問、というよりは違和感が募る。

「どうして……」

適当なテーブルに向かい合わせに座り、割り箸に手をかけたところで口を開いたはいいが、なんて尋ねればいいか分からなかった。何がおかしいのか。何に違和感を抱いているのか。多分、赤の他人に等しい自分に対する距離感がおかしいのだ。優しさを越えて、馴れ馴れしいとさえ思える。

「ん?」
「え……あ、僕のこと、知ってたんですね」
「あ?ああ、そりゃあな。知らないわけないだろ」

その言葉をどう受け取っていいのか悩む。帝光中でシックスマンをやっていた頃の話なのか、数回試合をした高校の後輩なのか。はたまた、それ以外なのか。

「文句言うなら高尾に言えよ?あいつがやたらお前のこと話すから……」

それ以外、か。高尾くんのことだから悪口ではないだろうけど、と納得する。黒子自身、高尾のことは嫌いではなかったし、むしろ好感を抱いていたが、苦手だった。共に居て困らせられたこともないのだが、頼ってもいないのに頼らされているというのか、頼る前に全て高尾がどうにかしてしまっていることが黒子にとって疲れるのだった。楽ができている筈なのに、逆に疲れてしまう。しかも、高尾はそれを無自覚で成すから尚、性質が悪い。

「高尾くんのことですから、手放しで僕のことを褒めたでしょう?」

随分と買い被られたものである。高尾が褒めちぎった言葉が宮地の中での黒子のイメージとして出来上がっているのだとしたら、嫌だと思った。何もしていないのに失望されるなんてまっぴら御免だった。どうでもいいと言っても問題ないくらいには赤の他人に等しい人間ではあるが、やはり期待外れだったと思われたくはない。

「あー、まあな。べた褒めだったな」
「実際は何もない影の薄い人間ですよ」

今日の日替わり定食は和風ハンバーグだった。ハンバーグにのった大根おろしに醤油をかける。個人的はポン酢だったんだけどな。

「はは、コメント困るわ。俺はお前のこと何にも知らねーから、そうだとも言い切れねえしよ。高尾を疑うわけじゃないけど、なんつーのかな。まだよく分かんないっつーか」

「まだ、ですか」

知るつもりがあるのは嬉しい、高尾くんの言葉をただ鵜呑みにするのではなく、自分で見て決めようというその考え方は好きだと黒子は思った。でも、僕のことなんて知る必要もなければ価値もなく、結局は失望に落ち着いてしまうと思うのだ。空っぽで薄っぺらい人間だということは他でもなく僕自身が痛いほどに感じている。そんな自分は嫌いじゃないし、そんな自分を嫌いになれない自分は嫌いだった。成る様に成るか。一度、美味しそうに豚汁を食べている宮地を見た。

「おう、これから、よろしくな。黒子」
「……よろしくお願いします。宮地、先輩」

先輩、と黒子が呼べば嬉しそうに頬を緩ませた宮地。とても素直でいい人のようだ。この身長と何度か試合で聞いた物騒な言葉のイメージから怖い人を想像していた。怖い、というのは語弊があるが雑な人なのかと考えていた。高尾が宮地に黒子について話したように、宮地についても黒子に話していた。「他人にも全く容赦ないけど誰よりも自分に対して厳しいよ。あそこまでいくと、自虐趣味でもあるんじゃないかって本気で思っちゃうよな。尊敬してる」黒子と宮地にあまりにも接点がなかったため、多く語ったことはないが、そんな風に話していた。

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ちょっとシリアスな宮黒を書こうとして挫折した残骸。
宮地ってどこまで行っても先輩なんだなぁって思いながら書いた記憶があるようなないような……。


月+影
2015/02/23 07:07
本日は非正統派アイドルという謳い文句で先日デビューした lua nova(ルア・ノヴァ)。現役大学生の月島蛍さんと、〇〇工業のバレーボールチームに所属している影山飛雄さんの二人組。デビューシングルはランキングトップ10を未だキープ中。
従来のアイドルとは一風変わったlua novaのお二人にインタビューしていきます。

ーー自己紹介をお願いします。
影山:影山飛雄です。よろしくお願いします。
月島:(笑いをこらえたような表情をしながら)月島蛍です。影山と同い年で19歳、あ、出身も同じで宮城です。

ーー出身まで同じだったんですね。非正統派アイドル、という謳い文句にお二人はどうお考えですか。
月島:特に何も思ってないですね。ひっどい言い方してくれるなぁって感じです。でも、なかなか的を射てると思いますよ。ねえ、影山
影山:ああ、そう……デスネ。
月島:コイツ、生粋の馬鹿なんで敬語とか使えないんですよ〜。許してあげてください。
影山:お前に言われたくねえんだよ。ネコかぶったメガネのくせに。
月島:僕らが『非正統派』なの、少しは伝わりました?

ーー仲がいいんですね。
影山:どこが?
月島:ははは、全然、仲良くなんてないですよ。

ーーお二人の本業はアイドルではないんですよね?
月島:はい、僕は小さい劇団で役者やらせてもらってます。というか、本業は学生ですよ。
影山:小学校からやってるバレーで食わせてもらってるっす。月島もバレーやってたっすよ。
月島:……そうなんですよ、中高と。この身長ですからね、バレーボールかバスケットボールやってないと面倒くさいんです

ーーとても納得なのですが、月島さんはなかなか毒舌ですね。
影山:(椅子から身を乗り出して)ほんと、口ばっかりなんすよ!!
月島:脳ミソまで筋肉でできてるバレー馬鹿には難しい言葉ばっかり使ってスミマセンね。
(睨み合いをはじめる二人)
影山:あ、すみません、続けてください……

ーープロフィールは生年月日以外に公表されていないようですが、そこらへんはNGなんですか?
月島:いや全く。なんにも隠すつもりはないですよ?
影山:俺に至っては、普通に出てますし。
月島:どうせ、すぐに分かっていくことなので、書いてないとかその程度だと思います

ーーでは、好きな食べ物は?
影山:ポークカレー温玉乗せ
月島:影山、ほんと好きだよね。あれば、絶対に食べるよね。なんでも温玉乗っけようとするし。
影山:月島もさっさと言えよ(何か含みのある笑みを浮かべる)
月島:ショートケーキ
影山:女子か、って思うっすよね?

ーーそうですね。可愛いですね。じゃあ、趣味とかは?
影山:バレーですかね?
月島:僕は割と多趣味で、いろんなことに手を出すんですけど、すぐに飽きちゃうんですよ。今は、ボールペン講座にハマってます。
影山:変なやつですよね。
月島:寝ても覚めてもバレーのことしか考えられない人には言われたくないなぁ。本当に、みなさんの想像をはるかに超えるバレー馬鹿ですよ、こいつ。


(インタビューが続く。)


ーーお二人の出会いは、いつなんですか? デビューしてからの時間で築けるような関係じゃないように見えたんですけど……。
月島:そこはNGなんですよ。
影山:社長から言われてるんで。
(口の前で人差し指を交差させる影山さん、月島さん)
月島:と言っても、同年代で同じスポーツしてたら名前くらい聞くじゃないですか、有名な選手って。同じ県だし、名前は知ってましたよ、高校の頃から。

ーー最後に、抱負をどうぞ
月島:まさか、自分がアイドル……になんてなる日がくると思ってなかったんですけど、頑張ります(笑)
影山:あくまでバレーのためなんで。できる限りのことはします。

ーーーー
大学のために上京した月島は劇団に入り、役者やったり。影山は高校卒業してバレーの実業団入る。いろいろあって、アイドルやるはめに。高校一緒だったのは内緒。
唐突にアイドルパロが書きたくなった残骸。
歌うツッキーと影山くんもピンとこないし、歌う石川界人もうっちーも想像がつきません。


クロ月
2015/02/22 14:58

宇宙ってなんだろうか、突然の問いかけに月島蛍は何も答えなかった。答える言葉を持ち合わせていなかったし、そもそもひとつの答えが存在するものでもない。この問いは、哲学か物理かどちらを求められているのかも分からない。フィジカルとメンタルという対義語の上に成り立っている両者が揃うと、いらぬ議論を勃発させかねない。
とは言っても、宇宙という概念に至ったのは決して科学者ではなく哲学者であるとされている。しかし、哲学者とは科学の租である。人も科学される対象のひとつであり、結局のところ、互いに延長線の先でつながっているという話なのだが、とりあえず、科学者でも哲学者でもないこの男の問いに答えるつもりはないのであった。
「おい、シカトすんなよ」
「じゃあ、もう少し楽しい話題でも振ってください」
手元の雑誌を適当に流し読みする。ソファーに横向きにあぐらをかいて、肘置きで雑誌を支える。たまに、ずる、と雑誌が滑る。
「楽しいって……」
うーん、とわざとらしく唸る。顎に手を当てて、体を斜めに傾ける。月島の後ろ、もとい隣、ソファーに正しい向きで座った黒尾鉄朗はにやりと笑う。月島は首を元の向きに戻し、視線は誌面の文字へ。どうせろくなことじゃない。月島の背に黒尾の肩が触れた。つきしま、と耳元で声が聞こえる。
「「セックスでもする?」」
見事にふたりの声が揃った。
「バレた?」
「バレバレです。そればっかりですね、あんた」
ため息をついて、雑誌を閉じる。紙が僅かな風を起こした。体を捻り、すぐ後ろの黒尾の顎を捉える。くちびるの表面を撫でるように軽く触れ合わせ、すぐに離れる。これで満足だろう、とばかりに薄く微笑む。黒尾は一度、瞬きしてから、片手で顔を覆う。
「お前のそういうところ、好きだよ」
どうも、と前に向き直す。

ーーーー
この文字数が私のメモ帳アプリのちょうど1P分で、スクショするとぴったりという。大体600字。


太刀川さんの孤月が刀剣男子のお話。
2015/02/21 12:21
※敵は近界民です。孤月はつくもがみではありません。とりあえず、太刀川さんの孤月だけ刀剣男子してます。めちゃくちゃ、創作しました。隊公認。
ただの孤月擬人化です。


あー!! と声を上げたのは出水だった。何事だ、というように雑誌から顔をあげた太刀川と、そのとなりの太刀川の孤月である刀剣男子がふたり、トランプを机に伏せた。
「太刀川さん、あんたの目は節穴なんですか!? せんちゃんもくうちゃんも傷負ってんすけど?!」
せんちゃん、くうちゃんというのは太刀川さんの孤月の名前である。オプションの旋空からきている。孤月が一本であれば、旋空ちゃんと呼ばれていたことは必至であっただろう。
太刀川隊の隊服の、もっとシンプルになった服を着ているふたり。胸元のベルトがひとつだけ付いた黒のショート丈のジャケット(特徴的な襟はそのままで、コートがショート丈になっただけ)と黒のズボン。肩には月をモチーフにした隊章がついている。ズボンを七分まで捲り上げている方がせんちゃんで、ジャケットを腰に巻いて、黒のVネック姿なのがくうちゃんである。
「あ、ほんとだ」
せんちゃんが自分の肩を見てから、太刀川の顔を見た。くうちゃんも、両腕を伸ばして、黒い袖から肌色が見てとれることを確認したようだ。じっと太刀川を睨んだ。
「あー忘れてた。昨日の深夜任務か。ん? 深夜だから今日か?」
「そんなことはどうでもいいけど、任務まで時間ないぞ。さっさと手入れしろ」
くうちゃんは、ほれ、と自分の手にせんちゃんの手を握り、太刀川へ差し出す。ぼんやりとその手を取りながら太刀川は呟いた。
「くうは口が悪いな。出水に似たのか」
「子供の失敗を母親のせいにするダメな父親みたいなセリフ言うのやめてくれますか? くうちゃんもれっきとしたあんたの子!!」
「公平ママこわ〜。レポートで疲れてるから出水お手入れしてやって」
「誰が公平ママだ、誰が! 太刀川さん以外できませんよ、ちゃんとやってあげてください」
そもその、そのレポートだって、構成は出水が考えたのだ。太刀川がやったことといえば、出水が決めた項目に借りてきたノートに書かれていた言葉を写しただけである。ただの事務作業にほかならない。
ため息をついて、出水はぼけーっと太刀川を見つめるふたりに視線をやった。終始どこを見ているかわからない目線と、それでいて決して穏やかではない光を灯す瞳が太刀川によく似ていると思う。戦闘バカなのも、なにもかも太刀川そっくりだ。まるで、太刀川の弟のようだ。ただし、見た目は全く似てない。雰囲気が似ているのだ。
ついでに、もちは食わない。とても、食べたそうにしていたが流石に精密機械に食べさせるわけにはいかなかった。
ふたりが現れたのはつい先日のことだが、太刀川がこの二つのトリガーを使い始めたのはずっと昔である。太刀川の戦闘の記録を持つふたりは当然のように太刀川について詳しかった。いや、太刀川とはまったく別人だが、まるで分身のようだった。
太刀川がポケットから二つのトリガーを取り出す。プラスのドライバーと基盤用のブラシに、エアダスターを引き出しから取り出した。途中で、近くに置いてあった国近のゲーム機を落としかけ、みんなでひやひやした。壊したりしたらぶっ殺されかねない。全員、首絞め確定である。
「出水、腕あげたよな」
「いつからの話してんだよ、そりゃあな……」
せんちゃんが、出水に言った。出水はボーダーに入ってすぐの頃から太刀川と模擬戦をしている。二つのトリガーには、出水の全てが記録、もとい記憶されているといっても過言ではない。
「まさか、コレの背中守るようになるとは思ってなかったよ、俺も。てことは、俺たち、同類だな」
くうちゃんが、ははは、と笑った。せんちゃんもくうちゃんも太刀川をコレ、と呼ぶ。一番初めに主、と呼んだ時に「生理的に受け付けない」と太刀川が言ったせいである。太刀川も慶もピンとこないというふたりは、『コレ』呼びに落ち着いた。
「それじゃ、太刀川さん三刀流になっちまうじゃん」
「「似たようなもんだろ」」
「ハモんなよ。えー、なんか嫌だな、それ」
満更でもないくせに、とふたりの顔には書いてある。ちら、と太刀川を窺うが、特に変わった様子はない。何も聞こえていなかったかのような態度でドライバーを回している。視線を宙にさまよわせつつ、言葉の続きを探した。
「お前らは太刀川さんを切れないけど、オレは太刀川さんを撃てるから、やっぱちがくない? ていうか、オレは飛び道具だし」
ますます刀じゃねえ。ぼやくと同時に、そもそもも何も自分は人間だったと気付く。自分の道具意識の高さに落ち込んでいいのやら、喜んでいいのやらである。
太刀川は黙々と作業をしている。たまに顔を上げはしたが、特に会話に興味がないのか、それともただコメントすることがないだけなのか、すぐに手元に視線を戻す。トリガーのネジを緩め、緑の基盤を露にする。ブラシで軽くはらったり、エアダスターを吹きかける。
「むりむり、出水はコレを殺せないな」
くうちゃんは肩をすくめた。太刀川がエアダスターをシュッと鳴ら度くすぐったいのか、目をぎゅっと閉じた。
太刀川の手元を覗き込みながら、せんちゃんも笑う。
「そーだぜ、出水は俺らを折れない」
「折らなくたって、太刀川さんの首吹っ飛ばせばいいだけじゃん」
まあ、できたら世話ないけど。心の中でそっと付け加える。
「「俺が全部弾く」」
「だから、ハモんなってば」
苦笑いがこぼれた。



月影
2015/02/21 09:04
意味わかんねえよ、と不機嫌なのを一切隠そうとはせず半ば怒鳴るように言った。月島自身、どうしてこんなにも苛立っているのか、どうして影山に事実を知らせたくて仕方が無いのか分からない。

「それ、僕だよ」
「は? だから意味わかんねえって。お前とオレは同い年だろ?」
「そうだよ。王様が信じるかは知らないけど、少なくとも僕にとっては事実だから」

どうして僕はこんな話をしているのだろうか。


月島蛍は、誕生日に買ってもらったヘッドホンで音楽を聞きながら歩いていた。部活帰りの体は重く、着替えてきたというのに湿って張り付くジャージが気持ち悪い。本来ならば、登下校は制服着用していなければならないのだが、烏野高校排球部のジャージは幸い上下とも黒なので遠目では制服にも見えてしまう。
一刻も早く帰って、シャワーを浴びて寝たい。連日の夜ふかしが影響していてか、一日中どことなくぼんやりとしていた。寝てしまいたい、眠い、と思うのに目を閉じても眠れはしない。だからといって、授業やクラスメイトの話は言葉として頭に残らず右から左に流れていってしまう。山口にも心配されたが、保健室に行く気力すら湧いてこなかった。
そんな状態で一日を過ごし、やっと帰れると気が抜けたのか、音楽のテンポに勝手に同期してしまう歩調に合わせて街灯の下をふらふらと歩く。
遠くにつんざくような高い音を聞き、少し遅れて鈍い音が体中を駆け巡った。ふわり、と重力から開放されたような気がしたのも束の間、月島は闇に襲われた。

ぱっと飛び起きると、何故か日が高い。ついさっきまで夜だったような気がしたのだが……。立ち上がると世界が霞んで見えた。ぼんやりと境界をなくしてモザイクがかかったかのような視界。指を顔に伸ばす。あるはずのものがなかった。最悪の事態だった。家なら、見えないままでも生活はできるし、例え眼鏡を落としたところで見つけることは造作もないが、今ここは屋外で、道路のど真ん中だ。コンクリートに細いメタルフレームの眼鏡なんか月島の視力では同化してしまっているも同然だ。諦めて、四つん這いになり、慎重に手で探りながら道路這う。時間はよくわからないが、とにかく人の気配はしない。こんな姿を誰かに見られる前に。ため息しか出てこないが、月島は必死に眼鏡探した。

「おまえ、これ探してるのか?」
「え……?」

背後から突然声をかけられて振り返る。少年が月島向かってて手を差し出していた。その小さな肌色の塊にギリギリまで顔を近づける。見慣れたものがそこにはあった。日にかざしてレンズフレームの状態を確認する。使って長いため、レンズ細かい傷は今更気にはしない。フレームは曲がってはいないようだし、掛け心地に違和感はない。

「ありがとう」
「どういたしまして。なにやってんだ? こんな真っ昼間に」
「いまって何時くらい?」

真っ昼間……? どういうことだ? 視界はクリアになったが、ガンガンと頭蓋骨の中から叩かれているような感覚がある。強い立ちくらみに一歩二歩たたらを踏む。
まるで不審者を見るような目線を送ってくる少年。

「時計なんて持ってねえけど、昼過ぎ。今日、午前中しか授業なかったから」
「……そう。君、小学生?」

一段と睨みをきつくした少年は片足を後ろにさげて、いつでも逃げられるような臨戦態勢をとった。威嚇している猫のような睨みっぷりに既視感を覚える。

「そうだ」

だからなんだ、と言わんばかりの不遜な物言い。ますます強まる既視感。
ポケットからスマートフォンを出すと、どうしてか圏外で日付は二〇〇〇年の一月一日になっている。待受画面も買ったばかりの画面になっていて、見るからに初期化されている。
一年間通い慣れたはずの道なのに、どこかおかしい。どことなく新しいところと古いところが混在している。電柱に貼られたポスターはこんなにレトロさは出ていなかったし、街灯は街灯でこんなに新しくもなかった。曲がり角の先の家は築一年たっていないはずで、屋根はえんじ色のはずなのに、紺色だった。あんな年季の入った垣根はなかったはずだ。
ズキリ、と刺すような痛みが襲う。頭をさすると、側頭部が膨らんでいた。少し指先が掠っただけでひりひりと痛む。

「たんこぶだ……」
「高校生にもなってたんこぶ作ってんのか? かっこわりい」
「うるさいガキだな。ありがと、気をつけて帰れよ」
「ガキじゃねえし、言われなくても帰るよ。むしろお前が不審者」

しっし、と追い払うように手を振ると黒いランドセルを背負った小学生は月島に背を向けた。あっ、と声をあげた月島にため息をつきながら少年が再びこちらに顔を向けた。

「ねえ、今日って何日?」
「は? なに、あんたキオクソーシツかなんかか?」
「そんなはずはないんだけど、どうもおかしいことだらけでね……」
「四月三十日」
「……西暦は」
「二〇〇八年」

素直だな、と感心してしまったのは現実逃避だろうか。月島は初期化されたスマートフォンの画面を眺めつつ首を傾げる。正面には同じように首を傾げた少年がひとり。
困った。もし、この少年んが気まぐれに嘘をついているとかそういうわけではないとするならば、月島は、六年前にいることになる。携帯電話はあてにならないどころか、この場にあってはならないはずだ。ポケットに手を突っ込むと財布はあった。あとでコンビニで新聞でも買おうか。

「それ、バレーボール?」

月島はエナメルのスポーツバックの他に黒と黄色のボールネットを持っていた。中にはバレーボールがひとつ入っており、少年はそれを見つめていた。

「そうだけど」
「バレーって楽しいか?」

純粋な質問だった。何度か自分自身にも問うたことがあるし、問われてきたこともある。答えは出ているようで出ていない。好きか嫌いか、そんな思いだけでやっているものではない。意地とか羨望とか辞めるとなると色々面倒くさいからとか。バレーボールが大好きなアホふたりに聞かせたらそれこそ月島が「お前の方がアホだ」などと言われてしまいそうな理由で月島はバレーボールを続けている。
けれど、好きか嫌いかと問われれば好きだ。好きでもなければ辞めている。嫌いでも続けようと思えるほどに月島には実力も才能もない。
目の前にいるのは見ず知らずの少年だ。知人にどこか似ていたとしても全くもって赤の他人。

「楽しいよ。悔しいことばっかりだけど、フツーに楽しい」
「ほんとか……?」
「いや、知らない。僕はそう思うってだけで」
「え」

童顔なのか単純に幼いのか、大きく丸い目をさらに大きくして驚いたような表情をする。嘘なのか……? ときょとんと聞き返してくるのは、子供らしく大人(小学生から見れば高校生はほとんど大人と大差なかったと思う)を信じて疑わないからだろう。少なくとも月島は否定はしていないのだが。
自信家なのだろう、強気な物言いをしていてもまだ大人という世界を構成するものにどうしようもない裏切りを受けたことがないのだろう。
まだ壁にぶつかってないのだ。月島は、少年にボールを差し出すようにした。

「………………やってみる?」

通報されかねないな……。何を馬鹿なことを言っているんだと、踵を返したとき、月島は腕に重さを感じた。少年がぶら下がっている。ぎょっとして腕を振り払おうとしたが、しっかりと握られていてそれはかなわなかった。きらきらと期待に満ちた目で見上げられてしまうと無下にはできない。

「やる!!」
「不審者じゃないの、オレ」
「防犯ブザーあるし。ひょろメガネのお前に負けるほど弱くない」
「あっそ」

すぐ近くの公園に案内された月島は学校に近くにこんな公園があったんだなぁ、と呟いた。ベンチにランドセルを投げ飛ばした少年はやる気満々で月島には眩しかった。まるで日向を見ているようだと思った。月島もスポーツバックをおろし、春の陽気に負けてジャージを脱ぐ。

「おし、こい!」
「来いって言われても……そもそも、バレー初めてなんでしょ?」
「ああ」

一丁前に構えて見せた少年。子供っぽい無邪気さが溢れているのに言葉の端々は中途半端に大人びていて、ものすごくちぐはぐで生意気だと感じた。子供とはそういうものなのだろうか。なんの思い入れもない小中学校の卒業式は未だについこの間のことのように思い出される。その時、自分はこんなに幼かったとはどうしても思えないものである。

「まずは構え方から。僕、結構マジメだからね」
「嘘だな。お前、絶対クズだろ。やることだけやればいーんでしょ? とかいうタイプだろ?」
「……。いいから、さっきの構え方しろ」

見様見真似なのか、少し腰を落として前かがみに構える。手はウルトラマン(エメリウム光線発射時)のようだったがあながち間違っていない。

「ちょっとかかと浮かせて。あと左足を一歩引いて。よし」
「ずっとかかと浮かせてるのか?」
「あー、うん、まあ、大体? 走ったりしたら関係ないよ」

さっさとボールに触らせろ、という表情をしている少年にボールをぽい、と軽く放る。手を組んで、アンダーハンドパスのような形で返される。腕を思い切り振り上げてなんとか月島のところまで届いたボール。

「全然だめ」
「ボールは正面からしか取れないから、常にボールの正面に動くんだよ。これができないやつはボールに触る資格ないと思って。まあ、正面に入れても取れないボールはあるんだけど」

横からでもボールは取れるし、月島だってしょっちゅう横に手を出してボールを拾っている。拾えないことも多くあるが。そもそも月島自身、レシーブは大の苦手なのだ。しかし、全くの初心者の小学生よりかははるかに上手いだろう。
月島の経験則だが、初めから応用を前提にして基礎を教えるのも悪くはないと思うが、基礎ができてさえいれば応用はできる。はじめは下手に応用を教えるくらいならそんなもの存在は知らない方がいい。
少年の横に並んで、腰を落とさせる。ボールは一旦、足元に置いて、左手で右手を包むように組ませた。手を組んだままで、手首を上に向けるようにする。日焼けしていない白い腕の内側をぺちぺちと叩く。片手でボールを持って、弧描くようにして少年の腕に当てる。

「こうやって、ボールが飛んでくるでしょ。そしたら、ほら、ここにボールを当てる。そうそう。ここの手の付け根の少し上をたいらくして。腕はこのまままっすぐね。ボールは膝の力で飛ばす。大事なのは、腕はこのまま、とにかくまっすぐ。膝を伸ばす。左足出しながら、よいしょって。わかった? 」

こくこく、と頷いた少年は左足一歩出しては引き、を繰り返して膝曲げ伸ばしを覚える。その度に月島はボールを握って少年の構えた腕に当てる。

「もう一回やるよ。ボールがきました。はい、腕まっすぐのまま、足出して膝伸ばす」
「できてるだろ?」
「ああ、アンダーはこれでいいかな。次はオーバーハンドパスね」

少年はこうだろ? と額の上に手のひらを掲げた。これまた、間違ってはいないのだが微妙に違う。手はパーではない。少し丸めて、指先だけにボールが触れるようにしなければならない。
バレーボールは、ボールをヘディングしようが蹴り上げようがルールには違反しない。だから、ボールの取り方、アンダーハンドパスにもオーバーハンドパスに厳密な形というのは存在しない。それでも勝つために効率的な方法なのだから、そのとおりやる方がハズレはないだろう。放っておいても続けていくうちに癖はつく。
ようは地面につかなければいい。とにかく拾えるのならばそれでいい。この感覚だけは、ゲームや試合を通さないと実感できない。ルールを知っていれば理解できても、ボールを落とさない、ということがどれだけ難しいことなのかは分からないだろう。

「ちょっといい?」

月島はひとこと声をかけて、少年の後ろに回る。目線を合わせるように膝を曲げて、半ば抱きしめるように少年の両腕を掴む。

「手首は角度、このくらい。ここに三角作って」
「こうか」
「うん。さっきと同じ足にして」

少年の構えた姿に月島がよし、と言うと少年は足を一歩出し腕を伸ばして見せた。最後に、緩く曲げられた指をゆっくり開いてぴっと高くあげて見せた。かかんでいる月島よりも高い位置で広げられた小さな手のひらは太陽の光を遮る。指の間から溢れる光があまりにも鋭くて目を逸らす。

「オレ、センスあるだろ?」
「まだパスひとつもやってないクセに何言ってんの?」

振り返った少年が無邪気に笑う。楽しい、という感情があふれるような笑顔に圧倒された。

「オーバーの確認」

ボールを握って手で描かれる三角の中央に当てる。膝と肘を同時に伸ばして少年は応える。幼い顔と同じように、やわらかそうで丸さを帯びた手のひら。
パス、やってみよっか。
てっきり、全力の笑顔で応えてくるかと思えば、今までの笑顔と一変して恥ずかしそうにうつむくものだから、何かと思い下から覗き込んでしまった。

「どうしたの?」
「……なんでもねえ!!」
「笑顔が恥ずかしいとか言わないよね?」
「はあ?! なんのことだよ?! いいからパスやるんだろ?」

月島に覚えがない訳ではなかった。まだ色んなことに純粋に興味があって、しかし、それを周りに悟られるのは恥ずかしい。できるだけ無気力に振舞ってみるものの気付いたら楽しくて笑顔で、ふと我にかえってしまい、どうしようもない自己嫌悪に陥るという。今から思えば、自分にも可愛い頃があったんだな、と虚しくなってくる。

ーーーー
いろいろあって過去にタイムスリップしたつっきーが影山くん(小学生)にバレーを教えてあげて、影山くんの基礎を作ったつっきーは現在に戻り影山くんと遭遇するんだけど、その基礎を教えてくれたのはつっきー兄だと思っていて……っていう話(←オチ)。途中で飽きた。


クロ月
2015/02/19 02:27

自分が何に怒っているのかも嘆いているのかも分からなかった。一度飲み込めたはずで、納得もしたはずだった。それなのに、どうしてか何かがこみ上げてきて、気を抜いた瞬間に全て吐き出してしまいそうだった。
雨は次第に強さを増している。もはやびしょびしょなんていうレベルではないシャツはべったりと体に張り付き、その表面を流れていく雨粒ばかり。これ以上は吸えないのだと、それすらも惨めだった。まるで雨粒さえもが自分を否定しているような気さえした。
目に生ぬるい水が入ってきた。粘膜を薄めて、目蓋の開閉の邪魔をする。それを無理やりに閉じようと、変な風に引っ張られるような感覚を数度繰り返す。やっと、もとの潤滑さを取り戻した 。
眼鏡がほんの少しでも汚れていると気になるのに、ここまでひっきりなしに汚れていくのでは拭きたくもなくなる。吹き付いてきては、その粒を大きくしてフレームの端に一時、溜まる。少しして、ぼたり、と地面へまっすぐ消えていく。灰色の世界を映す透明のレンズには大小さまざまな雫がわずかに明るい光を他方向に見せた。まるで万華鏡のようだった。離れた所のマンションあじさいの葉の緑をアクセントに空やコンクリートの明度の違う灰色がきらきらと目の前を上から下へ通り過ぎていく。
重くなった服は暖かく、体の一部として落ち着き始めている。短い前髪からこめかみや鼻の脇を滑り伝っていく粒も、最後は顎の先端から消えていく。不純物を含んだ汚い幾多もの水が月島の表面を撫でていった。
不意に雨が弱くなった。
不意に「帰らなきゃ」と思った。
黒尾さんが待っているのは分かっている。実際に自分がどんな表情をしていたのかは知ることはできないが、黒尾にあれだけの傷ついた顔をさせるくらいには酷い表情をしていたに違いない。彼は何を思っているのか想像もつかないのだろう。しかし、月島が何か思うところがあって怒っているなり嘆いているなりしていることには気付いている。だから、一層に彼は傷つき、理由はどうあれ月島を励ましたいと考えているだろう。そして、やはり、月島をここまで追いやった原因がどこにあるのかを認知したいことだろう。
月島は冷たく覚めきった脳で思考を続ける。
説明の義務があるのかと問われれば、決してそんなことはないはずなのだ。しかし、月島からすれば黒尾には説明の義務があると思うのだし、逆も然り、と考えるのが当然だ。ひいては、家に帰る義務が生じたのである。
ため息をついてから、深く深く息を吸い込んだ。咳き込みそうになりながら、鞄から折りたたみ傘を出した。今更かもしれないが、雨の中を傘をささずに歩くと非常に目立つのだ。

チャイムなど鳴らすことはもちろんできず、できるだけ静かに鍵を回した。アパートの階段を一段ずつ登る度に今来た道を走って戻りたくなった。
これだから一生懸命なんていやなんだ。
部屋が明るかったから、黒尾は確実に家にいる。いなかったらいなかったで、困るのだが、背筋にぴんと何か硬いものが通された気分だった。無駄に姿勢よく、扉を引いた。
「ただいま」
何時間ぶり、時計の短針が半周するよりも長い時間を開いていなかった喉から出てきた声は少しかすれていた。ぺりぺりと、まるでのりでもはがした時のような音をさせながら言葉が喉の膜を破った。

ーーーー
ケンカしたクロ月の残骸。



裕清
2015/02/19 02:18
オレは兄キが好きだ。たぶん。
残念ながら、実は血縁関係がないとか、そういう都合のいい展開はない。オレの記憶には物心ついた時からそっくりの兄キがいる。アルバムの写真だとかビデオのデータだとかが悲しいくらいにそれを裏付けているし、なによりもこの似た顔が証拠だろう。
それどころではない。もっと厄介な気がする。オレは兄キだから兄キを好きなわけではないのだ。実の兄弟だからでも、男だからでもなく、普通に女の子に恋をするように兄キに恋をした。自慢じゃないが、彼女がいたことだってある。きちんと相手の女の子が好きで、デートもしてキスもして、その子の裸を思い浮かべて抜きもした。片思いだってしたことがある。そういう、普通の恋をして、その一環として兄キを好きだと思ったのだ。だから、兄弟の延長線として、ではなく、どこにでもいる誰かとして。それは、なんだかとても厄介なのではないだろうか。
生まれて此の方、仮にも尊敬してきた兄キを兄として見ない、そんな瞬間がたった1分だってあることは、兄キに対する裏切りのようでならなかった。兄キが疑うことのない、いや、疑うことなんてありえない弟としての立場を自ら捨ててしまったのだろう。一度でも、好きだ、なんていう劣情が生まれてしまった以上、死ぬまでオレもう、その劣情をなかったことにはできないだろう。もう、『本物』の弟ではいられないのだ。自分に嘘はつけない。なんて、理不尽なのだろう。オレもオレに裏切られたと言っても間違いではないとは思う。
恋って突然、本人の事情なんておかまいなしに降ってくるものなんだ。
そう、感じざるを得なかった。


ーーーー
みたいな裕清が読みたかったんだけど、ホモポエムから本文に入る気配がなかったのでバイバイ。


奈良荒
2015/02/01 19:25
気まぐれに、本当に気まぐれに屋上へ行った。廊下は静かで誰もいない。教室のドアはどこもぴったりと閉じられており、中からは教師の声と、たまにチョークと黒板が立てるコツコツという音、机や椅子床と擦れる音、そして、生徒のざわめきが聞こえてくる。それでも、静かだった。生徒の知ることができる昼間の廊下とはうるさいものなのである。それがひっそりとしている。単純に自分が静かにしなければいけない、音を立ててはいけないと耳をそばだたせているからだろうか。
上履きのゴムは、気を抜けばタイルにこつり、と鳴ってしまう。そうっと、そうっと、足を運ぶ。思わず、足先に視線が行ってしまう。
校舎の端の階段を上がる。屋上へ繋がる最後の階段は途中に鎖がかけられている。ここから先は立ち入り禁止、ということを表しているだけで、簡単にまたぐことができる。鎖を揺らさないように、またいで超える。登って右手、埃っぽい踊り場の最奥にドアがある。ドアの曇りガラスは眩しいほどに光っていた。
ドアの前まで行き、手元を見る。若干錆びた南京錠がしっかりとかけられている。とはいえ、南京錠。鍵で開閉するタイプならピッキングという古典的な手段が残されている。それを成せるものがあるだろうか、と至るポケットを漁る。スラックスの両脇、後ろのポケット、ブレザーの胸ポケットや内側と手を突っ込み、上から叩いてみるが、めぼしいものはない。諦めるか、と南京錠を手に取ってみると、どういうことか、すんなりと外れた。
こういうこともあるか、と深く考えずに扉を開けた。
薄暗い踊り場から、空の青さが視野いっぱいに明るく広がった。眩しさに目を細め、視界が影に入るように額に手を当てる。風が強い。寒くはないが、前を閉めていないブレザーがばたばたとはためく。
下の方から、声が聞こえる。何を言っているかは全く分からないが、グラウンドの方向だ、体育の授業が行われているのだろう。あまり、柵に近付くと見つかってしまうかもしれない。
屋上でサボりといえば、はしごを登って水道タンク横で昼寝をすることだろうか。それ以前に、そんなものはあるのだろうか。如何せん、屋上など入ったことがない。
たった今出てきたドアを正面に、数歩後ろへ下がる。何もない屋上で、唯一出っ張っているのが、この扉を含む空間であり、その上に乗った水道のタンクだった。タンクの存在を確認し、ぐるりとその空間を囲む壁を回る。すぐに、錆び付いたはしごを見つけ、なんの躊躇いもなく足をかけた。
数段登ったところで、手が一番上の段にかかる。そっと顔をあげる。
何もないと分かっているつもりだったが、それでも何かあるんじゃないかと頭のどこかが考えているようで、覗き見でもするかのように、息を潜めてしまう。
「誰だ?」
「うわっ!?」
突然、かけられた声に、思わずはしごから足を滑らせた。あっけなく、落っこちる。尻もちをついて、はしごの上を見上げると、見知った人が立っていた。
「ダサいな、奈良坂」
「っ! 見なかったことにしてください、荒船さ……先輩」
学校、ボーダー、両組織で先輩に当たる荒船がそこにいた。肩に引っ掛けたブレザーを風になびかせ、真っ青な青空を背負って、乾いた笑い声をあげている。
その手には、いつも被っているキャップ帽があった。
「お前みたいな優等生もくるんだな、こんなとこ」
「それはこっちの台詞です」
くるり、と踵を返して荒船は視界から消えた。見えなくなった、というのが正しいか。
立ち上がり、尻を軽く叩く。どこもほこりっぽくてザラザラとしている。ついでに、どことなくべたつくような気もする。
「お前も昼寝か?」
姿は見えないが、声はする。ええ、と曖昧に答えながら、はしごを登った。
「荒船先輩は、いつもここなんですか」
「まあ、割と」
荒船はブレザーを丸めて枕にして、ごろりと躊躇なく寝っ転がった。さりげなく、一人用のレジャーシートが敷かれている。
「ここでも、ソレですか」
「なんか被ってねえと落ち着かないんだ、放っとけ」
キャップ帽を浅くかぶり、つばが目もとにくるようにしている。風で飛んでいってしまうのか、片手で、顔を覆うようにキャップ帽を押さえている。
「座ったらどうだ?」
どこに、と聞く前に荒船は空いた片手でレジャーシートの隅を叩いた。ビニールががしゃがしゃ、と鳴る。
助かるといえば、確かに助かるのだが、妙な気の遣い方だと感じざるを得なかった。
座る気はあるのだが、なんだか、あと一歩が踏み出せずにぼうっと立っていた。
すると、
「返事は」
荒船の声は普段と変わらなかったが、そこには体育会系の有無を言わさない空気があった。
「ハイっ」
反射的に背筋が伸びた。

ーーーー
続き書きたいけど、結構まとなったので、もうよし。
進学校狙撃手のふたりが、あんまり接点ないなりに校内で会釈するくらいの関係だったらいいなぁって。



宮高
2014/12/05 18:17
年齢操作で怖い話したかった残骸


1:本当にあった怖い名無し:20XX/06/XX(水) 22:57:320 ID:---

この間、ちょっと変な体験したらから書くわ。
長文乱文失礼します。


俺は高校の教師やってるんだけど、担任は持ってなくて、一年の副担やってる。副担なんて基本、クラスには関わらない。担任が休みの時とか代わりにHRやるくらい。

入学式から、まだ1ヶ月経ってなかったと思う。新入生のために何かと準備をしていたはずだ。俺がこの学年だと一番、機械に強くて視聴覚室とか使うときの準備は全部俺。プロジェクターからマイクとか。映像も結構作る。慣れれば簡単なんだから、さっさと覚えて欲しい。

それで、四月の終わりくらい。実力テストが終わって、それぞれに個表とか渡して、説教含む進路指導するために一年生全員が視聴覚室に集められた。300人弱位いるんだけど、座席が足りないから、2クラスはパイプ椅子に座らせてた。スクリーン引っ張り出して、パワーポイントで作った画像と合わせて数学教諭がなんか話してた。俺は座席の一番後ろで壁に寄っかかってた。生徒だって、教師がみんな後ろにいることは分かってるからあまり振り返らない。寝てるやつとか膝の間でスマホいじってるやつとかいたけど、注意してたらきりないし、たまに咳払いとかして牽制だけはしておいた。

その中でやけにこっちをチラチラ見てくるやつがいた。具合でも悪いのかもしれないから、一応声をかけにいった。通路から二番目にその生徒は座っていて、そこの座席は俺が副担しているクラスだった。担任は前にいたので俺が行くしかない。

「どうした。具合悪いか?」
そいつは一度頷いた。
「保健室行くか?」
また頷くだけ。俺とそいつに挟まれた生徒が戸惑っていたが、俺に
「さっきから、〇〇くん、すごく気持ち悪そうで」
と言ってくれた。その生徒には1回立ってもらってその〇〇を連れて俺は視聴覚室を出た。そいつは無言で腹さすりながら俺と並んで歩いていた。俯いていて、ただでさえデカい(190ある)俺にはそいつの顔なんて見えなかったんだけど、突然、止ってなんか震えてやがんの。え、吐く?! とか思って背中さすって近いトイレまで連れていこうとしたら、
「先生、ごめん、仮病」
とか爆笑しながら言ったんだよ。意味分かんね、って思ったよ。なんで今言うんだよ。つーか、教師に言うなよ。二、三年はもちろん授業中。しんと静まり返った廊下で笑うのは気が引けたのかすごく頑張って笑うのを堪えているのが分かるんだけど、頑張りすぎて過呼吸みたいになってて、仮病もあながち仮じゃなくなってきてた。
「あのさwww先生」
「……なんだよ」
はっきり言って、反応に困っていた俺はこいつの言葉を待ってた。まあ、なんにもないみたいだったら、即座に視聴覚室に戻してあとで指導。軽く説教でもしとくか、って考えてた。デカいんだけど、なんか生徒に舐められてる気がすんだよな。なんか、いっつもタメで絡まれてた教師っていただろ、俺、あのポジションなんだよ。あ、俺は熟女派だからJKとかうるさいとしか思ってない。
「オレ、〇〇(←フルネーム)っていうんだけどww」
「うん、〇〇くんね」
突然、自己紹介始めるし、まじでなんだこいつって思った。
「多分、オレ、先生にすごい迷惑かけると思うんだけど、なんか困ったことになったらオレのとこ来て」
お前が迷惑かけんのに、どうしてお前が頼りにこい、みたいなこと言うの? 意味分からんことを真顔で言ってきた。急に真剣な表情をするからちょっとびびったりして。(いま、タッチのOPが脳内流れ始めた……)
「は? ふざけたことばっか言ってると特別課題出すぞ?」
いつもの俺なら、轢くとか絞めるとか言っちゃうんだけど、ついこの間、うちの学校、体罰問題あって、そういうところ厳しくなってるから自重してる。あんまり大きな問題になってないし、生徒も全然気にしてないんだけど、バレー部のコーチの首が飛んだよな。
「特別課題てなにwwwwww」
草生えまくり。とにかくずっと笑ってるんだよ。酒でも入ってんじゃねえかっていうくらいのテンションの高さ。学生ってなんで、何もないのにずっと馬鹿みたいに笑ってるんだろうな。あいつら何が楽しいの。青春は先生、いいことだと思うけど巻き込まないでほしいな。先生を巻き込まないでほしいな。
「もし、今週中くらいに耳が痛くなったらオレに言ってね。病院いっても無駄だから」
頭の中、ハテナマークでいっぱいだった。偏差値は上の下、中の上らへんだからそこそこ真面目である意味面白みもなけりゃ頭堅いやつが多い。すごくチャラいわけでもないしな。とにかく、まさに普通なかんじのやつが多いんだけど、たまにいるんだよな。厨二病患ってるやつとか電波。イタいやつがな。こいつもそのパターンだって思った。
「いいから、戻んぞ。今度こんなことやったら、まじで生活指導な。サボるんだったら、もっと大人くサボれよ……」
「今から戻るの恥ずいんだけどwww」
「ウンコしてたって言っとけ。出したら治ったって」
「やだよww入学早々、ウンコキャラとかwww」
ウンコウンコ言ってたけど(小学生かよ)、とにかく元の席に返して子供のやる気を削ぎにかかる『とにかく頭良い大学行け』っていう長いだけの話の続きを聞き始めたんだ。2時間も何そんな話すことがあるんだと毎回思う。俺は大体、10分かけずにこういうの終わらせるから。やっぱ話長いとだるいじゃん。根拠なんて示したって聞いてないんだから結論だけ言っとけばいいんだよ。高校生っつったって、ついこの間まで中坊だぜ。まあ、中坊も高校生もガキには変わんねえけど。

リーディングの教師の英語の勉強法を聞いてた時だと思う。とにかく音読が大切だ。毎日、5分でいいから音読しろと繰り返してた。
スクリーンの画像が閉じられて、真っ青に切り替わった瞬間、キーンってなんか金属がすごいスピードで擦れてる時の音みたいなのっていうの? が聞こえてきた。後ろから前に通り過ぎて行くんだよ。左側だけ、ずっと。通り抜けてはまた後ろから前にって。耳鳴りとかあんまりしない質だから、ちょっと違和感あったんだけど、3分もしなうちにおさまった。中耳炎とかなったことないし、耳鼻科なんて花粉症の季節くらいしかお世話になったことがない。というか耳に関しては、綿棒と耳かき以外の付き合いはないかな。さっきの生徒(俺の中で厨二なのは確定)の意味分からん言葉がちらついたけど、タイミングいいじゃねえかwwwくらいにしか思わなかった。

ーーーー
コンビニ店員シリーズをパクリつつ、捻りつつ宮地と高尾が不思議体験するように見せて、それをダシにいちゃつくホモになるはずでした。内容の薄さは保証します。


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