牧場からの脱出



シルヴァラント編


残ったディザイアンが襲いかかってきた。
こちらは殺すつもりらしい。
再生の神子もいるから当たり前か。
引きずったまま剣を振りかぶり半ばヤケにディザイアンに当たった。反省も後悔もない。

ロイドが苦しむのも、ショコラの祖母が死んだのもドア総督も、縋るしか無かった街の人もぜんぶぜんぶぜんぶディザイアンのせいだ。
残り少なくなったディザイアンを見てマグニスが苛つきを隠さずに叫ぶ、うるさい。
反撃され殴られた頬と口端から流れた血を無理やり拭う。


「くそ、劣悪種相手に何をもたついてやがる!
こうなったらこのマグニスさまが相手よ!エルフの血を捨てられねぇ愚か者共々神子を葬り去ってやる」


浮遊する椅子から飛び降りたマグニスは闘斧を手に脳内イメージにあるエルフの血を持ってるとは思えない粗暴さを見せる。
ヒトの血が優っているとこうなるのだろうか、好戦的なところはヒトの遺伝だろう。

“エルフの血を捨てられない愚か者”という言葉が頭に残ったが、それは後にしよう。
このどうしようもなく愚かしい馬鹿野郎の頭をカチ割るくらいにはしてやらないと、ディザイアンが全ての原因なのだから。


「生きて帰れるとは思ってねぇだろうな!」

「こっちの台詞だ!」


ロイドがマグニスに向かい残っていたディザイアンをこちらが相手した。
リフィルとジーニアスが詠唱に入ったのを見てディザイアンがこちらに夢中になるように攻撃した。
ダイクに見繕ってもらったエクスフィアは十分に役立ってくれた。
斬撃をお見舞いしてリフィルに「ソウマ!退きなさい!」との言葉にディザイアンから一気に距離を置く。


「スプレッド!」
「フォトン!」


光と水の爆発は周りの敵も巻き込んでくれバタバタと倒れてくれた。
水蒸気爆発か、凄い威力だ。
ディザイアンの数が少なくなったのでジーニアスがロイドの所へと言ってくれ、それに頷く。
二度目のマグニスとの戦闘だ。
苛ついた声を震わすマグニスにナイフを投げた。


『ハッ、まるで牛みたいじゃないか!!』

「黙れこの劣悪種め……っ!パルマコスタでは良くもやってくれたなぁ!!」

『馬鹿の一つ覚えみたいに劣悪種がってうるさいんだよっ!ラァッ!!』


盾に大きな斧という戦いにくい装備ではあるが守りながら魔術を扱ってくるのが厄介だ。
即座に唱えて放つ炎の槍が振り下ろされる魔術、フレイムランスに転がりながら避ける。


『なーにが劣悪種だ!人の振り見て我が振り直せって知らないのか!?
このパワハラ上司が!』

「なッ!!」

『人をけなし貶めることでしか生きられないなんて可哀想な奴だな!』

「貴っ様ああ!!」


物理攻撃は振る以外単純なのでパターンに入ってしまえばこちらのものだ。
力だけ付けても意味がないのがここでよく分かる。
術を唱えたくとも邪魔が入り、すばしっこい自分を捉えることが出来ず、焦りを見せたが最後だ。
ついでにショコラのことと、ロイド達を悲しませたことへの怒りの一発を頬に入れてやった。

ギロリとこちらに瞳孔の開いた眼を向ける。


「舐めんじゃねぇぞ!煉獄崩爆破!!」

『うわっ……!!』


目の前に炎が弾け飛びガードしようにも衝撃波と共に四方に散るので腕で顔を庇いながら避けるしかない。防具を付けているが晒されてる部分が引火して慌てて消す。


「クソガキがぁ殺してやる!獅子戦吼ぉ!!」

『っ……!』


盾で押し出されよろめいた隙に闘気が獅子へと変わりこちらに迫る。粋護陣を展開しようにも間に合わない。
多少の怪我は止むなしかと痛みを覚悟してあの技をどう流すか考えた。
あとでリフィルに回復をかけてもらおうと考えていたが、
しかし目の前に赤が現れてつい最近のパルマコスタでのデジャヴを感じた。


「獅子戦吼ッ!!」


ロイドの獅子戦吼の獅子の形を成した気がマグニスの技を打ち消しさらにゼロ距離の切っ先がマグニスを切り裂く。
それが決め手となったのか、マグニスは膝をついた。


「ぐぅっ……何故だ。この優良種たるハーフエルフの俺が……」

「愚かだからだ、マグニスよ。
クルシスはコレットを神子として受け入れようとしている」

「…なに……!」

「そうだ!コレットは世界を再生するんだ。おまえらなんかに負けるかよ」

「そうか、おまえが……。
では俺は……だまされたのか……」


謎の言葉を残してマグニスの体は倒れ、そして力尽きた。
赤い血は、彼の命がゆっくりと朽ちていくのだと分かるくらいには多く床を汚したのでもう反撃する力も無いだろうと剣をしまった。
ハーフエルフは血が青くないんだな、とどうでもいいことを思った。
……死を無意識に認識するのを避けてるのだろうか。
そうだとすればこれから先が気が楽になるのだが。

リフィルが直ぐさまモニターに向かいなにかを打ち込んでいく。
モニター画面に映し出されたのはショコラがワープ台に乗せられている姿だった。
どこへ繋がっているかも分からない、これ以上追うことは難しいだろう。

ロイドが悔しがるなか自分も苦々しい表情でそれを見ていた。
後悔しかない……文句なんていつでも、どこでも言えたのに、あの時に言う必要なんて無かったのに……余計にショコラを危険な場所へと追いやってしまった。


「これで、収容されていた人たちは逃げられるはずよ」

「彼らに埋め込まれているエクスフィアはどうする?要の紋がなければいずれは暴走するぞ」

「エクスフィアを取ればいいんじゃないの?」

「要の紋なしのエクスフィアは取り外すだけでも危険だ。
あつかえるのはドワーフだけだろう」

「親父に連絡を取ろう」

「……くわしい話はあとよ。とりあえずここを自爆させます。よろしい?」

『……へ?』


リフィルの文字通りの爆弾発言に固まる。自爆て、あの自爆?此処を?
たしかに何度ミサイル飛んでこないかと思ったしいい加減内部反乱でも起きないかなとも思った。それをすぐに行えるとは……。

自爆システムがこの牧場に備わってることにも驚きだが、
さすがに人間牧場を使い物にならなくさせることまで考えてなかったロイドもびっくりである。


「マジかよ!?」

「姉さん!そんなことしたら……」

「少なくとも、この辺りのディザイアンの勢力は減退するでしょうね。叩くなら徹底的にやるべきです」

「姉さん……」

「忘れないでジーニアス。
彼らと私たちは、ちがう。……ちがうのよ」


意味深なことを言い合う姉弟を無言で見つめる。
「ソウマも良くて?」と聞かれてもパルマコスタにとっても神子一行にとっても良いことづくめの案に拒否するつもりはなかった。
少し躊躇うも頷いた。

ショコラが連れていかれたワープシステムが残っているので残したい気もしたが、この人数で敵地のど真ん中に行くのも危険だ。


「自爆時間を10分後にセットしました。急いで避難しましょう」

『……』

「ソウマ!早く逃げようよ!」

『え、あ、うん』


ジーニアスの声に振り返り自分も走った。
後ろ髪を引かれる思いだったが、一人だけ行っても助けられる保証はないし確率も低い。
その時が来るまでもっと戦えるようにならねば。



* * *



ニールもまだこの施設にいるので彼に合流することにした。
このままでは爆発に巻き込まれてしまう。
幸いに出入り口に近い通路でニールと再会することができた。


「収容された人は?」

「皆、パルマコスタへ移動させました」

『よかった……』

「じゃあ、ニールさんも急いで逃げて!」

「は?」

「爆発します〜」

『ニールさん巻き込まれますよ、ホラ』

「え!?ソウマ君!?」


まだ収容されていた人たちが大勢いたらどうしようかと思った。
衰弱した体は背負えきれないだろうしその間に爆発しそうだ。
10分は意外と短いのだ。

全員が施設から脱出できたあと、一拍おいてドォン!と大きな音と共に映画で見たような大きな黒煙と火柱が上がったのを破片が当たらないように木陰から見て本当にギリギリだったな……と心の中で冷や汗をかいた。
距離的にまだまだ被害被るくらいには近いし、火傷しそうな熱風を肌に感じ取れるくらいだ。
巻き込まれたらと思ったらゾッとした。


『(こっわ……)』

「死ぬかと思った……」

「でもみんな無事でよかったね」

「あの……ショコラは?」

「おそらく別の場所へ連れ去られたのだと思うわ」

「そうですか……」

『……』

「無事なら助けることができる」

「そうですね。ショコラの行方がわかったらすぐに私たちに知らせてください。彼女を助けることもドアさまのお望みだったのですから」

「ああ。必ずショコラを探し出してみせるよ」

「それと、収容された人たちにはエクスフィアっていうのが埋め込まれているんだ」

「そのままじゃ危険なんで、イセリアのダイクってドワーフに俺の名前で手紙を送ってくれよ」

「イセリアのダイク殿ですね、わかりました。では私は一足先に街へ戻ります。よろしければ皆さんもパルマコスタにお立ち寄りください。ユキセ君も一緒に帰るかい?」

『……あ、いえ。もう少し……経ってからで……』

「わかった、エルル小隊長も君のことを心配していたからね、伝えておくよ」

『お願いします……』

「あと、収容されていた人からなんとか聞き出せたんだけれど……ここに隊長がいたということはなかったらしい。
ごめんね、もっとマシな情報があれば……」

『……いえ、ありがとうございます。助かりました』


なんとなくの気まずさからパルマコスタへ帰るのを渋ってしまった。
ここには結局何もなかった。それが得られたならそれが情報だ。
それが答えなら、もうここには用は……無い。

ロイド一行にも自分が抱えてた疑問を聞かれてしまったし……。
あれだけ聞くとちょっとかっこ悪いな……もっと響く言葉を投げかけられたら、もっとそばにいてやれていたら物語通りになるなんてことはなかったのだろうか。

ロイドが燃え盛る人間牧場を見ながらポツリと呟いた。


「マグニスか……」

「どうしたのロイド?」

「うん……なんかあいつ。最後、おかしくなかったか?」

「騙された……という言葉か?」

「何に騙されてたのかなぁ」

「今となっては……確認のしようがなくてね」

「あ、わかった!」

「え?何が分かったんだ?」

「マグニスはニセ神子のみなさんを本物の神子だと思ってたんだよ!」


どこがどう分かったのかよくわからないが、コレットはニコニコぽやぽや微笑みながらそんな答えを言う。
かわいさのあまり頷きかけてしまう。


「そうか!つじつまが合うぞ!」

「つじつまはあいません!だったら今ごろ偽物が殺されていてよ」

「……先ほどリフィルがいってたとおりだ。確認はできぬ。
しかしマグニスは死んだ。それでいいのではないか?」

「そうだな。それにしても……つじつまが合ってると思ったのになぁ。な、ソウマ」

『……そこで俺に振る?』


つじつまが合うとは思っていない。
えー、て顔された。
一発殴っていいかな?せっかくロイドに先ほどの獅子戦吼の礼を言おうとしたのに……。

それから、避けれはしないショコラの話になった。
思わず苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。
あれが全てで、あれ以上も何もない。


『俺、は……』

「悪いのはディザイアンさ、ソウマは悪くない」

「そうだよ!ソウマはショコラを諭すために言ったんでしょ?」

『……言うだけじゃ、意味はないんだ。
結局ショコラは連れ去られた、それが全てだよ……』


「力不足だったわけだ」クラトスの自分とロイドに向けられた鋭い言葉に己れの無力さを感じた。
物語を知っていようがその力が無ければ変えることもかなわない。


「ひどいよ!ロイドは、ソウマは……」

「ジーニアス、悔しいけど確かにクラトスの言う通りなんだ。俺は……あの悔しさを忘れない。マーブルさんや村の人の命を失ったことを……忘れない」

『そう、だな……次はぜったい、ショコラを助ける』

「……強さや力は腕力だけではない。
罪を認める強さ、忘れない強さ、それも……必要だ」


まるで自分に言い聞かせるような声色でクラトスはそう言った。
自分には、あまりにも無力なのだと実感させられた。
人を殺す、それも罪だ。俺はそれを背負うのを嫌った。
だからツケが回った。

人を殺す……この一線を超えた先には何が待っているんだろうか。


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