救いの小屋



シルヴァラント編



『そういえば救いの小屋に行くって言ってなかったっけ』


ディザイアン戦が立て続けに起きてさらに人間牧場襲撃、ショコラを自分のミスで連れていかれ、対マグニス戦に自爆から脱出と濃いイベントが立て続けに起きて忘れかけていたがふとこんなこと言っていたなと思い出した。
確かスピリチュアルなる像をあの偏屈な爺さんがご所望だったから救いの小屋に行く羽目になったんだっけか……。
煩わしい交渉を避ける為だったのに結局あの絵も意味なかったな……こんな結果なら返して貰えば良かったか。

このままパルマコスタに戻るしかないか……。
そしたらショコラのこともあるしカカオにも話はしなきゃいけない、義勇軍に属するエルルにも会わなきゃいけない。元気でいるだろうか

……でも今はあそこへ帰る意欲はあまりない。
パルマコスタの住民たちがドア総督を失った後どうなるのかなんて、見たくないというか……。
あそこまで街を否定したんだ、のうのうと我が物顔で帰るという選択が選べなかった。


「ソウマはどうするんだ?」

『……正直、あそこに戻っても普通にいられる自信がない。そうだな、
ショコラを探す手立てを見つけにまた旅するかな』

「どうしても、パルマコスタには戻りたくないのね。気まずいからかしら?」

『……。そう……ですね』

「なら俺たちと一緒に行かないか?」

『……。たしかにロイド君たちがいたらショコラを探すのは捗るだろうけれど、再生の旅もあるだろ。
邪魔はできないよ』


確かに、主人公たちの力があればきっとすぐに見つかるかもしれない。けれど自分はショコラを理由に責任から逃れてるだけでしかない状態だ。
パルマコスタに帰りたくないという思いからうじうじしていると意外なところから声がかかった。


「あら、邪魔ではなくてよ。あなたのサポートはとても心強かったわ」

「うん!ソウマがいてくれたから安心して詠唱できたし、心強かったよ〜」


それは、自分が殺すことに抵抗あるからで、
唯一できることが自分が的になって注意を逸らすしかなかったからであって……。

厳しいリフィル、心優しいコレットがそう言ってくれたのだ。
情け無いことに涙が出てきてしまいそうになる。

それなりに評価されていたと思ってもいいのだろうか。


「ねえソウマも一緒に行こうよ!」

『俺、そんなにつよくないから……』

「なら、これから強くなりゃいいって!俺だってクラトスと手合わせしてるんだぜ!」

「……独りで他の牧場に突っ込む危険は避けたい。下手するとこちらにも影響しかねん」


クラトスは控えめだが、否定はしなかった。
慎重派の大人組でさえこちらがいくら言おうと
否定しない。
戸惑いながらもロイド達に問いかける。


『で、でも俺がディザイアンに付いた人間だったらどうするんですか。はじめに出会った時だって計画で入れたとしたら……ディザイアンの服だって支給されたものかもしれない……』

「そしたら、その時お前を殴る」

『な、殴る……?それだけ……?殺さないの?』

「殺したからって何か結末が変わるのかよ。
それにソウマがもしディザイアン側なら俺を牢屋から出す必要なんてなかったんだぜ。あの連中は俺のエクスフィアを狙ってたんだからな、」

『……ロイド君にしてはよくそこまで頭回ったね』

「おい、馬鹿にするなよ!」

『ご、ごめん、つい……。でも……』

「私はソウマが来てくれると嬉しいな。だって、私やリフィル先生を必死に守ってくれたもん。
ソウマは最初は誰にも出来なかったことをやれる凄い人、って思った。
けれど少し旅を一緒にして……なんていうのかな、ソウマは心が強くて優しい人って分かったから」

『だからっ強くなんて……というか絆すためとか考えない?
人探しの旅をしてるんだ、その情報を対価にとか』

「あら、人間を殺すことをためらってる限りそれは無理じゃないかしら。
最終的にそれの対価は私たちの死よ、あなたには無理でしょう?」

『うぅ……』


確かに獣なら慣れているがともかく、同族を殺すだなんて今の自分には無理難題なものだ。
なにを言おうと次々に論破され、果たして自分は何のために吹っかけてるのすら分からなくなってきた。

そこまで主人公たちについていきたくないのか?
逆になんで主人公たちは俺を必要としてくれているんだ?

旅の経験があるからか?ディザイアンの住処に突っ込んでいくような人間を手元で監視したいからか?……それは言う通りかもしれないが。

クラトスの言う通りこれからの世界再生の旅に影響は出るだろう。
ディザイアンたちに顔を知られたから、いずれ自分も手配書が回るかもしれない。

ああ、いつも以上に考え過ぎて頭が痛くなってきた。
最終的に論戦に負け、自分は両手を上げて降参するしかなかった。
これには苦笑するしかない。


『……大事な世界再生の旅なのになぁ……はは、わざわざめんどくさいのを仲間に入れなくったっていいのに参った御一行だよホント』


その時には涙がぼろぼろと出て、必死の強がりも意味も無くなってしまった。
けれど心はどこかスッキリとしていた。
まだ問題は山積みなのに。

ただ、パルマコスタに帰りたくないだけの駄々っ子をしていて、それを理由にしながらもロイドたちの仲間に入ることは遠慮していた。
だって自分のわがままでロイドたちに迷惑なんて掛けたくなかったから。

まだ最もらしい理由で仲間になるならいいけれど、もし彼らの旅の邪魔になるのならそれは俺が望む形ではない。
何しろ大人組がいい顔しないだろう。

だからこうして力を認められていたのが何よりも驚きで、少し嬉しかった。
涙を拭いて、よくわからない擽ったさをかき消すようにぽりぽりをかくふりをする。


『ただ、パルマコスタに帰る件は後回しでいいよ。
俺よりショコラを先にして欲しいし。まだ心の整理もついてないし……世界再生の途中でも後にでも寄ればいいしさ』

「そうか、じゃあよろしくな!」

『うん。え、と……これからもよろしく、お願いします』

「わ〜ソウマよろしくね!」

「よろしくソウマ!ねえソウマが作ったあの薬について教えてよ!」


わちゃわちゃと騒ぐコレットとロイドとジーニアスに囲まれて、はじめて心から笑えた気がする。
なんだかんだで、自分は一人ぼっちの旅は寂しかったのかもしれない。
いずれ種族や差別問題とも関わることになる、
世界を再生するという長い長い旅路に自分も加わることになった。

自分が加わったことで何か物語が変わるやもしれない。
そこを注視しながらも物語を思い出さなければいけないのだ。
正直なところ覚えているのはテセアラという場面以降のイベントばかり。
そこばかり覚えていても仕方ないのは前提を知らなければ対処のしようがないか、である。

まぁそこはおいおい一人でどうにかするしかないのだろう。



* * *



救いの小屋にたどり着くと久しぶりに見る和服姿に思わず笑顔になる。
どうやら小屋の奥にあるマーテル教の小さな偶像にお祈りをしているようだった。

「……ラのみんなをお救えるようにどうぞお助けください」とどうやら故郷に向けて祈ってるようだったが地名はうまく聞き取れなかった。
啓蒙な信者だったのかなと日本とは少し違うなと思ったが、多神教なだけで日本人でも色んな信者がいたなと訂正した。

他の神の力を借りようとしてお祈りするのはお参りなどでよくある光景だ。

声をかけようとしたが、どうやらロイドの知り合いのようで彼が先に声をかけていた。


「おい、なにを祈ってるんだ?」

「みんなを助けられるようにって……あ!」

「いい心がけだな」

「う、うるさい……てアンタ!」

『あ、お久しぶりです。ロイド君とはお知り合いなんで……?』

「あんたもこいつらの仲間だったのかい!?ここであったが100年目!今度こそお前たちを倒す!」

『へ?え!?どゆコト!?』


なにがなんだかわからない俺を置いてしいなが殺気を出しながら懐から札のようなものを取り出す。
たしか彼女は仲間になっていたと記憶していたが、こんなに殺気立っているのは勘違いだった……?
訳も分からず敵視され、殺気に反応して思わず手を柄に伸ばそうとするもロイドに制される。


「待て!ここはみんなが祈る場所だ。やめようぜ」

「わ、……わかった」

「俺、ロイドっていうんだ。お前の名前は?」

「は?」

「ロイド?」


なんだかロイドがとても良いことを言ったが
和服の彼女とジーニアスが眉を寄せながらロイドを見遣る。
ロイドの言葉の意味がいまいち汲み取れないのは自分もだ。
みんなまだ名前も知らない仲だったのか。


「あ、私はコレットです。まだ神子としては半人前なんですけど頑張って世界再生しますね」

「お前の名前なんか聞いてない!」

「あ、そうですよね。ごめんなさい」


コレットの天然節としいなの毛を逆立てた猫のようなキャッチボールのなってない会話に思わず頭を押さえる。

『……どういう状況なんだ』と呟いてジーニアスがそっと腕に手を添えて諦めたように首を振った。
考えるなということか。
この世に生を受けて十数年しか経ってないだろうに色々悟りすぎてはしないか。

コレットを殺すつもりだったらしいしいなの言葉にパルマコスタでの殺し屋という話は彼女のことを指していたのかと理解した。

……殺し屋にしてはいろいろと忍べてないし殺し屋には似合わない点が多すぎる気がするが。
コレットはどうしても彼女の名前が聞きたいようで自分の命を狙う張本人にいろいろと質問を繰り返していた。
……なんだ?なにか茶番劇を見せられているのか?
呆れた視線に彼女も耐えられなかったのかついに名前を叫んだ。


「しいなだ!藤林しいな!」

『(……苗字が、先?)』


次こそ覚えていろ!とボンと煙を撒いて消えていった。
フジバヤシというのはミドルネームとか、そういった形には聞こえなかった。
あれはファミリーネームのことだ。絶対に。
良ければ彼女の暮らしとかそういったものが聞きたい。

もしかして、元の世界へ帰れる道筋だろうか。
もっと話を聞きたかったのに逃げてしまった彼女にまた会えないかと思ったが……なんだかあの調子ではすぐまた会えそうである。
その時にどうにか時間を貰っていろいろ聞きだせないかと算段を立てた。


『街であった時はただの変わった衣装の人だと思ってたけれどまさか、殺し屋稼業とは……人は見た目に寄らないなぁ』

「あれでも神子の命を狙う刺客よ。気をつけなくてはね」

「またしいなさんに会えるかな?」

『いや、そこは少しは命の危険を持とうよ……』

ぽやぽや笑う神子は怖がるそぶりを一切せずに「お友達になりたいなぁ」なんてのたまうのだ。
ええ……これが次から続くの……マジで……?
ジーニアスとリフィルは諦めた表情だった。
コレットはお次は近くにいたワンコによく分からないニックネームを名付けて楽しそうだった。
あの子の危機感の察知基準はどこからなの……?


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