本音



シルヴァラント編


* * *



同じ場所に隠れていたニールと再会した。
パルマコスタで何が起きたか、何か言葉を投げかけようとしたが皆一様に表情が暗く出ていたのかそれを察したニールに制された。


「……いえ。何もおっしゃらないでください。あなた方の顔を見ればドアさまがどうなったのか想像はつきます」

「でもドアさんはこう言ってたよ。ショコラを助けてほしいって」

「……総督。わかりました。総督の遺言のためにもぜひ私をお連れください!」

「わかった」

「……とりあえずドアから貰ったカギが使える場所を探しましょう」

「でもさ……カギを開けて侵入したとしてもそう簡単に出入りができるとは思えないよ?」

「しっかり対策を立ててから行動を起こす必要があるな」

『一応回復関係なら人数分の簡易薬は持ってる。傷にも使えるし煎じて飲むことで解熱剤にもできるよ。
グミとボトルもある程度渡しておく』

「サンキューな」

「簡易薬……?ソウマ薬作れるの?」

『これでも一人旅の途中だったからね、もしもの対策はいつでもしてるから』


コレットの問いに頷く、味の保証は出来ないが良薬口に苦しだ。そこは我慢してほしい。
大量の簡易薬が減りだいぶ軽くなったバックパックを閉じて投擲用ナイフと剣の確認をしておく。
なんだったらパルマコスタへ戻って補充も構わないが、こちらのことを考えてくれたのだろうか、早急のショコラの安全確保のためそのまま牧場へ突っ込むことに決まった。
パルマコスタでは会おうと思えば会えたが、あえてショコラの母であるカカオには会わなかった。いや、会えなかったが正しいだろうか。
なんだかとても申し訳なく感じて顔を合わせ辛いと思ってしまったから。

カードキーでのみしか入れないからか、見張りが一人もいない入り口にリフィルが器用に電子機器を操作していく。

そういえば機械類はディザイアンくらいしか保有していない世界のようだ。
ヒトがいる街にはこんな技術は一つも見当たらなかった。ITやらなど無い世界でリフィルはなぜ器用に操作出来るのだろうか。
まあ今すぐ聞く必要も無いかと思っているうちに電子音が軽快な音を立てて扉が開いた。

ある程度進むと檻に入れられた人たちが見えた。衰弱しているようでこちらに気づいても大した反応はない。


『(ここも相変わらずひどい……)』

「収容された人たちだ……」

「ねえ、助けてあげようよ」

「そうね。後々のことを考えるとこのまま放置しておくのはまずいわね」

「よし、二手にわかれるか?」

「いえ。ここは私にまかせて下さい。
後詰めでパルマコスタ軍の者も追ってきています。私はここに残り、彼らと合流してこの人たちを救出します。神子さまたちはショコラをお願いします」

『軍……なら俺もそちらに……』

「ソウマ君、大丈夫だ。
彼らが強いのはソウマも知ってるだろう?君は神子様達と共に行ってほしい。
ショコラは君の助けを待ってる筈だから」

『……分かりました、無事に』


義勇軍が来るなら自分もと思ったが
ニールに深く頭を下げ、ロイド側に着いていった。
途中ディザイアンに出くわすもロイドとクラトスが先頭切って戦ってくれるのであまり出番は無かった。

ロイドたちから溢れた敵の相手をするだけで、多分……人相手に剣を向けることに戸惑いを感じてるのを察して後方にいるコレット、ジーニアスやリフィルのサポート側へと回されたのだと思う。
指示したクラトスから見れば自分は腰抜けだと思われてるだろう、申し訳ない限りで……。

けれど後方を守ることも必要だと思うし詠唱中は無防備な状態なので的になりやすく自分がここに収まったのも必然的だろう。
投げナイフで投擲できるので遠近の攻撃も十分に可能なので
尚更かなと自画自賛してみるも、虚しくなるだけだった。

今自分が居る位置はフィールドで全体の流れ見ないといけないので頭の回転を求められるし、元が体力の無い貧弱な体なので効率を求められるから大変だ。

今まで一人だっただけにこんなに苦労するとは……目が回りそうだ。

このパーティの中に入ったからには世界再生を阻む敵を殺すことを求められるだろうし、けれど殺すことに戸惑っては仲間や自分が傷付くことになる。
自分が傷付くならまだしも、仲間が傷付くのは御免だ。

パルマコスタの人たちのように、虎の威を借る狐にだけはなりたくない。
自分の心を殺し、敵を殺せるようになるにはまだ時間が必要……なのだろうか。
みんな、どうやって人を殺す覚悟を決められたのだろうか……。


「待てロイド、少し休むとしよう。ソウマの疲労が心配だ」

『え?俺は別に……』

「ずっと私たちのところまで敵が来ないよう気を張ってくれてたでしょう?“聖なる活力を、ファーストエイド”」

『あ、すみません……』

「そういう時は別の言葉の方が嬉しいわ」

『……ありがとうございます』

「ごめんなソウマ、俺が突っ走ってばかりだったから……」

「ふーん、ロイドも自分のこと分かってるんだね」

「当たり前だろ!」


クラトスにとって自分の今の状態は分かりやすすぎなほど憔悴しきっていたようだ。
いつのまにか肩で息をするほどで、それよりもショコラを助けようと躍起になっていたが彼に諌められた。

前に見たのと同じ淡い緑白色の光がいつの間にか切れていた手の甲を覆った。
少し気を切り詰めすぎてしまったかもしれない。

ニール達との連携もあるし急がなければと思ったんだけれど、少しの猶予はあるとロイド達も足を止めてくれる。
疲れ忘れに甘露飴を口に入れる、甘い味が口の中に広がる。

思わず吐き出しかけた息をぐ、とこらえた。まだ駄目だ、ショコラも、あの人も見つけてない。
生きてあの人たちを見つけてパルマコスタに帰らないと。
あんな手紙を置いて行ってしまった人たちを。

暫しの小休憩のあと、再び中を探索した。
途中、檻を見つけて中から人を救い出した際にカードを受け取った。
阿保なディザイアンが落としていったのを密かに隠し持っていたらしい、お陰で探索の手助けになってくれた。

足を一歩間違えれば落ちてしまいそうな細い通路に拘束されたままディザイアンに歩かされているショコラを見つけた。


「ロイド!あれ!」

「待て!ショコラをはなせ!」


投擲したナイフがディザイアンに当たりその隙にクラトスとロイドが蹴散らしてくれた。
手鎖を外しショコラが驚いた表情でこちらを見たが、気を張り詰めていたのだろう、
安堵の表情を浮かべていた。


「ソウマ!?助けにきてくれたの?」

『もちろん助けるに決まってるだろ。ロイド君達が手を貸してくれたんだ』

「怪我はない?だいじょぶ?」

「ええ。大丈夫です!
神子さま、みなさん。本当にありがとう」

「いや、そんな……」

「気を緩めるな。我々はまだマグニスを放置したままなのだからな」

「総督府のニールがここに収容されている人たちを連れて脱出しています。私たちは管制室をおさえて彼らを安全に脱出されないと」

「ドアさまがいよいよ動き出したんですね!」

「あ、ああ……まあ……」

「神子さまとドアさまは私たちを救ってくださる!
ねえソウマ!これで安心して暮らせるよ!」

『う、うん……そうなると、いいけど……』

「……ソウマ?
ちょ、ちょっといくらあなたがドアさまを信じてないからって眉間にシワよせないでよ」

『……ごめん』

「なに、どうしたの?街になにかあったの?」

『……いや、ごめん。ちょっと疲れてるみたいなんだ。
それよりほかに行けそうな場所ってある?それをロイド君たちに教えてあげてほしいんだ』

「場所?えーと、管制室かどうか分からないけどこの部屋の奥にはきらきら光る壁とか魔法みたいなものがたくさんあったわ。
ご案内します」

「そうね、少々危険かもしれないけれど、お願いできて?」

「はい。こちらです」


武器を持たないショコラを一緒に連れていくのは危険だと思って護身用にと小さなナイフを一本渡した。
扱いは分からずとも、身を守る武器としてならどうにもできるだろう。

あとは俺のバックパックと共用だ。あの簡易薬を話しに出したらショコラが途端に愚痴り出した。
前に騙して飲ましたのが相当恨みとしてあるらしい。

その話を右から左に受け流しながら歩いていると、ジーニアスがこちらへ振り向いたかと思えばニヤニヤとした表情で聞いてきた。


「そういえばソウマはショコラのなんなの?」

『え、友人』

「え、そんなハッキリと言うの?他になんかあるとか!」

『え?他に……?うーん、俺はいつもお世話されっぱなしだからなぁー』

「コイツは出会った時からこうなの。まぁそんな所もらしいけど……」


ショコラと自分との関わり合いについては特にそれほどにと。
風紀委員と仲も素行も良くないモブ生徒のような状況だ。

そこに恋愛関係なんてものはなくて、歳が近いから気が合うくらいの親愛さ。
けれどそれが女の私には心地よくて、とても良い話し相手なのだ。
相手はどう思ってくれてるのかは分からないけれど……嫌われてないと思いたい。

ジーニアスが求めていた反応では無くて何やらつまらなそうにしていたが、お陰でショコラも気分転換になったようだ。

ワープという謎の瞬間移動技術に未だ頭がついていけないまま管制室へと向かった。
未知の技術による恐怖を味わう前に一瞬で場所が変わったのになんで皆は普通にしていられるんだ……?


「ここが管制室か……」

「ようやく到着か。天から見放された神子と豚どもが」

「天から……見放されただと?」


信託を受けた神子が旅し始めたばかりというのにもう見放されただって?三日で旅を終えさせろとでもいうのか。
神でさえ世界を創造するのに七日も掛かったというのに……。
まさかそんなリアルタイムアタック式で旅させられてたまるか。

それよりも天からという意味が分からない、ロイド一行に会う前の旅の途中、たしかにまばゆい光と共に現れた救いの塔は視認できた。
あの塔が神託とやらの証らしいが……。

機械の椅子から降りたドレッドヘアが強烈で、これでハーフエルフとか見た目が過激すぎる。
ヒト族に対して劣悪種言う前にこんなに先端技術さのかけらも無い斧をどうにかしろ。
これじゃあ旧石器時代じゃないか。
せめてサイコガン作ってくれ自分が欲しい。


「天から見放されたのはマグニス、おまえだ!ここで叩きのめしてやるぜ」


と、息を荒くしていたものの幾つもある自動ドアからディザイアン達に一気に囲われてしまった。
やはり科学技術という魔法の魔法のような技術を自由にできる相手に剣と盾じゃ無謀だっただろうか……?


「囲まれました〜……」

『参ったね〜……』


「がははははは!しょせんは豚の浅知恵よ。おまえたちの行動はつつぬけだ。
劣悪種どもが逃げだそうとしているのもな」


モニターに映す映像を見てリフィル先生がスラスラと機械を扱えることを見た後なので投影された画面に対してことさらびっくりすることはない、非戦闘であるショコラを背の後ろにおいやるくらいの時間があるくらいだ。

敵が侵入してきたことにあまり驚きもしない、むしろ何の対策なく迎い入れてる状態にマグニスは何かしら考えてる気はした。

たしか、この後の展開は……。
うぅ、生きることに必死ですっかり……たしか、すごく良くない展開だったのだ。


「何であんなところにニールが入ってるの?」

「あれは投影機。魔科学の産物だ」

「遠くの人や物を映しだす装置よ。これに私たちも映っていたのね」


ニールが懸命に囚われていた人を導いていた。
衰弱して歩けない人を同じく収容されていたが比較的元気な人が肩を貸して必死に走っている。
そこには義勇軍も何人か疎にいた。
しかし投影されている先の部屋で前後の扉が閉まってしまった。
これでは逃げられない。


「ああ!閉じ込められちゃったよ!」

「無駄無駄無駄!おまえらの行動は、何もかも無意味なんだよっ!」

「無意味なんかじゃない!今からおまえを倒せばみんなを助けられるじゃないか!」

「よくそんなことが言えるなぁ?イセリアの厄災はおまえの無駄な行動のせいだろうが」

『……』

「…それは……」

「そうだ。投影機に映っている連中であの時の再現をしてやろうか?培養体に埋め込んだエクスフィアを暴走させて、化け物に変えてよぉ!」

「や、やめろ!」

「遠慮するなよ。おまえが殺したあのババア……マーブルのようにしてやるよ。
ガーハハハハハ!」

『っ!?……このことか』


最高にイかれた表情で奴は嘲笑いロイドとジーニアスに絶望を落とし、聞き覚えのあるマーブルという名前に、地下で出会った緑の塊の生き物を思い出した。

マーブルと聞いてまさかと思いショコラの方へ振り返ればロイドたちと似たような、それ以上に深い絶望の表情を浮かべていた。

マーブルは彼女の祖母の名前だ。


「マーブル……?マーブルって、まさか……」

「そうなんだぜぇ、ショコラよぉ。
おまえの祖母マーブルはイセリアの牧場に送られロイドに殺されたんだ。無残な最期だったそうだぜぇ!」

『っ……!』

「待ってよ!ちがうんだ!ロイドはマーブルさんを助けようとしてくれたんだ。でもディザイアンがマーブルさんを化け物にして……」

「ロイドが殺した」

「……う……そ」

『っショコラ!やめろこっちへ走れ!
走れって!』


こっちはロイドたちがいる。
誤解とディザイアンの所為とは気付かない彼女はこちらへ逃げることはしなかった。


抜かった!と慌てて剣を抜いて近づこうとした途端、ショコラが「来ないで!」と渡した短剣を振り回す。
こちらへの拒絶に心がズキンと痛んだ。

まるで生理的に受け付けないかのようにこちらの輪から後ずさった先には既にディザイアンがいる。
ナイフも持ってるはずなのに抵抗もなく彼女は捕まってしまった。渡したナイフはショコラの手から落とされ虚しい金属音が響く。


「ショコラさん!」

「くそ!ショコラをはなせ!」

「放っておいて!ドアさまに助けてもらうわ!おばあちゃんの仇になんて頼らない。それぐらいならここで死んだほうがマシよ」

『ショコラ!!』

「ソウマも知っていたんじゃないの!?ソウマも私にそのことを隠してたんじゃないの!?」


キッとこちらを睨みつけ、そう言い放ったショコラ。
その視線に後退りそうになるが、寸で耐える。

そんな……まさか、そんなことするわけないじゃない……。
それに釣られてカッとなってしまい自分も心の内に閉まっていたものを吐き出すように、あの街の可笑しさ、思っていたことの本音をショコラにぶつけてしまった。


『……じゃあ言わせてもらうけれど、いつまでドア総督に縋るつもりなの!?たしかに神なんて不確かで、苦しんでも助けてくれないことばかりだし俺も何一つ信じちゃいない!

ディザイアンも悪いのは確かだよ!
けれどロイド君たちがどうしてそんなことになったのか考えた?何故死んだのかの真実を憎いディザイアンの話だけで終わらせるつもり?
死んだ方がマシ?
……母も逝き娘もむざむざと殺され独りぼっちに遺されるカカオさんの気持ちは!?』

「……私のことはドアさまが助けてくださるわ。
もう、放っておいて!」

『だからそのドアは……っ!』

「がはははは!そうか、ドアになぁ……。まあいい、連れて行け!」

『ふ、ざけるな!抗えよ!何のためにその手足はあるんだっ!ねぇ、ショコラ!!』


いくら叫んでも抵抗する気も失せた状態でショコラはディザイアンに連れてかれた。
俺はパルマコスタの住人ではないからドア総督がどれだけ偉大なのかなんて分からない、寧ろ彼らが怖い。
そう思ってるのは事実だった。

何もできない、弱虫な私は呆然としたままショコラの背中を見送るしかなかった。

助けるつもりだったのに、ロイド達を責める彼女を突き放してしまった……。
ショコラの気持ちだって痛いほど分かる……身内の突然の死の報せも、
身内を死へと導いた人間が、自分が味方だと思っていた世界を救う存在とのうのうと生きていて共に行動してたなんて知ったら怒り狂うほどにもなるはずだ。

けれど愚直なほどの正義感の強い彼が主人公なんて特殊な立場を除いても、意図的に人を殺すことはないことくらいには短い旅のなかで理解できていた。

じゃなきゃ、ドア総督に言った言葉は全て嘘で、嘘なら絶対に思い切り殴ってる。
けれど言ってしまった言葉に後悔と罪悪感が芽生える。

自己嫌悪。
殴られるべきは自分自身だったのだ。

助けるんじゃなかったのか、私は。
握りしめた手に爪が強く食い込んだ。


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