ご主人様と奴隷のふたり

SMプレイ、3P



 その日、俺はある男の命令で、ラブホテルへ向かっていた。
 男の名前は、吉峰奈緒。今年で37歳になる、大企業に勤める独身のサラリーマンで、俺の「ご主人様」だった。

 吉峰さんとは、男性同士が出会うマッチングアプリで知り合った。恋人を作る気はなく、ただセックスがしたいがために始めたアプリだった。歳上の人ならきっとセックスがうまいだろうということと、お金も払ってくれるだろうという、本当にそれだけの理由で、俺は吉峰さんを選んだ。吉峰さんは、さっぱりとした顔立ちで、眼鏡をかけており、178cmの俺よりも10cm背が低かった。風貌はあまり俺好みではなかったが、俺の予想通りセックスがうまく、お金も全部出してくれたので、俺は吉峰さんと三回、ホテルへ行き、バニラセックスをした。そしてその、三度目のセックスが終わったあと、吉峰さんにこう言われた。

「夏目くんは、僕の奴隷になる素質があるよ」

 奴隷、と言う言葉から、俺はすぐにSMプレイを想像した。その話が、セックスの延長線上にあったからだ。
 ただ、どうしてそんなことを言われたのか、皆目検討がつかなくて、俺は黙ることしかできなかった。今まで俺は自分がマゾヒズムと呼ばれる性的嗜好を持っているなんて微塵も思ったことがなかったし、吉峰さんとバニラをするときは、ハードなプレイをすることもなく、お互いに甘い愛撫をし合って果てていたのだ。そんな素質が俺にもしあったとしても、どこでそれを見抜いたのか、まるで分からない。

「ど、……どうして?」

 ようやく捻り出した言葉は、本当に下らない、ありきたりなものだった。
 今では考えられないことだが、俺は生意気ながら、自分よりも18歳歳上の男に敬語も使っていなかった。

「目を見れば分かるんだ」

 吉峰さんは、どこかで聞き覚えのある言葉を台詞のように言った。

「すごーい。……とか、言わないよ、あり得ないし、奴隷なんて」
「あり得ない、って思うなら、そう思っていても構わない。でも、夏目くんはマゾになる素質があるし、それでもっとセックスを楽しむことができると、僕は思ってるよ」

 僕は、の部分を強調して、吉峰さんはそう言い切った。その強調は、これは単なる自分の主観である、という逃げではなく、自分の言うことが正しいのだという強い主張であると俺は受け取った。

「まぁ、気になったら連絡すればいいし、奴隷だなんて失礼だと思うならもう連絡しなくてもいいよ。今のこと全部忘れて、また今日みたいなセックスをしたいならそれでもいい。夏目くんの好きなようにしてもらって構わない」
「で、でも、……吉峰さんは、どうしたいの?」
「夏目くんのしたいようにしたい」

 そう言う吉峰さんの瞳には、確かに、俺を今すぐにでも奴隷にして乱暴に抱いてやりたい、と言うような欲望は見えなかった。目を見れば分かるだなんてことは言えないが、本当にそう思った。
 その日は、結論を出すことはなく、ただ吉峰さんと軽いキスをして別れた。

 俺のしたいように。

 そのとき俺は、多分また吉峰さんとバニラセックスをし続けるのだろうと思った。それがいちばん安定していて、平穏な選択肢だったからだ。
 だが、その考えに反するように、その晩から俺はSMプレイというものを調べ始めていた。そして、知れば知るほどに、アブノーマルなセックスに、ご主人様と奴隷という関係に、興味を持ち始めている自分がいた。
 吉峰さんと最後に会ってから一週間後、俺は決意の、しかし逃げ腰のメールを送った。

『吉峰さんと、SMプレイ、してみたい。でも、嫌になったらやめても良い?』

 吉峰さんからの返信はすぐに来た。

『逃げ道は用意してあげよう。でも、そんなことにはならないと信じてるよ。』

 そして、吉峰さんの言葉の通り、俺は吉峰さんの奴隷となった。大学一年の春のことだった。

 それから俺は、様々なことを吉峰さんに教えられた。フェラチオの仕方や全身リップの方法に始まり、スパンキングで与えられる快感も知った。吉峰さんのものなら、精液もおしっこも喜んで飲むようになった。アナルを開発され、中に吉峰さんのものを受け入れられるようになり、それで絶頂することも教えられた。たった半年で俺の心と体は、作り替えられたかのようにマゾヒストのものに変わっていった。
 この関係のことは、俺は誰にも言わなかった。高校のときから仲の良い、いちばんの親友の穂高にも内緒にしていた。言う理由がなかったし、言って引かれるのが怖かったのもあった。だから吉峰さんとのことは、俺の最大の秘密だった。

 文化祭が終わり、俺が19歳になった頃、吉峰さんは新しい奴隷を飼おうとしているという話をした。そのとき、吉峰さんの奴隷は俺しかいなかったが、吉峰さんは“多頭飼い”、いわゆる複数の奴隷を抱えることもある、と言っていて、俺も了承していたから、それはあまり驚くことではなかった。
 新しい奴隷候補の子は、年齢は18歳で、俺と同じ大学一年生の男の子、自分がマゾヒストであるという自覚があって、アナルプレイが大好きでノンケなのに男のちんぽが欲しくなってしまったらしい。話を聞く限りでは、俺よりもずいぶん素質のありそうな男だと思った。つまらない嫉妬心も芽生えた。
 でも俺は、奴隷は自分だけにして欲しい、なんていうことは言わなかった。その代わり、この奴隷よりももっといやらしく、変態的な奴隷になりたいと思った。それをありのままに伝えると、吉峰さんは喜んでくれた。

「今度、僕のもうひとりの奴隷と夏目を会わせる」

 今からちょうど一週間前、ホテルでのプレイの後、俺の体についたロウを剥がしながら吉峰さんは言った。それはあまりにも突然のことだった。
 もうひとりの奴隷のことを忘れていたわけではなかったが、会うことを想像すると、じわじわと嫉妬心が湧き出てきて怖かった。でも、不思議なことに拒絶の気持ちはなかった。嫉妬心とほぼ同じくらい、いやもっと強く、俺は吉峰さんのもうひとりの奴隷と会いたかった。

 そして今、俺はその奴隷に会うために、ラブホテルへと向かっていた。

 吉峰さんに告げられていた部屋番号をフロントに伝え、エレベーターに乗る。不安と緊張と、少しの期待が、俺の胸を高鳴らせていた。
 部屋まで着いてチャイムを鳴らすと、吉峰さんが扉を開けてくれた。黒のカットソーにグレイのパンツ、見慣れた少し大きめの眼鏡とさっぱりとした顔立ち。驚くほどにいつもの吉峰さんだった。少し長めの髪の先だけが水に濡れていた。事前にシャワーを浴びているのだろうと思った。

「あの、もう、来てるんですか?」
「来てるよ。おいで」

 そう言うと、吉峰さんは俺にアイマスクをつけ、両手を握った。
 吉峰さんに手を引かれながら暗闇の中を歩いていく。もうひとりの奴隷も、こんなふうに目隠しをされているのだろうと俺は思った。

「ベッドに乗りなさい」

 その言葉のあとで、パンパン、と、何かを、おそらくはシーツを叩く音が聞こえた。恐る恐る、ベッドに乗る。吉峰さんでも俺でもない誰かがいる気配がした。

「これで揃ったね」

 吉峰さんは、少し弾んだ声でそう言った。吉峰さんも喜んでいるのだろうと思った。自分が調教した若い男を侍らせているのだから喜んでいてもおかしくはないのだが、吉峰さんはあまり感情を表に出さない人だから、なんだかそれが妙に珍しく感じられた。

「仲良くするんだよ」
「はい」
「は……、はい」

 若い男の声だった。俺と同い年だと言っていたから、当たり前といえば当たり前だ。

「アイマスクを外しなさい」

 調教をするときの声色だった。
 慌ててアイマスクを外す。少し眩しすぎる光に目を細めながら前にいる男を見つめる。その顔には、見覚えがあった。

「え?」

 太い眉と三白眼の垂れた目、長い睫毛、高い鼻。その整った顔立ちは、俺の親友、村井穂高のものだった。
 穂高は、少し怯えたような顔をしながら辺りを見回し、ベッドに置かれたいつもの丸眼鏡をかけた。そして、理解できない、と言ったような顔でつぶやいた。

「夏目?」

 その言葉で、俺は目の前の男が穂高だということを確信した。

「へぇ、ふたりは知り合いなんだね。それもかなり仲が良いらしい」

 平然とした声で吉峰さんが言う。
 だが、俺は混乱していて、うまく返事ができなかった。大掛かりなドッキリを仕掛けられているんじゃないかと思った。あのクールな穂高と、目の前に奴隷として現れた美青年とが、重なるようでうまく重ならない。

「穂高……」
「うそ、本当に……、夏目なの?」
「うん、……」
「夏目も、……『そう』、なの?」

 穂高の言葉は曖昧だったが、答えはYES以外にない。俺はすぐに頷いた。

「引いたりしない?」

 付け加えるようにそう告げると、穂高は首を横に振った。

「引かないよ。オレも『そう』だもん」

 そう言われて、俺は吉峰さんから聞いていた“奴隷”の話を思い出した。自分がマゾヒストであるという自覚があって、アナルプレイが大好きで、ノンケなのに男のちんぽが欲しくなってしまった、18歳の男の子。それがあの、女の子にモテモテで、クールで知的で、でも本当は人見知りで恥ずかしがり屋の村井穂高の、俺の知らなかった奴隷の側面なのだ。

「お話はもう済んだかな」

 吉峰さんの声が聞こえて、俺は『奴隷』の気持ちが穂高のことで抜け落ちていたことに気がついた。慌てて吉峰さんの方を見る。

「ごめんなさい」
「仕方ない。まさか知り合いだとは思わなかったからね。大学は違うだろ?」
「はい。でも、高校が同じで、今もよく会ってます」

 俺の代わりに穂高が言った。惹かれあったのかも、と、俺は心の中で思った。単純で陳腐な表現をすれば、運命だったのかもしれない。

「じゃあ、仲良く出来るね」

 確認のように吉峰さんが言った。俺と穂高は恐る恐る目を合わせて、それから、同時に頷いた。

「服を脱ぎなさい」

 吉峰さんの声が、再び調教のときの声色に戻る。俺は穂高ともう一度目を合わせて、それから、徐に服を脱ぎ始めた。
 穂高は、骨太でむっちりした体つきの俺とは違って、細くて括れがあり、やや筋肉のついた女好きのする体をしている。顔も、俺はいわゆる塩顔と呼ばれる薄い顔だが、穂高はどこからどう見ても濃いソース顔だった。体型も顔も全くタイプが違うのに、吉峰さんはどうして俺と穂高を奴隷にしようと思ったのだろう、と、何となく思った。それも運命なのかもしれない。

「ちゃんと準備はしてきただろうな」

 お互い、全裸になると、吉峰さんはそう俺たちに言った。準備というのが何かはすぐに分かった。俺は吉峰さんにお尻を向けた。穂高もすぐに気付いた様子で俺に倣う。

「ご主人様のご命令通り、お尻の穴を洗って、広げておきました」
「オレも、……です」

 穂高のキュッと引き締まった小さな尻には、アナルプラグのフランジが見えた。俺にも、同じものがついている。
 
「よろしい。こっちに来なさい」

 口々にはい、とだけ言って、吉峰さんに縋り付く。
 吉峰さんはプレイのとき、最初は優しく命令して、少しずつ口調を厳しくしていく。どれだけ回数を重ねても、いきなり激しく罵ったりはしない。これは吉峰さんのモットーのようなものだった。

「夏目、口を開けなさい」

 次のプレイへの期待に、興奮して肩が跳ねた。恐る恐る口を開けると、吉峰さんは俺の口にゆっくりと大量の唾液を垂らした。体中が、まるで微弱な電流を当てられたかのように痺れる。瞬間、俺はすごくはしたない顔をしていたと思う。

「まだ飲むな」
「ふぁ」
「穂高に分けてあげなさい」

 それがどう言うことなのか、俺にはすぐに分かった。
 穂高と目線を合わせる。穂高は、了承するように微笑んで頷いた。あざとささえ感じる、少し突き出した穂高の唇に、自分の唇を重ね、舌を入れて、吉峰さんの唾液を流し込む。穂高もすぐに俺の舌に自分の舌を重ね、ぴちゃぴちゃと唾液を味わうように舐め始めた。

「ん、んんん、ん」
「んん、んー」

 ふたり分の、甘い鼻声がホテルの部屋に響く。吉峰さんは俺と穂高のことを、微笑ましそうに見つめていた。
 何度も唾液を交換し合ってから、俺は穂高から唇を離した。
 親友とキスをした、という事実を、俺は案外淡々と受け止めていた。ご主人様の命令であるから仕方なく、というわけでもなかった。同じ奴隷で、大好きな穂高であるなら、と、きっと思っていたんだろうと思う。

「唾、いっぱい、ありがとうございます」
「ご、ご主人さまの唾、すごく美味しかったです」

 倒錯的な言葉を、交互に紡ぐ。
 すると、吉峰さんは俺の頬に、勢いよく平手打ちをした。

「あっ、あ……」

 間髪を入れずに、穂高にも手のひらが飛んでくる。

「はふっ、ん、ん゛」

 頬の痛みがじんじんと蕩けて、だんだんと快感に変わっていく。ゾクゾクするような痺れが、体中に広がる。

「興奮したか」
「はい、すごく……」
「穂高は」
「は、はい……、興奮、しました……」

 穂高の目はとろん、と蕩けていた。今まで見たことのない、甘く媚びた表情だった。俺の顔もきっとこんなふうになっているのだろう。
 さっき穂高が言っていた『そう』という言葉の意味が、分かったような気がした。SとかMとか、そういうカテゴリーの話ではない。穂高も、俺も、『そう』なのだ。

「四つん這いになりなさい」

 また、お互いに返事をして、四つん這いになる。吉峰さんは作業のように俺と穂高の尻を順番に軽く叩くと、アナルプラグのフランジに手を掛けた。思わず体が強張る。心臓を跳ねさせながら、なるべく力を抜くことを意識していると、徐に、ずるっ、とプラグが抜かれた。穂高の嬌声が、どこか遠くに聞こえた。

「あっ! はぁ、あ、あ、あ……」
「ん……、ん゛ぅう……」

 プラグの余韻で喘ぐ俺と穂高を一瞥すると、吉峰さんは鞄から長い棒のようなものを取り出した。先端が、どちらも亀頭のような形をしている。プレイで使ったことはなかったが、俺にはそれが双頭ディルドと呼ばれるものであるとすぐに分かった。
 吉峰さんはそのディルドの両の先端に、ホテルのものではない持参のコンドームを被せ、さらに惜しみなくローションを垂らした。

「入れて欲しいか」
「はい、入れて欲しいです……」
「んんんっ……、欲しい、です、……」
「欲しいなら、ちゃんとおねだりしなさい」

 その言葉で俺と穂高は、示し合わせたように腰の位置を高くした。
 親友の前でおねだりをするのは恥ずかしかったが、それよりも興奮のほうが勝った。いつもははしゃいでいて明るい俺の、いやらしい奴隷の姿を見て欲しい。そして、それを受け入れて欲しい。吉峰さんにも、穂高にも。

「な……、夏目の淫乱なケツマンコを、オモチャでいっぱい犯して下さい……。奴隷がケツマンコで感じるところを見て下さい……」
「お、オレも、欲しい……、です、奴隷の、変態まんこに、ディルド、ぶち込んで下さい、お願いします……」

 淫乱なおねだりをするだけで気持ちいい。もう、乳首もチンコもビンビンに勃起していた。

「ふたりともよくできたね」

 そう言うと、吉峰さんは再び俺と穂高の尻を叩き、ディルドの片側を俺のアナルに擦り付け、ぐっ、と力を入れた。それだけで俺のアナルは、待ち侘びていたとでもいうようにディルドを飲み込んでいった。
 長いディルドがゆっくりと時間を掛けて半分ほどまで入ったところで、吉峰さんは、反対側の先端を穂高のアナルにあてがった。穂高のアナルは、俺の尻から垂れたディルドをすっぽりと容易に咥え込んだ。残りの半分を穂高が飲み込むと、お互いの尻がくっつく。吉峰さんはそれを、嬉しそうに見つめていた。

「好きなように動きなさい」

 返事と、腰が動き出すのは同時だった。

「はっ、あ、あ、あ、あぁあっ、あん、んぁあんん……」
「ん、ん、ん、ふ、んんんっ! はぁあっ、あ、あ、あぁん゛っ」

 体を揺らしながら、自分の気持ちいいところにディルドを当てる。自分の喘ぎ声と、少し高い穂高の喘ぎ声が混ざって、この空間を卑猥なものにしていた。
 腰を引いて挿抜を繰り返すと、何度も穂高の温かい尻の皮膚に触れる。時折振り向いて、同じく振り向いている穂高と目を合わせると、恥ずかしさと嬉しさで、胸がじんわりと熱くなった。

「あっ、あ、あ、ん゛んっ……! ん゛ぁあっ、あ、あ、気持ちいい、気持ちいい!」

 我慢できなくなった、というように穂高が叫んだ。そんな穂高を可愛いと思った。でも、俺にもあんまり余裕はなかった。気持ちよくておかしくなりそうなのに、腰の動きが止まらない。吉峰さんの目には、俺も穂高も、等しく淫乱に映っているのだろうと思った。

「穂高、どこが気持ちいいんだ。ちゃんと言え」
「あっ、あ、あ、あ、まんこが、奴隷のまんこが気持ちいいです……!」
「夏目はどうなんだ」
「はい、気持ちいいです……! ケツマンコ、オモチャに犯されて、いっぱい感じてます……!」
「よし、ちゃんと言えてえらいぞ」

 吉峰さんは、満足そうに笑い、俺と穂高の髪を交互に撫ぜた。その手が嬉しくて、もっと気持ちよくなったような気がした。
 しばらくそうしてふたりで腰を振っていたが、もうすぐいきそう、と思ったところで、吉峰さんは「ディルドを抜きなさい」と命令をした。名残惜しかったが、次に与えられるプレイへの期待で胸が高鳴るのも事実だった。腰を引いてディルドを抜き、快感の余韻に体を震わせながら吉峰さんの方を見つめる。グレイのパンツを押し上げるように、吉峰さんのちんぽが屹立しているのが分かった。

「舌で奉仕しろ」

 そう言うと、吉峰さんはようやく服を脱ぎ始めた。
 太ってはいないが、下腹がぽっこりと出ている。あまりいい体とは言えない。でも、そんな吉峰さんに、俺も、女の子にモテるかっこいい穂高も、隷属しているのだ。
 吉峰さんが全裸になると、俺と穂高は子猫のように体を寄せ、その頬にキスをした。それから、耳や首筋、鎖骨や乳首、腋や腹と、余すところなく丹念に舌で奉仕していく。ときおり、穂高と舌を重ね合わせるのも気持ちよかった。足は、指一本一本を丹念に舐めた。穂高が左足で、俺が右足。ここを舐めるときが、いちばん奴隷っぽくて興奮する。

「アナルも舐めさせていただけますか?」

 俺が尋ねると、吉峰さんはそうするのが当然であるといったような感じで脚を開いた。吉峰さんのアナルにキスをして、茶褐色のそれに舌を這わす。濃厚な男の匂いに、頭がくらくらした。穂高は少し戸惑いながら、アナルの上ででっぷりと存在を主張している睾丸を舐め始めた。
 吉峰さんの手が、俺と穂高の髪を撫ぜる。それだけで胸がギュッとなって心地よかった。

「ご主人さま、おちんちんも、舐めたいです……」
「仲良く舐めなさい」

 俺と穂高は、示し合わせたように丁寧に、取り合うことなく、吉峰さんのちんぽを舐めしゃぶった。竿を唇で食んだり、亀頭の先を舌先で舐め回したりして、我慢汁が溢れてくると、それを舐めとってまた深いキスをする。吉峰さんは口角を上げて笑っていたが、それは俺たちのフェラチオで気持ちよくなっているのではなく、ただ、若い男ふたりが自分のちんぽをしゃぶっているので優越感に浸っているのだろうと思った。

「ご主人様のおちんぽ、すごくおいしいです」
「ご、ご主人さまのおちんちんをしゃぶれて幸せです……」

 興奮しているせいか、淫猥な言葉が呼吸のようにするすると出てきた。吉峰さんの、優しげなのにどこか冷たい顔に体が疼く。

「このちんぽで犯されたいか」

 平然とした顔で吉峰さんは言った。俺と穂高は、はい、と返事をして、吉峰さんを見つめた。

「どっちが先にされるか、決めなさい」

 横目で見た穂高の頬は、食べ頃の林檎のように紅潮していた。もう、今すぐにでも犯されたい、と言うのが、見るだけで伝わってきた。

「穂高にして下さい」
「夏目がいいです」

 お互いがお互いの名前を呼んだのは、ほとんど同時だった。思わず目を見合わせる。吉峰さんは、堪えきれなかった、とでも言うように苦しそうに笑った。

「本当に仲が良いな」
「ごめんなさい、決まらなくて……」
「しょうがない。じゃんけんか何かで決めなさい」

 そう言うと、吉峰さんは再び笑った。
 じゃんけんの結果は、俺の勝ちだった。負けた自分の手を見つめて、穂高は何だか嬉しそうだった。そんな穂高が可愛かった。

「おいで、夏目」

 その言葉で俺は、犬のように四つん這いのまま吉峰さんの胸元に顔を埋めた。
 穂高にもっと気持ちよくなってもらいたかったけれど、俺も吉峰さんにたくさん可愛がられたかった。それは矛盾する感情ではないと思う。
 吉峰さんは、目を細めて俺の髪を何度か撫ぜてから、コンドームを手渡した。封を開け、ゴムを口に咥えて、吉峰さんのちんぽに着ける。こうやって口でゴムを着けることも、吉峰さんに教えてもらったことのひとつだった。

「後ろから犯してやる。嬉しいだろう」
「はい、すごく……、嬉しい、です、うう」

 バックは、俺がいちばん好きな体位だった。覚えていてくれたことが嬉しかった。腰を高く突き出して待っていると、吉峰さんは俺のアナルにローションを垂らし、そのまま、硬くなったちんぽを差し込んだ。

「あああああああっ!」

 獣のような声が出た。圧迫感と、ムズムズするような快感に体が敏感に反応する。思わず腰を揺らして気持ちいいところを探ろうとすると、尻をべちん、と強く叩かれた。

「はしたない」
「あっ、あ、あ、あ、ごめっ、なさ、ん゛、んん……、あ、あっ」

 ばちん、ばちん、と、何度も尻を叩かれて、いやらしい声を抑えられない。穂高が見ている、と思うと恥ずかしいのに、突かれるたびに余裕がなくなっていく。

「いいっ、あ、あ、あ゛ぁあぁっ……! ん゛、ん゛んん! あ、あ、もっと! もっと、お尻ぶって下さい!」
「変態だな」
「あっ、あっ、あ、あ、ん゛っ……! あぁっ、あぁんっ……!」

 吉峰さんの言葉ひとつで、自分が作り替えられていくような感じがする。変態と言われて、嬉しくなって感じるなんて、半年前の自分だったら想像もつかなかった。

「自分がどれだけ変態なマゾ犬か、穂高に教えてあげなさい」

 穂高のほうを見る。
 ベッドにぺたんと座り込んで、頬を赤らめて目を見開きながら俺を見つめる穂高のちんぽは、ギンギンに勃起していた。

「ほら、言え。お前はなんだ?」
「お、俺、俺は、あ、あ、お尻を、ぶたれて、感じる、変態の、マゾ犬、です……! はふ、う、ううううっ」
「あ、ああ……」

 穂高は、両手を口元に当てて、甘い吐息を漏らした。眼鏡の奥の瞳が潤んでいる。羨望に近い眼差しだった。

「な、夏目……、すごい……、やらしい……」
「あ、あっ、あ、あ、あぁああっ」

 胸の奥が、じんじんと燃えるように熱い。穂高の視線が恥ずかしいのに、もう声も体も止まらなかった。自分が動物にでもなってしまったようだった。

「いやらしい奴隷になれて嬉しいか」

 吉峰さんがそう問いかける。いやらしい奴隷、と言われたことに胸が高鳴る。

「は、はぁ、あ、あっ、うれしい、うれしいです……!」

 叫ぶようにそう言うと、再び手のひらが尻に降ってきた。

「ん゛んんうぅうっ! あっ、あ、あ、あ、あっ! あぁあ゛あぁあ゛ああっ!」

 さっき自分で探り当てたよりももっと深く感じるところを、吉峰さんの硬いちんぽがぐりぐりと圧迫してくる。苦しさと快感で涙が頬を伝う。皮膚の下がどんどん熱くなっていくのを感じる。それと比例するように、吉峰さんの腰の動きが、どんどんいやらしく、艶かしくなっているような気がした。

「ああっ、あ、あ、お、おぉおおっ……。うううっ、あ、あ、あ、あっ! ご主人様っ、ダメ、ですっ、いきそう、ケツマンコ、いっちゃいそうですっ」
「いきなさい」
「あ、あぁああんっ、あ、あ、あ、あ、あ……」

 命令されると、体の芯から気持ちよくなってしまう。自分の体は、もはや吉峰さんのものなんだと実感する。その感覚が心地良かった。

「いく、いく、あ、あ、あ、いきます、いっちゃ、あ、あ゛、あ、あぁああっ……、ん゛ぅうううぅううっうっ! あっ、あぁああ、あぁああっ……」

 頭が真っ白になって、強い快感が押し寄せる。体の力が抜け、へたりとシーツに体を預けると、ゆっくりと尻穴からちんぽが抜かれた。着けていたゴムを捨てると吉峰さんは、俺の耳元に唇を寄せ、可愛かったよ、と囁いた。それだけで俺は、また軽くいってしまったような感じがした。

「次は穂高を可愛がってやる番だな」

 穂高にコンドームを手渡しながら吉峰さんは言った。俺は36歳の平均的な精力を知らないが、吉峰さんはかなり強いほうなんじゃないかと思う。
 穂高は、渡されたコンドームを、少し慌てながら俺と同じように口で装着させた。

「たくさん可愛がってください……」

 驚くほど官能的な声で、恍惚とした表情で、穂高はそう呟いた。頬はいっそう紅潮し、眦まで赤く染まっていた。それは紛れもなく、ご主人様に隷属する奴隷の顔だった。

「上に乗りなさい」
「はい、ご主人さま……」

 穂高はすぐさま、ベッドに座る吉峰さんの上に向かい合うような形で乗った。きっと穂高は、対面座位が好きなんだろうと思った。

「自分で入れて、好きなように腰を振りなさい」
「はいっ、……あっ、あうぅううっ」

 吉峰さんの勃起したちんぽを握り、アナルにあてがうと、穂高はゆっくりと腰をおろしていった。モザイクのない接合部は、目を逸らしたくなるほどに、グロテスクでいやらしかった。それでも俺は、目を逸らすことができなかった。

「今、何がどうなってるのか言ってみろ」
「は、はい、あ、あう、ううう」

 穂高が恥ずかしそうに唇を噛む。

「早く」
「ひ、ん、ん、……ま、まんこ、まんこに、おちんちんが、入ってます、すごい、あ、あ、硬いの、あぁ、あぁあ、あぁあああんっ!」

 自分で言った卑猥な言葉に興奮しているのか、穂高の喘ぎ声は大きく、そして甘ったるかった。完全にちんぽが入りきってしまうと、穂高はぶるっ、と体を震わせ、すぐに腰を動かし始めた。単純な挿抜ではなかった。気持ちいいところを探り、なるべく大きな快感を得ようとするような、淫らで激しい動きだった。

「気持ちいいのか」
「らいぃ、ぎもぢいいです……! ご主人さまの、あ、あ、あ、う゛っ、ん、ん゛やぁああぁあっ!」

 吉峰さんが乳首をつまむと、穂高は殆ど絶叫に近い声で鳴いた。吉峰さんの指は、穂高の乳首を容赦なくぎゅっと押し潰していた。だが、穂高の喘ぎは明らかに痛みではなく快感を訴えていた。

「あ、あ、あ、いい、ああぁあぁんっ、ちくび、すごい、すごいっ……! あ、あっ……!」
「お前のはしたない顔を夏目が見てるぞ」
「はうぅうううっ」

 穂高の体がびくびくと跳ねる。まだ絶頂はしていないだろうが、興奮して気持ちよくなっているのは、その様子からよく分かった。
 俺の姿をいやらしい、と穂高は言ったが、俺はその乱れる穂高の姿を見てもなお、穂高のことを、可愛い、と思った。

「あ、あ、あぁあ、あっ、あ、きもぢぃ、きもぢいい……! はぁ、あ、あ、あ、ご主人さまの、おちんちんで、奴隷の、まんこ、いっぱい、感じて、ますっ……。ん゛ぅうぅううっ」

 命令されてもいないのに、穂高は卑猥な言葉を言って興奮しているようだった。吉峰さんが乳首から手を離すと、腰の動きが激しくなる。聞いたことのない、甘ったるい穂高の声が、ホテルの部屋に響いた。

「あぁあっ……、あ、あ、あ、くぅううっ……。ん゛っ、ん、あ、あぁあ……! ごしゅ、ごしゅ、じ、さま……、あっ、あぁんっ!」
「いきたいか」
「い、いきたい、れすぅ……。はふ、う゛んん、んあぁん゛っ! あ、あ、あぁっ……!」

 吉峰さんが腰を突き上げると、穂高の喘ぎ声はよりいっそう甘くなった。

「はぁあぁんっ! あっ、あ、あ、ん゛、ん゛、いく、いく、そんな、されたら、いっちゃいますっ……」
「いってもいいぞ」
「はう、ん゛、いく、いくっ……! ご主人さま、の、おちんちんで、いくの、見てて下さいっ……、あ、あ、あぁあぁっ、いくっ、あ、あ、いっちゃ、う、あ、あ、あ、ん゛ぁああぁああぁあぁっ!あ! あ! あぁっ!」

 驚くほど背中を逸らせながら、穂高は恍惚とした表情を浮かべた。吉峰さんは、そんな穂高の髪を撫ぜ、耳元で、可愛いよ、と囁くと、ゆっくりと押し倒し、腰を引いた。

「穂高、夏目、こっちへ来なさい」

 言いながら、吉峰さんは立ち上がり、ちんぽを扱き始めた。俺も、まだ肩で息をしている穂高も、それだけですぐに吉峰さんの前に座る。穂高は、何をされるか分かりきっているという顔で丁寧に眼鏡を外し、近くのテーブルに置いた。

「いくぞ」
「はい、……ひゃんっ」
「あぁん……」

 大量のザーメンが、俺と穂高の顔にぶちまけられる。それだけでも気持ちよくて、体が溶けてしまいそうだった。
 穂高は、少し逡巡するようなそぶりを見せて、それから、ザーメンがかかった俺の頬を舐めた。くすぐったくて、でも不思議と心地良かった。俺も、穂高の顎についたザーメンを舌先で舐め取る。口の中に広がる吉峰さんの味に、体の芯が熱くなるのを感じた。

「ご主人様、ザーメン、いっぱいかけてくださって、ありがとうございます」
「ご主人さまのザーメン、すごくおいしいれす……、くふぅ」

 互いの顔を舐め合いながらそう言う俺と穂高を見て、吉峰さんは微笑ましげな顔を浮かべた。
 しばらくすると、吉峰さんは顔じゅうをよだれまみれにした俺と穂高を浴室へと連れて行き、体を洗ってくれた。そのあとは、ふたりで吉峰さんの体を、とびきりいやらしいやり方で洗った。吉峰さんの体に泡を擦り付けながら無邪気に笑う穂高は、やっぱり可愛かった。

「このまま帰るか、泊まっていくか、どうする」

 ベッドに戻ると、服を着直しながら吉峰さんはそう尋ねた。

「宿泊でとってるから、どっちでも構わないよ。泊まるなら、飯は好きに頼んでいい。俺は寝る」

 俺と穂高は顔を見合わせた。
 穂高がどうしたいのか、それだけで分かった。

「泊まります」
「分かった。明日、起きたらフロントに電話して、好きに出なさい」
「はい」

 吉峰さんはベッドに寝転がると、本当にすぐに寝てしまった。
 フロントに、俺はハンバーグカレー、穂高はナポリタンとアイスを注文して、バスローブを着て料理が来るのを待った。なんだかお泊まり会のようでドキドキした。

「あのさ」

 冷蔵庫から取り出したコーラを飲みながら、恥ずかしそうに穂高が口を開いた。

「オレのこと、嫌いになってない?」

 全くそんなことは思っていなかったから、俺は少し驚いた。

「嫌いになんかなってないよ」
「ほんとう? オレ、あの、……エッチ、のとき、すごい、変態なこと、してた」

 何を指しているのか分からなかった。それくらい、吉峰さんとは『変態なこと』をしている。

「俺もじゃん」

 俺が言うと、穂高は恥ずかしそうに目を伏せた。さっきの行為を思い出しているのかも知れない。だが、その中にも安堵の感情があるようで、俺は嬉しかった。
 そんなことを話している間に、料理が届けられた。
 俺と穂高は、食事をしながら、色々なことを話した。それは吉峰さんとのプレイの話であったり、全く関係のない、大学での話だったりした。

「なんか、修学旅行みたいなかんじ」

 少し照れ臭そうに穂高は言った。確かに穂高と泊まるのは、高校の修学旅行以来だった。

「トランプとかやったねー」
「やったね。夏目、ババ抜きめっちゃ弱かった」
「なんでそんなこと覚えてんの」
「だって面白かったんだもん。夏目、すぐ顔に出るからさ、笑い堪えんの必死だった」

 そう言うと、穂高は眼鏡のブリッジを抑えて笑った。口から溢れる八重歯が可愛かった。だが、穂高はひとしきり笑うと、ふと、真顔になった。

「これからも、いつもみたいに遊んでくれる?」

 心配性の穂高らしいな、と俺は思った。そういう穂高の不安は、なるべく消してあげたい。

「勿論。でも、これからはナイショの話もするけど」
「それってエッチなやつ?」
「すごいエッチなやつ」

 俺と穂高は、顔を見合わせて笑った。
 その日は、たくさん話し込んで、深夜にようやく眠った。




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