オレのアントワネット・2





「読んだよーだ」
「分かったか?」
「分かったって言うかさ?」
「何だし」
「サニーが待ってるって書いたのがいけないんじゃん」
「どの口が言う?」
「『今日は帰る』って言えば良かったじゃん、って言ってるの!」

ナマエの言う事は確かにもっともな意見だ。ナマエの母親は今日は戻って来れないと断ったのだ。なのにサニーからの返事は『家で待ってる』。流石の彼女もうろたえたに違いない。

「言えると思うのか」
「何で?!いつもだったら帰ってるよね?!」
「・・・今日はいつもと違うだろ」
「何が??」
「何って」

一瞬の、沈黙。
サニーは壁の方に視線を逸らし、舌打ちをした。

「子供一人で留守番させる訳にはいかねーだろ」
「子供って・・・」
「・・・」
「アタシ?!」
「他に誰がいるんだし!!」

名指しで『お前だ』と言われたナマエは頬をこれでもかと膨らませた。

「子供じゃない!」
「どの口がほざいてんだ」
「ホントだもん。レディだもん」
「とても真実とは思えんけどな!」
「ママがいなくたって平気だって」
「違うだろ」
「え?」
「今日は父親もいないんだろ」
「そうだけど」
「・・・んだその顔は」
「・・・何で知ってるの?!」
「何で、って」

再び、沈黙。
ナマエは訝しげに目を細めた。

「・・・ストーカー?」
「!!」
「ママに・・・!?」
「一辺死ね!」
「きゃーーーーーー!!」

ナマエを再びぐるぐる巻きにし、サニーは続けた。

「誰がストーカーだ!するか!されるのはしょっちゅうだけどな!」
「そ、そうなんだ?!」
「ボスが言ってたんだ!『打合せの後、三人で食事でもどうですか?』ってよ」
「そ、そうなの?」
「三人っつったら、ボスと、オレと、おましかいねーだろ?」
「そ、そうかな?」
「そしたらおま、あれ?父親は?夕飯いらないのか?あぁ今日は不在ね・・・と思うだろ!?」
「そ、そう言う事?」
「そだし!大体オレがクリクリをストーキングとかマジ有り得n・・・」
「ん?」
「・・・・・・」
「何?聞こえなかった」
「・・・んでもねーし」
「気になるじゃん」
「・・・・・・」
「ねーってば」

ばつが悪そうな面持ちのまま、サニーはゆっくりとナマエをソファに降ろした。ギシ、とソファーが軋んだ。
そしてまた、暫しの沈黙。
だが静かな空間はそう続かなかった。点けたままのテレビからどっと笑い声が溢れる。何が可笑しかったのか肝心な部分を聞き逃したナマエは、話の続きから汲み取ろうとソファーから身を乗り出した。
サニーの隣で、サニーに目もくれずにテレビに夢中になっているナマエ。テレビの音声に相槌を打ち、同時に笑う。彼女が笑うたびにクッションがぎゅうと抱き締められる。
サニーはその様子を少しの間じっと眺めていた。そして、意を決したように切り出した。

「おいクリクリ」
「なーに」
「おま・・・さっき、子供じゃないって言ったよな?」
「言ったよ?」
「じゃあ・・・オレが言いたい事は分かるよな?」
「んー?」
「今、この家には、おまと、オレしかいない」
「うん」
「分かってんのか?二人しかいないって言ってんだし」
「うん」
「だから、」

サニーはナマエをじっと見ていた。その気配に気が付いたナマエは、振り向きざまに視界に入ったサニーの顔に驚いて肩を引いた。近い。今までに無いくらいに。
そんなナマエの行動に敢えて無言のまま、サニーは更に距離を詰め、ナマエの目を覗き込んでニヤリ。口角を上げる。

「え?」
「・・・分からんか?」
「えええ?」

低く落ち着いた声と、微かに軋むソファー。
サニーの指が、ナマエの頬に触れる。
右の頬に。それから、左にも。

そして、



「いたたた!」
「・・・メシくらい作れって言ってんだ!!」

サニーの指は、ナマエの頬をむにぃ、とつまんだ。

「痛い痛い!いたいってば!」
「何が痛いだ!クタクタになって戻って来るボスに向かって『おなか減った』ってか?『飯作れ』って言うつもりか?どんな追い打ちだ!さっきメール見たよな?遊んで帰って来んのと違うだろーが!おま、マジで何様だ?あぁオコチャマだったな!いや『レディだもん☆』とかほざいてたよな?!つーかそんなの今はどうでも良!曲がりなりにもボスの子供だろ?腐っても鯛・・・じゃなくてオンナだろ?だったらここは『おなか減ってる?』って聞くのが常識だろ?レがいるからとか関係無!それが普通!『ご飯できてるよ』って出してやるのが家族だっつーの!分かったか?分かんねーんだったらもう一回言うぞ?!お前マジ何様d」
「分かった!わかったよ!」


ナマエの頬をこれでもかとつまみあげ、一気に捲し立てたサニー。そのキレっぷりに半泣きになり、素直に返事せざるを得なかったナマエ。二人の心情に共感してか否か。テレビからは笑い声が零れた。


「何が分かったんだか言ってみろ。」
「ご飯を用意して待つって事」
「よし」
「簡単でも良いかな」
「ん」

ナマエは頬をさすりながら立ち上がった。

「えーっと確かチラシが・・・」
「チラシ?・・・寿司か?」
「ううん。宅配の」
「あぁ・・・・・・ピザか」
「そう!何で分かったの?凄いねサニ、」
「・・・」
「サニー?」
「・・・・・・」
「作る!作ります!!」



◇◇◇◇◇

※後日、ココ宅にて


「・・・ったく!思い出しても腹が立つし!」
「・・・・・・」
「・・・んだよこの毒」
「いや・・・ボクが言うのもアレだけど、何か違ってないか」
「何が?」
「何がって・・・言わせるの?」
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・」



◇◇◇◇◇





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