「読んだよーだ」 「分かったか?」 「分かったって言うかさ?」 「何だし」 「サニーが待ってるって書いたのがいけないんじゃん」 「どの口が言う?」 「『今日は帰る』って言えば良かったじゃん、って言ってるの!」 ナマエの言う事は確かにもっともな意見だ。ナマエの母親は今日は戻って来れないと断ったのだ。なのにサニーからの返事は『家で待ってる』。流石の彼女もうろたえたに違いない。 「言えると思うのか」 「何で?!いつもだったら帰ってるよね?!」 「・・・今日はいつもと違うだろ」 「何が??」 「何って」 一瞬の、沈黙。 サニーは壁の方に視線を逸らし、舌打ちをした。 「子供一人で留守番させる訳にはいかねーだろ」 「子供って・・・」 「・・・」 「アタシ?!」 「他に誰がいるんだし!!」 名指しで『お前だ』と言われたナマエは頬をこれでもかと膨らませた。 「子供じゃない!」 「どの口がほざいてんだ」 「ホントだもん。レディだもん」 「とても真実とは思えんけどな!」 「ママがいなくたって平気だって」 「違うだろ」 「え?」 「今日は父親もいないんだろ」 「そうだけど」 「・・・んだその顔は」 「・・・何で知ってるの?!」 「何で、って」 再び、沈黙。 ナマエは訝しげに目を細めた。 「・・・ストーカー?」 「!!」 「ママに・・・!?」 「一辺死ね!」 「きゃーーーーーー!!」 ナマエを再びぐるぐる巻きにし、サニーは続けた。 「誰がストーカーだ!するか!されるのはしょっちゅうだけどな!」 「そ、そうなんだ?!」 「ボスが言ってたんだ!『打合せの後、三人で食事でもどうですか?』ってよ」 「そ、そうなの?」 「三人っつったら、ボスと、オレと、おましかいねーだろ?」 「そ、そうかな?」 「そしたらおま、あれ?父親は?夕飯いらないのか?あぁ今日は不在ね・・・と思うだろ!?」 「そ、そう言う事?」 「そだし!大体オレがクリクリをストーキングとかマジ有り得n・・・」 「ん?」 「・・・・・・」 「何?聞こえなかった」 「・・・んでもねーし」 「気になるじゃん」 「・・・・・・」 「ねーってば」 ばつが悪そうな面持ちのまま、サニーはゆっくりとナマエをソファに降ろした。ギシ、とソファーが軋んだ。 そしてまた、暫しの沈黙。 だが静かな空間はそう続かなかった。点けたままのテレビからどっと笑い声が溢れる。何が可笑しかったのか肝心な部分を聞き逃したナマエは、話の続きから汲み取ろうとソファーから身を乗り出した。 サニーの隣で、サニーに目もくれずにテレビに夢中になっているナマエ。テレビの音声に相槌を打ち、同時に笑う。彼女が笑うたびにクッションがぎゅうと抱き締められる。 サニーはその様子を少しの間じっと眺めていた。そして、意を決したように切り出した。 「おいクリクリ」 「なーに」 「おま・・・さっき、子供じゃないって言ったよな?」 「言ったよ?」 「じゃあ・・・オレが言いたい事は分かるよな?」 「んー?」 「今、この家には、おまと、オレしかいない」 「うん」 「分かってんのか?二人しかいないって言ってんだし」 「うん」 「だから、」 サニーはナマエをじっと見ていた。その気配に気が付いたナマエは、振り向きざまに視界に入ったサニーの顔に驚いて肩を引いた。近い。今までに無いくらいに。 そんなナマエの行動に敢えて無言のまま、サニーは更に距離を詰め、ナマエの目を覗き込んでニヤリ。口角を上げる。 「え?」 「・・・分からんか?」 「えええ?」 低く落ち着いた声と、微かに軋むソファー。 サニーの指が、ナマエの頬に触れる。 右の頬に。それから、左にも。 そして、 「いたたた!」 「・・・メシくらい作れって言ってんだ!!」 サニーの指は、ナマエの頬をむにぃ、とつまんだ。 「痛い痛い!いたいってば!」 「何が痛いだ!クタクタになって戻って来るボスに向かって『おなか減った』ってか?『飯作れ』って言うつもりか?どんな追い打ちだ!さっきメール見たよな?遊んで帰って来んのと違うだろーが!おま、マジで何様だ?あぁオコチャマだったな!いや『レディだもん☆』とかほざいてたよな?!つーかそんなの今はどうでも良!曲がりなりにもボスの子供だろ?腐っても鯛・・・じゃなくてオンナだろ?だったらここは『おなか減ってる?』って聞くのが常識だろ?レがいるからとか関係無!それが普通!『ご飯できてるよ』って出してやるのが家族だっつーの!分かったか?分かんねーんだったらもう一回言うぞ?!お前マジ何様d」 「分かった!わかったよ!」 ナマエの頬をこれでもかとつまみあげ、一気に捲し立てたサニー。そのキレっぷりに半泣きになり、素直に返事せざるを得なかったナマエ。二人の心情に共感してか否か。テレビからは笑い声が零れた。 「何が分かったんだか言ってみろ。」 「ご飯を用意して待つって事」 「よし」 「簡単でも良いかな」 「ん」 ナマエは頬をさすりながら立ち上がった。 「えーっと確かチラシが・・・」 「チラシ?・・・寿司か?」 「ううん。宅配の」 「あぁ・・・・・・ピザか」 「そう!何で分かったの?凄いねサニ、」 「・・・」 「サニー?」 「・・・・・・」 「作る!作ります!!」 ◇◇◇◇◇ ※後日、ココ宅にて 「・・・ったく!思い出しても腹が立つし!」 「・・・・・・」 「・・・んだよこの毒」 「いや・・・ボクが言うのもアレだけど、何か違ってないか」 「何が?」 「何がって・・・言わせるの?」 「・・・」 「・・・」 「・・・・・・」 ◇◇◇◇◇ ← → |