「キミは星の作り方を知っているかい?」
星を作ることはそう容易いものではない。
貴重な材料をかき集めて、何十時間と煮込みあげ、棘がなくなるまで磨き上げて、最後に捧げ物をしなければならない。
なにを言っているのかわからない?
そうだね、それぐらい難しいんだよ。
『星が欲しい』
翠がそう言った。
「ッ…!!」
ドロっと口の中から血が溢れる。痛い、痛かった、何時間もかかった。
でも上手く抜けた。奥歯の白い歯が手に入った。
翠のことは昔から知っていた。
高校1年の時に、中庭の花壇の草むしりをしていたのを見たからだ。
クラスメイトは何をバカなこと言っているのか、上手く馴染めず、いつも誰も気に留めない廊下で窓から外を眺めていた。
眺めていた、眺めていただけだ。
でもそこから見えたのだ。
翠が草むしりしている様子が。
ただの暇つぶしから自然と彼に興味がむいた。
丁寧に草をとって、土を交換し、水を与え、花に何やら話しかけている。人間にするように花に話しかけていた。かと思えば、たまに歌声が聴こえてくる。きらきら星だ。なぜそのチョイスなのか。何度も彼が歌うのでその度に口元を手で隠して1人で笑っていた。でもなんだか好きだった。歌声も好きだった。
それから、2年になっても彼は草むしりを担当していた。
きらきら星の歌は日を増すにつれ、大きな歌声になっていく。
なんだか、少し不安になってきた。
彼が周りに気づかれて恥ずかしがるのではないか、ということよりも、周りに彼のきらきら星を聞かれてしまうこと、が不安になっていた。
だから話しかけた。
彼の声が大きく聞こえてくるにつれて、応じたくなった。知りたくなった。話しかけて良いのか、と。仲良くなっていいのか、と。
翠は、星が欲しいと言った。
自分の抜いた奥歯を具材の中に垂らしこみ、ゆっくりと加熱して溶かしていく。
魔法みたいなものだ。いや、錬金術かもしれない。もしかしたら黒魔術かも。
星を作っているのだ。仕方ないだろう。
星を作るには様々な工程や材料があるが、最も大切なのは、「代償物」の価値だ。
代償物の価値が大きければ大きいほど、綺麗な星が作れる。大切なものを捧げれば捧げるほど星を綺麗に瞬くのだ。
歯を代償物にした星は、少し歪な形をしていた。
俺は様々な工夫を凝らし、彼の熱に反応するとそれを吸収して星が光を発するようにした。少し、足の小指の感覚がしなくなった。それも仕方ないだろう。
それでも初めて作った星は、岩のように歪だった。