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代償物を変えてみることにした。
翠が俺の髪を綺麗と褒めてくれた。
彼が欲しいものをあげたい。彼が美しいと思ってくれたものをあげたい。
髪まるごとは流石に無理だが、翠が気に入ってくれた髪の色を抜くことにした。
それは、どんな魔法でも厭わなかった。
「ッァ、は、はぁ、グゥ…ッ!!!」
奥歯を抜いた時のように自力ではうまくいかない。
「っぁ、アア、が、あああ!!」
全身に棘が刺さったような傷みや苦しみ、脳髄が溶けていく感覚がする。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
体が死んでいくようだ。
それでも、星をあげたかった。翠に。
次の日目覚めれば、綺麗な金色の石と共に、俺の髪色はすっかり抜け落ちて真っ白になっていた。
前よりも、ずっと成功した。
翠と草むしりをした。
翠はああ見えて丁寧に選んで抜いている。丁寧に優しく雑草を抜いていくのだ。
なんだかそれが綺麗だと思った。
「この前の星、とっても綺麗だった。俺あれから寝る前にあの星を枕元に置くんだけど、金色の星も暗闇で少し光るんだな。なんだか心地よくて、最近真っ暗でも星があることで寝れるようになった。すげー不思議だけど」
翠の声がする。
翠の声は心地よい。
翠はいいな。綺麗で。真っ直ぐ人を見つめることができて。俺にはできない。俺のこの汚らしいおぞましい感情では、翠を見ることなんて。
「俺さー、あの星、聖坡に見えてくるんだよ。特に金色の星。聖坡の昔の髪色みたいですげー綺麗。もらったもので一番の宝物」
ゾッとした。
翠は気づいたんだろうか。
宇宙や地球に存在する星ではなく、俺が作った星、だと。
俺がキミに抱く、感情や執念、おぞましさを。
それでも、俺はキミに星をあげたい。あげたいんだ。どんなに辛くたっていい。俺に何も無くなったっていい。キミが俺のこと見てくれなくたって。
だっておれ、翠のこと、
「好き」
翠の驚いた顔が見えた。
唇が震えていて、俺は息を吐いたことに気づいた。
言ってしまった。
翠に気持ちを。止まらなかった。感情が。
翠の呼び止める声は聞こえていたけど、止まれなかった。
どんどん翠が欲しいと思う。暗い沼に嵌まり込んでいくようだった。