the 優
○○○○○

どろどろと身体が解けて、しなだれそうになる。
それを鳴々樹は腰を捕まえて、抱き上げ、キスしていた口を離して、下唇だけもう一度舐め上げた。

「椎乃、服脱げ」
「……っ」

ぼんやりとしていた頭に、ピシャリと冷たい嫌な予感が走る。
鳴々樹はキスですっかりその気になってしまった。

このまま、性行為に突入するのかと思うと、身体が強張って固まってしまう。
どうしようか、と思案するが、短気である鳴々樹が先に手を出してきて、学校指定のシャツを脱がしにかかってきた。

「ちょ、まっ、鳴々樹っ…!」
「椎乃、鳴なに今更恥ずかしがってんだよ。今もすげーえろいキスしてただろ。……それとも俺を拒否する気か?」

ギロリ、と睨まれる。
何よりもその瞳の奥が一番怖いことを本能的に知っている俺は、固まっていた体を奮い立たせて無理矢理にでも服を脱ぐ選択肢しかない。
少し、手が震えてしまって、スラックスを脱ぐだけなのにもたついてしまう。しかも、なぜか鳴々樹の腹の上であるため、大変脱ぎにくく、足を躊躇いがちに開きながら、ズボンの裾を引っ張るのだ。
そうやって、もたもたと着替えていると、鳴々樹が上半身に手を伸ばしてくる。

「椎乃、遅え。さっさとしろよ」

ズボンを脱いでシャツと下着を着用しているだけのほぼ素っ裸状態の俺に容赦なく触ってくる。シャツの隙間から手を差し込まれ、ぐに、と乳首を簡単に捻られた。

「っひぃ…!」
「早くしろ。」

上に跨らせたまま、差し込まれた鳴々樹の手が肌を滑り、あちこちに触れられていく。
「待って…」と慌てて止めようにも、「脱げよ」と鋭い目で睨まれてしまえば、もうそれまでで。そのまま着ていたシャツを無理矢理上にかきあげて脱がせられてしまった。

下着…パンツ一枚の格好で鳴々樹の腹の上に乗っている俺。
見下ろすように恐る恐る鳴々樹の顔を見れば、特に感情は表れていないが、鳴々樹の口角がひっそりとあがった。

「良い眺めじゃん」

そう言った鳴々樹はすぐに下着の上から性器を鷲掴んでくる。

「んッ……」
「椎乃こっち」

「んっ、ぁっ、んむぅ」
下着を片手で揉まれつつ、首を引っ掛けられる形で胸元からペタリと鳴々樹に倒れ込み、呼吸を食べるようにキスされる。
舌が口内に入ってきてはドロドロに絡められ、そうすると俺の気持ちとは反対に揉まれた性器は反応し、唾液はじゅるじゅると溢れ出してしまう。

「んぅ、ぁ、んぁ、ッ」

鳴々樹は俺が鳴くと機嫌良く喉を鳴らして、揉んでいた手を尻に回してはまた揉みしだき出した。

(この、くそ、変態っ…!)

好き勝手に体を触られ、尻の割れ目をなぞるように人差し指をずらしながら、残りの指でふんだんに揉みしだく。その感覚は気持ちいいものではなかったが、たまに刺激の弱い部分に指があたって身体がビクついてしまい、恥ずかしさと悔しさで泣き出しそうだった。

「っ、く、」
「椎乃、可愛い、こっち見て。顔見たい」

抑揚は人一倍はっきりとしないが、いつもよりも上機嫌な声を出す鳴々樹の顔をそろそろと見る。
顔は熱くて、クラクラとしてくる。
鳴々樹の顔を見れば、相変わらず何も感情を感じられない無表情をしているだけだったが、それでも醸し出す雰囲気は怖いものではない。もしこれで機嫌が悪ければ理不尽なプレイに突入される。その様子は見られなかったため、椎乃はホッと少し気が緩んだ。

「椎乃、ほら、キスして」

鳴々樹は本当に上機嫌なようだ。
勝手にさっきまで散々キスしてたくせに、俺からしろとねだってくる。

どうしてそんなに機嫌がいいのか。自分からキスすると、俺からキスするの、何か変わることはあるのか。そして、そもそもいつまで尻を揉みしだくのか。

いろいろと思うことはあったが、俺は結局鳴々樹の言うことを素直に聞くことにし、自分の唇をゆっくりと押し付けた。

「ん、ちはゅ、ちゅ、ちゅ……んむッ、ッ!?」
鳴々樹が満足するまで、唇を何度も重ねているといきなり鳴々樹が履いているボクサーの隙間から指を突っ込む。それから、先ほどよりも直かつ大胆に尻を揉み始めてき、俺の弱いところを揉みしだいてきた。

「ッ、あっ、ちょ、ッ、や、やだ…ッ」
「椎乃、キスやめるな」
「は、ッ、ん、んんっ!」

鳴々樹はもう一度「キスは?」と囁き、俺の唇をベロリと舐めあげ急かしてくる。
その間にも尻を揉みしだかれ感触が気持ちが悪いが、鳴々樹の機嫌を損ねないことが一番重要であるため、目をぎゅっと瞑っては再度鳴々樹の口に自分のを押し付ける。

鳴々樹と無謀にもキスを重ね続けながら、下着の隙間から滑り込んできた指が尻縁に触れて、指の腹をグッと押し込んでくる。

(くそ、ッ……!)

吐き出したくなる暴言をキスで封じ込めながら、これからくる感覚に覚悟を決めた。


「っ、クッ!」

鳴々樹の骨張った指が問答無用で中に押し入る。その感覚に思わず身体が仰け反ってしまう。

「っは、ぁ、ァッ…!」

体を丸め込んで鳴々樹へキスする余裕などない。
指は俺のことなんかを無視して勝手に奥へ奥へと進めてくる。ぐいーっとある一点に奥まで押し進めた後に、再度ずりっと引き抜き、指の本数を増やして再度指を奥まで突っ込んでくる。

「っあ、あ、ぁ…!や、ぁっ、!」
「………」

鳴々樹は途中から無言ではあったが、俺の中で指を縦横無尽に動かし、たまにシコリの部分を掠めてはそこをぐいぐいと刺激してくる。その刺激が目をチカチカとさせ、快楽を倍増させる。

「っぁ、ん…ッ、く、ふッ」

声が洩れるのが抑えられない。
身体中の熱が下腹部に集中し、触られていないのに性器は半勃ちになっている。気持ち良すぎて頭はドロドロと溶け出し、身体は気持ちいい体勢を取ろうと勝手に動き出す。この快感が鳴々樹によって与えられ、鳴々樹によって身体に染み付いていくことに、俺は屈辱と恐怖を感じていた。

それから、鳴々樹はぐちゅぐちゅと中をかき混ぜながら、嬉しそうに熱くため息を洩らした。

「椎乃…なか、締め付けてくるぞ」
「…ッ!」

目の前が真っ赤になるほど、恥ずかしさと怒りが湧き上がった。こうやって自分のことを自覚されると、死にたくなる。

しかし、鳴々樹は俺の心中なんか知らず、俺の汗ばんだ首筋にキスを落としながら、後穴を弄り、もう片方の手で勃ち上がっている性器を掴んでは上下に擦り始める。
同時に犯される感覚に身体がびくりと跳ね上がった。俺が知っている、嫌な、快感が頭を駆け巡ってきたのだ。

「ッあ、や、やぁ、やめ、やめて…ッ!ああっ!!」
「なに嫌がってんだ。いつも椎乃が好きなやつだろ?……中にいれるぞ」
「やぁ…!待って…ッ!!」
「ッハ、お前好きなくせに」

そう言って、無表情の顔を今日初めて崩した鳴々樹はそのまま指で広げた中へ大きな自身を挿入した。
ドッとした重圧が身体の中に侵入し耐えきれない圧迫感と、濡れた中は鳴々樹の性器が入ってくることを拒まなかった。

「、〜〜〜〜ッく、ぅっ…!!」
「ッ……、キツッ…さっき感じすぎて締まってんのか、ッ?」

珍しく上擦った声を上げた鳴々樹は、そのまま正常位で腰を打ちつけてくる。鳴々樹も感じてるのか、獣のように浅い、苦しむような、息遣いが一瞬で俺たちを包み込む。

「っ、ぅ、ん、ん、っ、んぅっ…」

腹の奥がキュンキュンとして声が変に洩れる。久々の普通のセックスに身体がゾワゾワと痺れ始めていた。後ろが鳴々樹の性器の形をしっかり感じとっている。
最近では散々乱暴に突っ込まれたり、殴られてからの挿入だったため、脳がぶっ飛んだ状態でのセックスばかりだった。これはこれで疲労感や疲弊感にウンザリとさせられるが、今日みたいな身体を労られたセックスは頭が妙にしっかり冴えていて、もっと嫌いだった。


「…椎乃、また別のこと考えてんの?」

意識が飛んでいたことがわかったのか、鳴々樹が首元を浅く噛んで、喉仏を親指で押さえる。

やばい、また、鳴々樹がキレる。

「ちが、っン!いつもより、優しい…から、ッ」

喉仏を抑える指に息が詰まるような感覚を覚えながら、急いで、そう言葉を発する。
短気な鳴々樹のご機嫌取りをセックス中まですることが本当に嫌で仕方ない。

鳴々樹は言葉が足りてないないのか、まだ眉を顰めて聞いてくる。

「優しいから、なんだ?」
「ッ…、か、感じやすくて…変……」
「へえ、椎乃は優しい方が好きなのか」

優しい方が好き…嫌な質問ではあるが、それは当たり前だろう。誰だって、痛いのより、怖いのより、優しい方が好きだ。こんな男とのセックスでも。

鳴々樹は喉仏から手を引くと、そのまま俺の空いていた手に自分の手を絡めた。
指と指の間に自身の指を滑り込ませて、いわゆる『恋人繋ぎ』だ。

その行動にギョッとしていると、鳴々樹はそのままさらに腰を深く繋げてくる。


「じゃあ、たっぷり甘やかさねえとな」
「えっ……」

鳴々樹は腰を優しくではあるが深くねじ込み、腸内をトントン、とノックするように動かし始めた。腰はちょっと浮き、そのせいで鳴々樹と繋がったところが目にも入ってくる。ぬらぬらと濡れた性器が自分の中を入っては出ていく光景に、頭がガンガンとする。
一方で、繋がった手は熱くなり、いつもシーツを掴んで快楽を逃していた指は鳴々気の手に縋るしかなく、激しくはないが腰からくるふわふわとした快楽は身体中を支配していってしまった。


「ん、っ、あ、あっ、あっ、あん、っ」
「椎乃、声可愛い…いつもそう鳴けよ」
「う、ぅっ…」

息を吐く度に腰が辺り、気持ちよさで全身が麻痺していく。
声が明らかに高く甘くなっていたけど、声を抑えようにも手も取られ、枕に縋り付くこともできない。
その自分の声とじわじわと侵食する快楽が、まるで女になって性器で突かれることを喜べと洗脳してきているようだ。鳴々樹の下で甘く鳴くことが良いのだ、そう肯定しろと言っているように。



「ッ、イキそう…」

しばらくすると、鳴々樹の腰のスライングがより奥深くになる。
性器を内壁に擦り付けるように、鳴々樹は腰を低くし、打ちつけを早めて行った。いつもよりも射精感覚が短い。

(あ、まって、中……)

そうぼんやり思った時にはもう遅く。
鳴々樹の精液が勢いよく腸内に放出された。

「ぅ、ッ……」

ヒタヒタと当たる熱液と、ググッと中に押し入ってくる性器に思わず、身体がビクビクと震えた。イッているのかすらわからない。


鳴々樹がゆっくりと性器を引き抜くと、身体全身をしばらく震わしていた俺のことを見下ろしていた。


「……優しいのは好きか?」



大事に丁寧に抱かれたのに、俺は嬉しいという感情はなぜか浮かばなかった。



6/10
prev / novel top / next
clap! bkm


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -