the 怯
○○○○○○○○

次の日。

そろりそろりと教室にはいる。
いつもの習慣で、扉の外から教室の中を見ては、自分の席に不良たちが群がってないか確認して、教室へと入る。

物音を立てず。気配も隠して。

不良たちの関心を買わないよう、なるべく静かに自分の席へ移動した。


席についてしばらくするとHRが始まり、不良たちが騒ぐ教室の中1人縮こまって机の模様を眺める。周りに干渉せず、ただ気配を薄くして、存在感を消すのだ。


カツン。
誰かが飲み終えた空き缶が頭角に当たった。きっと投げたのは、近くで騒いでいた不良達だろう。
それでも、俺は何も言い返せず、小さく縮こまって下を俯いていた。



毎日こうやって、俺は同級生や不良たちに怯えながら一日を過ごしていた。

不運で県1に不良が多い底辺高校へ入学してしまい、どういうわけか、鳴々樹や羽島に気に入られてしまって、この最悪な学生生活だ。
単純に学校へ通っているだけだったら、不良達のたまにパシリにされていただけだったかもしれない。しかし、鳴々樹に目をつけられてしまったことが最悪な日々の始まりだった。

番長にもなるかもしれないという男に気に入られている…というのは、様々な反感を買うことに繋がる。
一概に全員が鳴々樹を敵視しているわけではないが、こんなパッとしない人間が気に入られてるのが気に食わないという理由で、鳴々樹信仰派にリンチにされたこともある。もちろん、鳴々樹のことを嫌う不良達に囲まれて輪姦まがいもあった。


不良に対抗できる力もない俺は、なるべく不良たちを敵に回さないやり方でしか生きていけない。

だから、どんなに理不尽な扱いを受けようとも、空気のように無視をされても、じっと耐え抜くのが一番良い方法だったのだ。



椅子に座ってずっと俯いて縮こまっていると、ふと影が落ちた。


「なぁ」

声をかけられた。
恐る恐る顔をあげる。

髪の毛を茶色に染めて、ウェーブになった髪を下ろしている男が目に入った。


あ、この人は……。

「鳴々樹さんが呼んでる」
「あ、はい…」


派手な見た目をしている割に一言だけそうぶすっと呟かれる。あまり関わったことはないが、ピアスやら髪色が派手で少し浮いた見た目とそれに負けない端正な顔つきでなんとなく記憶に残っていた。
この人は同じクラスで鳴々樹の下についてる不良の1人だ。うちのクラスには鳴々樹の命令で俺を監視したり保護…する人間が何人かいる。そのうちの1人の人間だったはずだ。

「HRは出ずにすぐに部屋に来い、だそうだ」

部屋…。恐らく、鳴々樹がいつも使っている空き教室の部屋だろう。

鳴々樹が呼んでる。すぐに行かねば。
そう思って教室の外へ行こうと立ち上がった時、急に腕を掴まれた。
突然のことにびっくりして、茶髪の派手髪の男の顔を凝視してしまう。


「勝手に行くんじゃねえよ。……俺らが連れて行く」

端正な顔つきをしているからだろうか、少し眉間に寄った顔が物凄く怖い。

「す、すみません…」
「こっちだから」

そう言って一歩前を歩いていく男。
俺はそれに大人しくついていく。
男が前を歩いていくことでクラスメイトのヤンキー等は遠くから見ているだけだ。一応、守ってくれているのだろう。



それから男とは特に一言も話さず、結局連れてこられた場所はいつも鳴々樹が使用している教室だった。

鳴々樹…。
奴のことを思い出すと少し気が落ち込む。

しかし、俺の考えていることなど知りもしない派手髪の彼は、俺に了承を得る間もないでガチャリとすぐにドアを開けた。


「鳴々樹さん、連れてきました」

そう言った彼は、すぐにドアの前から退くと、扉を開けたまま中に入れと俺に目だけで促してくる。

「え…っ、あっ…」

心の準備のない俺は慌てて彼を見上げるも、彼からは無言で見つめ返されるだけで、助けは一切ないようだ。
結局いつもこうだ、鳴々樹の言いなり。

俺は諦めて中に入ることにした。



「鳴々樹…」

バタン。
中に入れば、ドアが閉まってしまった。クラスメイトの彼がさっさとドアを閉じたんだろう、逃げ場をいつの間にか絶たれる。そのご丁寧さに辟易としていると、真正面にあったソファから突然声がしてきた。

「椎乃ー」

無感情に俺の名を呼んだ彼は、ソファの背もたれ部にいきなり片足を乗せると、寝転んだ状態のまま俺の方を見上げてきた。

「鳴々樹…」
「こっち、はやく」

ソファの横から顔を出しながら、俺を急かす。
俺はソファに寝転がった鳴々樹へ恐る恐る近寄った。

「椎乃、ん」
「ん…?……わっ、ちょっと!」

ん、と言った鳴々樹は手をにゅっと出すと俺の腕を掴み、寝転んだまま、俺をソファの方へ引っ張り倒す。
俺は馬乗りする形で、不可抗力にも鳴々樹の腹の上に跨ってしまう。

(最悪…っ)

体勢がまずい。俺が上に乗ってしまっている。
下からじっと見つめてくる鳴々樹に、まだおどおどとして震えそうになる。

しかし、鳴々樹はそんな俺も気にせず、じぃーっと穴が開くんじゃないかというほど見つめては、がっしりと俺の腰を掴んで離さない。

「椎乃」
「は、はい、っ」

鳴々樹の視線がやけに熱くて、真っ直ぐで、変な熱がじわじわと身体中に回り始める。ぐるぐると腹奥が熱くなっていく感覚にドギマギしていると、腕を急に伸ばされ、頬に手を当てられた。もう片方の手で首根っこを掴まれるとそのまま勢いよく引っ張られて、鳴々樹の口に自分の唇が触れてしまう。

くちゅ、と触れ合うと、そのまま顔の角度を変えて何度も唇を重ねられる。
唇を舐められてしまうと、自分の意思では彼から離れたいと思っているのに、身体は勝手に反応して唇を緩めてしまい、そのまま上と下の唇の間から鳴々樹の長い舌が侵入してきた。

「…っ!」

すり、と舌先が擦れて、体が震えた。
ダメだ、これではいつものように流されてしまう。ダメだ、反抗しないと。

しかし、舌は追い出せずに鳴々樹の蛇のような長い舌は俺の舌を捕まえて、弄んでしまう。
追い出そうともがいても、むしろ絡められて、唾液がより混じり、じっとしていても丹念に味わうように舐め尽くされる。

結局、舌と舌の攻防を繰り返した末に、息も絶え絶えになりながら、鳴々樹に負けを認めざるを得なかった。

(気持ち良くなんか、なりたくない…流されたくなんか、ない、のに…)

悔しい、悔しい。
それでも鳴々樹は俺の口内を甘い蜜を舐めるように舐めまわし、俺の思考までも一緒にぐちゃぐちゃに引っ掻き回すのだ。半ばパブロフの犬かのように、身体の力が緩和し、脳みそが蕩けだして、快感の波が身体中をジワジワと侵食していった。


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