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「万智、今日空いてる?そのバイト紹介してやるよ」
「え、行く行く」
「オッケ。私服かスーツ着て、ゲーセン前に集合な」
「りょうかーい」

放課後田島にそう声をかけられた俺は、そのまま彼と別れて家へと向かう。

スーツは家にあっただろうか。なるべく学生には見えない格好のほうがいいとは言っていた。

(おじさんがスーツを着ていたのをあまり見たことない。タンスの奥深くにしまってあるかも、そしたら皺だらけになっているかもしれないな。やっぱり私服にしよう)



繁華街を抜けると次第に人気が薄くなる。

住宅街さえ通り越して、森ほどではないが、木が散乱と生えた山道へ進む。
数分ほどすると高い針葉樹の中にぽつんと小さな一軒家が見えてくる。

これが俺の家だ。

こんな奥迫った場所に地元の人間もやってこない。



俺は鍵を開けて中に入った。
家の中はやはり静かで、おじさんがいつも仕事で乗っているトラックがなかったから当たり前か、なんて思った。

俺は自室に向かい、さっさと制服から着替える。
おじさんは確か今日は帰って来ず、明日の朝に帰ってくると言っていた。彼は運送業の仕事をしていて、長時間家を開けがちなのだ。

(おじさんも給料ほどほどだしなぁ…)

俺にお小遣いをくれるおじさんだが、おじさんは大した給料をしていない。独身と俺で暮らして行くにはそれは質素な生活で、遊ぶ金をそこまではもらっていない。俺がむしろお金を工面してあげたほうがいいかもしれない。

俺はそう思えば、無難にYシャツと黒に近い紺のジーンズへと着替え、そそくさ家から集合場所へ向かった。






「それで、仕事内容はわかった?」
「うん、大方」
「オッケー。ならとりあえず暇そうにしてるねーちゃんに軽く声かけな。いい子が捕まったら俺にすぐ連絡して、上の人呼んで連れて行ってもらうから。あと、相手が嫌がったり警察が来そうな雰囲気がしたらすぐ引き上げる。いいな?」
「大丈夫!」
「よし、じゃあ頑張って!」
「はーい」

俺は田島につけられたクシャクシャのワックスを軽く弄りながら返事した。
とりあえず「女の子」を見つけようと、繁華街の方へ向かう。


田島に空き教室で告げられたのは「風俗の斡旋」のバイトだった。
一眼を憚ったのは、それが犯罪と言われるべき行為でもあるからだろう。
軽くいえばスカウトマンの仕事で、お金に困っていたりバイトをしそうな女の子に声を掛け、キャバ嬢や風俗を勧める。俺らは声をかけて店の前まで誘導するまでが仕事だ。その声掛けが上手くいけば、そのまま1件で手渡し2万もらえる。田島の話によると上手くいけば3時間以内に10万も稼いだ先輩がいるという。とても割の良いバイトだ。

俺はその話に二つ返事で乗った。
女の子に声をかけて、店前まで連れて行けばいいだけの仕事。自分が何か危険な行為を迫られたり、その女の子が店でそのあと働かなくとも、一回体験入店させれば金が来るのだ。そんな美味しい話はない。


俺はフラフラと街の中を歩いていた。

こうやって見ると、1人で立っている女の子はちらほらといる。
とりあえずそれとなく話しかけてみる。

……しかし人生はそんな甘くないもので、話しかけても無視されたり、用事で待っているだけだと断られてしまう。案外簡単にはいかない仕事のようだ。

そうして2時間ぐらい立った時だ。通話音が鳴り出した。田島だ。

「もしもし?」
「あ、万智?捕まった」
「いや、全然何人かに声はかけてみたけど完璧に無視された」
「うわー、万智でも初めはそうか。いきなり実戦はやっぱり無理だよな。俺さっきのゲーセンの前にいるから戻ってこいよ。コツでも教えてやる」
「お、まじか。ありがたい〜。今から向かうわ」

そう通話を切って、田島のいるゲーセン前へと向かう。
何度も通っているこの繁華街で、すぐゲームセンターの前にたどり着いた。


田島がキョロキョロと辺りを見渡しながら立っており、俺が近づけばすぐに気づいた。

「お、お疲れ〜万智。やっぱり厳しそうだったか」
「うん、あんなに話しかけて無視されたの初めて。俺そんなに怪しい?」
「まあ、突然知らないやつに話しかけられたらビビるっしょー」

そう言ってパンパンと背中を強く叩かれる。初めて見た田島の私服は思ったよりヤンキー感があった。
「それで田島は誰か見つけたの?」
「ああ、うん一人は紹介した。ほら、その場で2万ゲット」
「え!」

驚いた。こんなチンピラみたいな格好している田島について行った女子がいるのか。俺だったらついていかないぞ。
そんな失礼なことを思っているのがバレたのか、田島はおちょくったようにこちらをみてくる。

「お前、なんだよその意外!みたいな顔は。これでも一応お前より数ヶ月は先輩なの、俺はー。今日は平日だし、そろそろ店も混み始めるからバイト終了するぞ」
「ええー…俺1円ももらってないんだけど」
「そんなのザラにあるって。でも次回その分貰えばいいわけだし。帰りながら俺が教えてやるよ」
「そっか。教えてよ田島センパーイ」
「お前、馬鹿にしてるな?」



そう言いながらも田島はあれこれと俺に教えてくれた。

どうやら俺のこのうっすい顔は印象が薄くて声をかけても魅力に感じないそうだ。確かに田島の極悪人顔(本人には絶対言わない)に比べれば、俺は特筆しない顔をしているだろう。冬織のように綺麗な顔やイケメンでなければ彼女たちもわざわざ立ち止まって話は聞こうとしないらしい。人間って顔だよな。

ならばこの平凡な顔を生かして、一般人のように声をかけるほうがいいのではないかと田島は提案してきた。背も特別高くなく、ガタイがいいわけでもない俺は、困った顔をすれば親近感を寄せて話を聞いてくれるだろう、と。


その提案を聞いた俺は、翌週、もう少し普段着に近い軽めのTシャツとズボンを着用した。髪も今回はワックスなどつけないで派手にせず、あくまで普段通りの自分の格好である。

本当に今から風俗の斡旋をしに行くのか?というほどのラフな格好だったが、田島と別れてチャレンジしてみることにした。

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