駿喜ははぁー…とため息を吐いては、こちらを見下ろしてくる。
俺はベッドから落ちて、尻餅をついた状態で呆然と見上げるしかない。ガシガシと頭をかきながらめんどくさそうに駿喜は言う。
「ゆりちゃん、わかんない?帰れって言ってんの。あーあ、ガッカリ。ヤるだけヤってんのに、雅彦をものにしてないのかよ。結局あいつ引きずり落とすのは無理かー」
「これだからトロマは役に立たなくてうぜえんだよなー」なんて駿喜は愚痴を吐く。
駿喜の突然の態度に頭が回らず、整理されないまま、ぐちゃぐちゃのまま俺は喚き叫ぶ。
「い、意味…わかんないんだけど…っ!こんな、勝手に連れ回して、わけわかんないこと言って、ヒコたんがどうとかとか……、それに無理やりキスしようとしたり…っ!」
「は?無理やり?そんなことしてないだろ。俺は途中で止めた。それに、なんならゆりちゃん最後の方はノリノリだったよね?俺は無理強いなんてしてないけど」
「でもっ……!」
「はぁー。だからさ、お前がバカみたいに都合よく解釈しただけじゃん」
間違ってねえだろ?と綺麗に作り笑いをして見下してくる駿喜。
心臓が冷え切って、何も言うことができなかった。
そう、そう…かもしれない。たしかに駿喜は何も言っていない。なんなら行為を制止した。しかし、俺は都合よく助けてくれて、都合よく俺を受け入れようとした、駿喜のことを勝手に自分のいいように勘違いした。自分を受け入れてくれる人間だ、と。そうだ。その場の勢いではあったが、駿喜は何も言ってない。俺が勝手に行動し、許した。そうだ、そうなんだ、そう、だ…でも、そうだけど、でも、でも、でも、俺は。
ヒコたんを裏切って……?
「う"う"っ…!」
「は?ここにきて吐くの?汚いからマジでやめてくんね?」
込み上げてきた自己嫌悪と拒絶感で、一気に腹のものが上がってくる。
慌てて下を向き、嘔吐感を我慢するが、喉のギリギリまで上がってくるモノに体が震えだし、止まらない。
完全に心が拒んでいる。
この状況やこの状況を作り出した駿喜。
そしてそれをまんまと都合の良いように勘違いして他人に身を委ねようとする、昔から一切変わらない自分にも。
突然陰がかかった。
隣に人影ができ、そのまま腕を掴まれる。茶色の髪が目の前をよぎって、ギラギラとした目がこちらをみていた。
『てめえみたいなクズいらねえんだよ』
ーーーあいつとフラッシュバックする。
俺は思わず叫ばずにいられなかった。
「あ…あ…あ………っ、やだ…!やだ…!!やだぁぁあ…!!捨てないで、置いてかないで、ひとりにしないでぇ…!!いい子にするからぁ…!ねえ、やだぁ…やだ!!」
「は?ちょ、なに。おい、急に抱きつくなよ!俺はお前をトイレに行かせようと……」
「やだ、捨てないで!外に連れてかないで!!やだ!好きなようにセックスしていいから!殴ってもいいから!いっぱい中に出してもいいから!ねえ!捨てないで、捨てないで、やだ、ぁ!!やだぁ、ああっ、あ…っ!」
「ちょッ…おい、って!お前きいてる!?」
頭がガンガンとする。タバコの匂いと変な甘い香水の匂い。クラクラする低い声が、激しく罵声をあげるのを想像して嫌でも手を離したくない。
目の前の人物に抱き付けば、そんな匂いや声なんてしなかったが、形や仕草、全てがあいつに見えて仕方ない。
忘れてたのに、あいつなんて、いらないって、思ってたのに。ヒコたんがいればいいって思ってたのに、強くなれる、忘れられるっておもってたのに。全部元カレに振られた日の記憶で脳みそがいっぱいになっていた。
震えが止まらない体ですがりつき、一切離れようとしない俺に、駿喜は呆れたのか、はたまた諦めたのか、はぁーっとまたデカデカと大きなため息をついた。
「あーーーはいはい、わかったよ。こうすりゃいいんだろ?」
やる気ない声でそう答えた駿喜は、無理やり俺に顔を近づけ、躊躇う間も無く口付けてきた。
それは突然のことで。頭の中では元カレのことでいっぱいだったのに、いきなりのキスでクラクラと視界が揺らぐ。
(あれ?待って、この人だれ…)
俺の思考はまだ追いついていないが、駿喜はそのまま唾液を無理矢理絡めてベッドへ押し倒してくる。口内で混じる唾液と、唇の薄さ、キスの仕草に違和感を覚える。違う、こいつ、元カレじゃない………、あれ?ヒコたんでもない……。誰?誰…?誰………?あれ、俺、一緒にいたのって…。
「お望み通り一発ヤッてやるよ、ゆりちゃん」
そう言って駿喜はこちらに冷ややかな目を向けて、唇を歪ませた。
それからは早かった。
駿喜は暴れる俺をよそに手慣れた様子で服を脱がしていく。
「待っ、おまえ、なに、してッ!!」
「おい。お前が誘ってきたんだぞ。しかも好きなようにセックスしてくれってお願いまでしてさ。まあ、媚び売ってくる人間のセックスも飽きてきてたし、こんくらい嫌がられると新鮮で楽しいけど」
そんな…気が狂ってるんじゃないのか!
馬鹿げたことを言う駿喜に俺は危機感を感じ、ほのまま這い出ようとするが、すぐに手を掴まれて、片手で両手ごとまとめ上げられてしまう。
ジタバタと暴れるが、体の軸はビクともしない。なんなら、上にのっかかってくる体は俺よりも分厚く、引き締まった筋肉で出来上がっていて、俺が暴れても妨害にもなっていなかった。力だって、スポーツしてるせいか強い。貧弱な俺は簡単にベッドの上に縛り付けられ、グッと両腕に圧力をかけられる。
「好きなように、ひどく抱いてやるよ、ゆりちゃん」
「おま、えッ…!」
クソが!と顔に向かって反射的に叫びそうになったが、駿喜が無理矢理スウェットの上をめくりあげてきて、思わず恐怖で息が詰まってしまう。
「…ひぃ…ッ!」
シャツは首のところまでめくり上げられ、まとめ上げられた腕では駿喜に対抗することができずに、俺の薄くて骨が見えそうな胸元がそのまま露出された。
乳首などは立っていなかったが、晒された素肌に荒々しく手のひらで駿喜は触れてくる。
「っ、やめ、お前、勘違いして、ァ…っ、ち、がッ、ぁ…!ッ、!」
「何が違うんだよ。意味わかんねー、目の前には俺しかいねえだろ?」
「そう、じゃ、な……ッ!っふ、んぅ、ッ、ッ…!くッ…!!」
駿喜は乱雑に肌をさわりながらも、さらけ出た乳首を指でぐりぐりと擦る。それが嫌なほど刺激になって、感じたくなくても感じ、声は抑えたくても甘ずった嬌声が喘ぎて出てしまう。
ビリビリとした刺激と共に、弄る加減に強弱をつけて快楽を与えながら駿喜はこちらの方へ覗きこんでくる。
「ねえ、俺、だらだらヤるの苦手なんだよね。前戯もめんどくさいし。男のここってすぐ濡れんの?」
愛撫をスッとやめた駿喜はいきなり後部をズボン越しに触ってきた。おい、まさか。本当に。
どこを使うのか、駿喜はその知識はわかっているのか、肛門部分をやたら刺激してきた。
ぐにぐにと服越しに入り口付近を弄ってくる。
「ッあ、や、だ、ぁッ、むり、ってばぁ…!」
「はぁ?ヤダヤダ詐欺?お前が誘ってきたんだぞ、ちゃんと責任持てよ。このクソビッチ」
(うるさい、ころす、ころす、ころす…!!!)
心の中では駿喜に罵詈雑言を酷く浴びせる。だけど、口からは弱々しく「やだ」としか言うことができず、喘ぎ声に埋もれて何もかも有耶無耶になってしまう。
駿喜は乳首を痛々しく引っ張ったりいじり倒しながら、ズボンを無理矢理剥ぎ取った。体は押さえ込まれて、下着ごとずり下ろされる。
「ッ、ひ…」
「へー、半勃ちしてるじゃん。気持ちいいんだ」
鼻で笑う駿喜に悔しくて悔しくて堪らない。乳首を捻られて呻くと、噛み締めていた唇が開いて、唾液が垂れた。
よだれを拭う暇もなく、駿喜は俺の下半身に手を伸ばす。
乳首をいじっていた手が俺の片足を上に掲げ、もう片方の手で尻たぶを左右に開く。秘部が外気に晒され、駿喜に丸見えとなっている。
「や…っ、ばか…!み、見るな…っ!やめ、〜〜ぁ、ッ!」
「見るなって言っても男ってここに入れんだろ?広げねえと、こんな小っせえ穴にちんこ入んの?」
無神経な言葉にプライドと心がめったうちにされる。好奇心も覗くような、その揶揄った態度が本当にムカついてムカついて、涙が出てきそうだ。
しかし、意地としても泣いてたまるか、と思って熱くなる目の奥を堪える。
一方で、俺のそんな様子なんか見てもいない駿喜は指を自身の唾液で濡らすと、迷うことなく突き入れた。
「ッァ!」
「やっぱり、きっついな」
女性のように濡れるわけでもないそこへ遠慮なく指を沈めていく駿喜。やめろと言うのに駿喜は俺の意見を聞く気などサラサラないようで、無理やり指を押し込んで、ぐりぐりと中を押してくる。
久々の行為に身体が痛みを上げると同時に、指が内側に触れて快楽を誘き寄せようと体が熱くなってくる。自分の身体をここまで憎んだことはない。嫌いな、ましてや無理矢理してくる憎いやつに、身体を蹂躙されていて身体が快感を求めようとしているなんて。
「っ、く、ぅ……、あっ…!っば、かぁっ、やぁ…ッ!!」
「ッ、本当せめえな……でも広がってきた、締め付けてもくるし、本当女のまんこみてえ」
グニグニと駿喜の指が動いて穴を拡張される。快楽を拾う指使いではない。あくまで挿れるために、解されているようで、虫が這うかのようにあちこちに指がいっぱいいっぱい擦れる。
「っは、ぁ、っ、ぁ…」
目がチカチカとして、頭の中はグルグルとしてくる。気持ちいいとかではない。刺激に身体が参ってきているのだ。ヒコたんはこんな触り方しない。こんなあちこち弄るような、体を暴くような触り方なんてしない。
それによって、ヒコたんと違う人間に身体を触られているのを嫌でも実感してしまう。助けて、ごめんなさい、ヒコたん、たすけて。
突然、指をズリッと引き抜かれた。
身体はアナルに触れられることに慣れているのか、完全ではないが性器が膨れ上がって反り勃っている。
短く息を吐いて、熱くなった身体を鎮めようとしていると、無理矢理身体を引っ張られた。
「ッ!?」
「はぁ…、我慢できねえ。挿れる」
「っ、ちょ、まっ……!!」
駿喜は俺の言葉なんか聞かず、いつの間にか出していたちんこを後部に触れさせる。
ぬる、とした生暖かい感覚に、心臓が冷えた。
やだ、ダメ、本当に、やめて、やだ、やだ、これ以上は……。
「っあ、や、やだあああああっ、」
ググッ、と先端部が中へ入ってくる。
生だからか、思った以上に滑りを持って中へと入ってくる。
「っは、やめ!やめ、ろぉ、ああ、っいた、ぐぅ、ッ!!」
「ッ…きつ、やっぱ、無理かも、ッ」
そう言いつつも、駿喜は腰の動きを止めず、浅く息を吐きながら中へ押し入ってくる。俺の中が切れても気にしないで自分勝手に蹂躙してくるのだ。
何もかも無茶苦茶で、俺の意思なんか無視した暴力。身体全身がこの状況を拒んでいる。
「やめ、やめてっ、ぬい、抜いてえ、やだ、やだぁっ!!」
「……ッ、今更遅えよっ」
「あ"あ"あ"ッ!!!!」
どちゅんっ!と音がするように中へ勢いよく駿喜が入ってきた。尋常ない圧迫感と痛みに内側から突き破られるんじゃないかと身体全身が悲鳴をあげる。駿喜の性器が全て中に入り込む。切れたのか、中が一瞬ヒリついた。
駿喜は俺の腰をつかんで、ズリズリと、往復を始める。
「ぁ、っ、あ…やめ、やめ、ぁ、あっ!」
痛い痛い痛い痛い痛い。苦しい、もうやだ、全て、死にたい死にたい死にたい。ヒコたん、ごめんなさい、ごめんなさい、裏切って、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、許して。汚くてなっても、許して、許して、許して。
「ひぐ、っあ、あ"あ"っ、ぅっ、あ、あ"あ"ッ」
汚い嗚咽と、喘ぎを超えて呻き声になった声を上げながら、身体を揺さぶられる。涙はついに止まらなくて、目の前がぐしゃぐしゃになり、もう何がなんだかわからず真っ黒の中で泣き叫んでいた。
「ひ、っぁ、生きて、て、……ッ!っ、ぁ"あ"ッ、…ご、ごめんな、さ、っ、ぁ、ああっ」
ばちゃばちゃ、びちゃびちゃ、嫌な体液が肌に当たって、擦れて、卑猥で、汚くて、みっともない音が部屋全体に響き渡る。
顔はしわくちゃになって、涙や鼻水、汗で顔面中ベトベトになり、目にも当てられないような悲惨な状態で犯されまくる。心もズタボロになり、強姦される恐怖や屈辱はひたすら心を疲弊させていく。身体も心も傷だらけ。でも犯される。
そう、それは地獄。地獄だった。
……一方で、駿喜は腹奥が熱くて熱くて仕方なかった。
(なに、こいつ…ッ)
嫌がる、死ぬほどクソみたいな顔。懺悔したり暴れ出したり、かと思えば狂ったように死にたいと言い出したり、支離滅裂で、よくわからない戯言まで言い出しながら、ぐちゃぐちゃに泣き叫ぶ裕里。しかし、その顔に駿喜はなぜか興奮していた。
「ッは…、なんだよこれ、ひっでえ顔…」
無理やりゆりの髪をかきあげて、体液だらけでぐしゃぐしゃの顔を見れば、ひぐっ、と泣き喚く顔になぜだが心臓が締め付けられる。
…あーー、俺ってこういう趣味だったのかよ。
「ひっでえ、ゲス趣味、ッ」
クソきめえ。
そう思いながらも、いつの間にか俺の口角は上がっていて。さらに裕里を追い詰めるように腰を上げては入り口から奥深く突き上げる。
「あがぁ…ッ!ぁ"あ"あ"〜ッ!!」
豚みたいに、喉に引っ掛かった声を上げながら、裕里は涙をボロボロと流す。
可愛い、なんては思わねえ。でも、いじらしくてめちゃくちゃ興奮する。自分の手でぐしゃぐしゃにして、縋り付かせたい。
「ッチ、余計なことを…」
腰を叩きつけながら舌打ちする。
厄介なものを『見つけてしまった』。
ここまでくると、否が応でも自分のものにしたくなる。ぐちゃぐちゃにしたくなる加虐心が昂って、いま、本能のままに激しく腰をこんなやつに振っている。まじでばかくせえ。でも気持ちよくてたまらない。
興味を抱いたのは「雅彦の女」だったから。
それを奪ってみたかった略奪心から、今はさらにこいつを手に入れたいという執着心へ変わっている。
それがどんだけバカらしくて、どんなに魅力的なことか。
「くっそッ、激しくしたら中締め付けやがって、ッ、雅彦とここまでしてんのかよッ…!」
「ひぎ、ぃ、ぁ、あ、ああっ、あああッ!」
「〜〜〜ッ、くそ、ッ、イくッ…!!」
いつも、女たちとヤるセックスとは違う、本能のままのセックス。絶望感で一杯になっている裕里の顔に性器が耐えられず、震え上がった。
俺は外に出す余裕なんてなく、そのままこいつの腹の中へ自分の精子をぶちまけた。
びちゃびちゃと腹の中に駿喜の精液が注ぎ込まれていく。
「……ぃ、…ん…、めぇ、…ぃ………」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…。
ヒコたん、ごめんなさい。
許して。
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clap! bkm