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○○○○○○

「ゆり、好き。好き。好き」
「あーそうですかー」

電車に乗ったあたりから、俺が本当に聖を置いていかないとわかったのか、人がころっと変わった様に聖はベタベタと甘え始めた。

電車で人がたくさんいるにも関わらず、抱きついてきたり、好きだと言ってきたり、本当に迷惑である。

この場にヒコたんがいなくて本当によかった。
ヒコたんにこんな現場見られてたら、絶望感で絶対首吊って死んでた。


「ゆり、もう教室戻るの?1時間だけサボろ?」
「は?誰が学校行きたいって騒いだんだよ。それに俺、出席日数足りないから授業出ないといけないんで」
「へえ…2年生って面倒臭いねえ。3年生はもうほぼ自由登校だよ〜」

こいつ、3年生だったのかよ。
確かに2年生ではこんなに派手なのに一度も見たことなかった。でも、それならより一層、学年の違う自分に絡まないでくれよ。

文句を言う代わりにデカデカと大きくため息を吐いてやった。


「それじゃあ、また放課後迎えに来るね」
「いえ、結構。俺に構わないで下さい。あと勝手に触るな」
「ゆりはツンデレだなぁ。大丈夫だよ。じゃあまた後でね!」
「なっ…!」

待て!!アイツ都合良いように解釈しやがった…!

思わず止めようと聖の腕を掴みかけるが、寸出のところで止める。アイツを引き止めたところで何も変わらないからだ。逆に構ってもらったと勘違いするかもしれない。
気に食わない状態にされているのはムカつくが、今のところは放っておこう。


「本当めんどくせえ…」

「なにがだ?」

急に声をかけられて、ビクッ!と身体全身が震える。
慌てて振り返れば、いつもの太陽な笑顔でヒコたんが立っていた。

「ひ、ヒコたん…」
「おはよう、裕理。何かあったのか?」
「い、いやいや!何でもない!それよりもさ、今日は一緒に帰れる?」
「あー、すまない。採寸合わせは暫く時間が掛かるらしい。今日も打ち合わせがあるみたいだ。それにメニューを考えたり覚えなきゃいけないだろ?当分は遅くまで残るかもしれないな」

(は、はぁー?!ふざけんなよーッ!!まだヒコたん拘束してやがんのかよッ!!)

なんだ?何なんだ?マジで俺とヒコたんの邪魔をいつまですれば気が済むって思ってんだ?マジで許さん。クラスメイト全員殺す……殺す……。

俺はメラメラと殺気に燃えあがる。
もうこいつらまとめて殺すしか、この憤りを解消する方法が思いつかん。


「ゆり、よろしくな!」


ヒコたんが唐突に俺の頭をナデナデする(きっとその行動には何も考えていない)。ま、まあ、ヒコたんがいうなら、まだ実行はしないけど……。
むむ、(ヒコたん自体は何もわかってはいないけど)笑いかけてくる笑顔が可愛い……。



まあ、何はともあれ、朝からテンションは最悪に真っ直行だったのだが、今日のヒコたんは超優しくて、俺のテンションは高くなっていた。

ヒコたんは人気者で皆に優しいから、普段は結構すぐにあちこち呼び出されてどっかに行ってしまうのだが、今日は運も良く、授業中もずっと隣にいてくれた。


「裕理、いちご食べるか?好きだろ?」
「ヒコたん…!」

あーんとした口にいちごが放り投げられる。
うまい、うまい…ッ!!いちごが好きかどうかは別にそんな大してないのだが、ヒコたんがくれたいちごなら何十倍にも糖度を感じる…!

ルンルンでイチゴを食べていれば、昼休みを終えるチャイムが鳴る。


今日この後は確かHRで、文化祭準備の時間になる。マジで幸せな時間はあっという間。少しテンションは萎えてしまったが、ヒコたんが隣でニコニコとしているから、俺はもうそれでもいいかなと、朝の物騒な考えなど忘れ去っていた。



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