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中に入り、靴を脱ぐとヒコたんの部屋へ行こうと二階の部屋へ向かおうとする。

「ちょっと、雅彦の部屋行くの?」

幸に声をかけられたが、無視して行こうとすると、グイッと腕を掴まれた。

「な、なにっ。そうだけど?」
「本人が不在なのに勝手に部屋に入っていいわけ?」
「勝手に家にいる人に言われたくないんだけど!」

幸の掴まれた腕を離そうと、引いてみるが硬く掴まれてて逃げられない。
案外力が強い。

「痛いんですけど!」

離して欲しくてわざと大きな声でそう主張する。しかし幸も劣らずキッと眼光を力んで睨んでくる。


「キミに話があるの」
「は?…アンタと話すことなんて何一つなくない?」
「キミの都合はそうかもしれないけど、こっちにはあるんだよ。黙って話も聞けないの?」
「な、なんだよ!」

俺がワッと叫んだのにも幸は全く怯まず、俺の腕を掴んだままリビングの方へ連れて行く。
ほぼ強引にリビングの中央であるソファの前に連れて行かれる。パッと腕を離されて勢いで倒れ込みそうなった。

(コイツ……!しかも手首痛いじゃん!!)

俺は掴まれていた方の手首を摩っては、幸を勢いよく睨む。

「それで、話って」
「うん、単刀直入に言うけど、キミもう雅彦に関わるのやめたら?」

………は?

あまりにも率直に言うから口がパカっと開いてしまう。話があるってそれ?

(〜〜〜っいい加減にしろよ!聞くんじゃなかった!)

状況を理解した俺は、真向面から幸に顔を背けて、その話を無視した。


「おい!ちょっとアンタ!」
「ふん…!」

俺はツン!と鼻を立てて、幸の呼びかけも無視する。話聞いても無駄だ、無駄。


返事もせずそっぽを向いた俺。
その俺のあからさまな態度にイラッとしたのか、幸がこめかみを抑えては心底面倒くさそうに声を上げた。

「グダグダお喋りしても無駄かと思って、直で注意してんのに、その態度かよ…」
「…はぁ?なにそれ。余計なお世話。誰も注意してくれとか頼んでないんですけど」
「はぁ?構ってちゃんが何を偉そうに言ってるわけ?手首痛くないんでしょ?いつまでアピールしてるわけ?」
「んなっ…!ア、アピールとか、そんなわけないじゃん!」

幸のピシャリとした言葉に手首を摩る手が思わず止まる。
自分の行動を見透かした上でズケズケ言ってくる幸に、怒りと恥ずかしさで顔がみるみる赤くなる。
たしかに手首の手形が消え、痛みなんてちっともない。しかしやっぱりそれはバレたくなくて、片方の手で掴まれた方の手首を隠した。
幸はイラついた顔をするだけだ。

「ほんっとに…マジでアンタみたいなの見てるとイライラするんだよね…。雅彦が人の気持ちに鈍感ってことわかってるでしょ?雅彦はアンタを最後見放す。泣いても怒っても、アンタの気持ちをこれっぽっちもわかろうともしないね。それとも、わかっててアイツに依存してるの?それならいつか後悔するよ」


……ねえ、マジで余計なお世話すぎる。
俺が誰を選ぶとか選ばないとか依存するとか依存しないとか、全部お前じゃなくて俺が決めることじゃん。俺の人生ではヒコたんしか中心にしかいない。これからもこのさきもヒコたんだけ。お前に指図されるコトじゃないんだ。


−−−幸がいくら真剣に言っていようとも、今の俺には一切ヤツの言葉は頭に入ってこなかった。


「だからなんだよ。それでヒコたんの関係切れってこと?そんなのするわけないじゃん」
「お前…っ。このままだと本当にダメになるぞ…っ」
「はぁ?そもそもなんでアンタに忠告されないといけないんだよ!アンタは俺の母さんでも、ヒコたんの恋人でもないじゃん!?関係ない人間が俺らについて口出しすんな!」
「関係ある…っ!雅彦はなぁ…!!」
「なんだよっ!」

その続きを聞こうと身を乗り出すが、幸の勢いが急に失速した。
何か躊躇っているような、何を言葉に出せばいいか一瞬迷ってるように発言が詰まる。

「ねえ、なんだよ、ヒコたんがなに」
「……っ」

そのまま沈黙が訪れ、幸は言葉を発さない。

あれだけ自分たちに噛みついといて、自分の話になった途端、言い淀む幸にイライラと不快感が積りに積もる。イライラが抑えられない。口からは慣れたように人を煽る言葉だけ出ていき、腹底にいる虫が大きく暴れる。

「自分の話になったらだんまり?はぁ?マジでなにがしたいの、アンタ。……もしかして、ヒコたん盗られると思って嫉妬してる?残念。ヒコたんはもう俺とセックスした仲なんだよ?所詮親戚ぐらいのアンタがヒコたんになんてね…」


そう話している途中だった。

ガンッという頭が振られる衝撃と、後から頬の腫れた痛み。顔が幸の方から遠ざかって、体がぐらりと傾いた。

もう一度真正面を向けば、幸が泣きそうな、でも苦虫を殺したような憎い顔をしてこちらを見ていた。
手が振りかざしてあり、幸に今殴られたのだとわかった。


「そういうとこも、全部不快なんだよ…っ!!」

幸がそう吠えた。



不快?何それ?なんで俺が悪いみたいになってんの?むしろお前が俺を追い詰めたんじゃん。俺何も悪くないよね?は?は?はぁ???


−−−後から思い返せば、俺はこの時精神状態があまりにも不安定だった。頭の中がグルグルと悪い方向に回り、想像する皆が悪い言葉を自分に囁きあって、自分という存在を「嫌悪」していた。


そんなに嫌いなら死んじゃえばいいんだよ、おれも、みんなも。




プツリ、と何かが切れた。




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