3
男は脱がせた上半身に手を這わせた。
求は気を失ったのか、いくら肌に触れても抵抗しない。
そのまま胸の乳首をゆっくり指で潰して弄びながら、求のスラックスを脱がしていく。
くにくにと潰したり引っ掻いたりしていると、先は硬くなり、ツンと張りはじめていった。
完全に求は気絶しているが、体は敏感に反応しているようで、股間部がやんわりと熱を持ち出している。男はそれを見ては卑下な笑いを漏らした。躊躇うことなく男は求の下着を脱がせた。パンツは足からも完全に引き取り、靴下も丁寧に脱がせる。素裸になった求へ大きく乗り上げ、男は左手で胸をいじりながらそっと後部へ触れた。

最初から、目的はこれだった。新田のお気に入りを抱く。男だからなど関係ない。あいつが手に入れたいものをこの手でぶち壊してやるのだ。


男はポケットからチューブを出して、粘生物を丹念に指へ塗りつける。そのまま求の後部へ這わしてクリクリと入り口をほぐす様に撫であげる。そうしていくうちに中は柔らかくなっていき、広がったところで中へ指を突き進めた。
求はまだ意識が戻らないようだ。
男は暴れないうちにサッサッと準備を終わらせようと、二本目の指を突き入れた。液体のおかげかグイグイと中は広がり、クチクチとネバついた水音が響く。内壁に指を擦り付けてはローションを塗りたくり、求のアナルは十分に濡れきっていた。

解すのには十分と判断した男はゆっくりと指を引き抜いた。たまに内側を擦れば、感覚を得たように体が震え、後部が強く伸縮する。

男を今まで抱いたことなどなかったが、この様子であれば快感ぐらいなら得られるかもしれない。でも、目的はあくまで歩麻だ。この男はその餌になってもらう。

茶色の髪をかき上げて、男はずり下ろしたズボンから取り出した赤黒い勃起したペニスを求へとあてがった。



*******

体が揺さぶれられている感じがした。
腹が熱くて、熱が溢れるような変な刺激に体が痺れる。突かれる度、口から息が漏れて、浅くて短い呼吸を何度も繰り返した。

…内側からなにか湧き上がってくる。腹奥を掠める甘い誘惑。脳みそがグワングワンと掻き乱されてしまう。
自分のちんこがだらだらと我慢汁を流して、太ももを伝ったのがわかった。快楽が体をおかしくしている。暖かい温度が肌から触れて熱く溶けていけば、脳内麻薬が溢れてより体が快楽を欲しがった。

「お兄さん、キツっ…どんだけ締め付けんの」

そういってはいるが中に入った熱はドッと大きくなった気がした。その刺激に体がまたぶるりと震える。

「っ、は、っは、はぁっ」
「目醒めたっ…?ははっ、んっ、はぁ…。それにしても、ホントきついしトロトロ…女みてえ」

あんまりはっきりとはしない視界の向こうで、強く揺すぶられている。掠めた低い声が脳に響いたと思えば、直接耳に唇をあてがわれ、耳たぶを甘く噛まれた。甘い息とともに再度囁かれる。

「お兄さん、名前はっ……?って言っても知ってるけどね…」

「求でしょ?」そう笑った男は、今までよりも強く腰を打ち付けてきた。なんで知っているんだ。それでも俺はわけがわからずに体を押し付けてくる男にしがみついていた。腹から突き上げられる快楽が堪らなく堪らなく気持ち良くて、呼吸をより荒くした。

「っく、っは、はぁ、ああっ…」
「おい、まだイくなよ…?もう少ししたら…」

男はそう呟いては、腰の角度を変え内壁に熱を擦り付ける。求はそれにただ体を大きく揺らしてしまう。気持ち良すぎて頭がどうにかなりそうだ。求と男の熱は濡れて、さらに高まっていく。


しかし突然。ガタンッ!と大きな音が響いた。
その瞬間ぶわりと冷たい空気が身を包み、怒鳴り声が響いた。

「てめえ、何やってやがるッ!」

ドン!という強い音ともに、近くにあったテーブルが吹っ飛んでいった。
なに…?何が起きたのかわからない。ぼんやりとしていた脳みそが冴えていく感覚がした。視界が開け、光を集めて焦点が合っていく。
最初に見えた顔は茶髪の綺麗な顔をした男だった。

男は俺と目が合うと、そのまま俺を抱き寄せ、強く腰を打ち付け始めた。

「っあ?!っくあ、っかは、っはああっ!」

驚いて、声が大きく漏れてしまう。下半身からくる振動と強い刺激に頭がチカチカとなって、声を上げずにはいられなかった。
しかし、その感覚も数秒で消え去った。
男の体が吹っ飛んだのだ。

ずるりと後部から太い熱が抜けて、ごぷりと液体が漏れる感じがした。
ハッとして起き上がれば、茶髪の男は勢いよく歩麻に殴りつけられていた。
鈍い音ともに男は壁に体を打ち付ける。変な音の咳と血唾を吐き出した。
傷ついた男を前に、歩麻はいつもの調子の良い笑みではなく、恐ろしいほど怖い表情で怒鳴り上げた。

「てめえ、ころす、ころす、殺してやるッ!」

そう言った歩麻は男をつかみ上げて頬を再度強く殴りつけた。さっきよりも鈍い骨がぶつかる音に俺は血の気が引く。

「やめろっ!待てっ!これ以上やったら!」

死んでしまう。
俺は再度殴ろうとする歩麻の体を無理矢理抑えつけた。腰が鈍く痛んだが、俺にとってこの状況の方がもっと耐えがたかった。

勢いよくもう一度殴りかかろうとした歩麻だったが、胴体に抱きついた俺を見た瞬間、冷静になったのか動きを止めた。そしてそばにくるまっていたシーツを咄嗟に掴むと俺の身体を丸ごと隠すようにシーツを被せた。

その歩麻の行動に、自分が何も身に纏わず裸であったことを今更ながら気づいた。
シーツを急いで掻き寄せれば、途端に羞恥心と屈辱感が胸いっぱいになる。俺は今見知らぬ男に裸を暴かれた挙句、女のように抱かれていたのだ。下半身の違和感と、ドロドロと液体が漏れてくる感覚に突然震えと吐き気が沸き起こる。目の前が黒くなっていって、どうしてもこの状況に耐えられずに、思わず口元を抑えた。体はカタカタと震え、息がうまく吸えないから呼吸が度々荒くなってしまった。


そんな俺を見た歩麻は、壊れものでも触れるように、無言で優しく俺を抱き締めた。
じんわりとだが、シーツ越しから歩麻の熱が伝わる。歩麻がここにいるということに大きな安堵感と羞ずかしさからくる惨め感に泣きたくなった。胸の中はいろんな感情でグシャグシャだった。それでも激しかった動悸を収めるために俺は深呼吸をして歩麻に言う。

「歩麻、ありがとう…もう大丈夫だ」
「求…」

歩麻が顔に手を伸ばしてきたが、先程の恐怖感からか、体が勝手に震えてしまう。シーツを抱く手の震えはまだ止まらなくて、俺は嫌に汗をかいた。

「求…、ごめん」
「いやっ、歩麻は悪くないから…、その、すまない…」

歩麻は助けに来てくれたのだ。でも、まだ直接肌が触れ合うのは恐ろしかった。体を這った熱を思い出して、手先が痺れあがるのだ。

「すまない、求。でも、とりあえずここから出よう」
「え、あっ…」

ここから出たい。確かにそう思ったが、シーツの中はまる裸だった。服はどこへやったのか、周辺を探しても見つからない。
この姿で外へ出ていくなんて無理だ。どんな目で見られるのか、こんな格好していたらどんな風に思われるのか、そう思うとすぐには動けなかった。

戸惑っていると、歩麻は無理矢理腕を掴んで俺を抱きかかえようとしてきた。シーツにくるんだまま外へ連れていく気だ、それは嫌だ…!思わず歩麻の腕を押し返してしまった。

「おい、求」
「待って、この格好じゃ…」
「いい加減にしろ求ッ!」

歩麻が大きな声をあげる。その声に求がびくりと体をはねさせれば、歩麻が罰の悪そうな顔をした。普段穏やかで、感情をこんなにむき出しにした歩麻は見たことなかった。その様子を見ていたのか、茶髪の男は壁にもたれかかりながら大きく笑いだした。

「ふっ……フハハハッ、ハハハッ、アハハハハッ。そんな格好でコイツを連れて行ってどうするんだ。それこそヤッてきましたってバラしてるようなもんじゃん。それで、無理に出て行かされたら…お兄さんにしたらプライドがズタズタだよね。まあでもそんなこと関係なく、お兄さんは俺とここにいてもらうよ。それに、新田歩麻……アンタ、俺のこと忘れたとは言わせねえぞ」

男は口元の血を拭うと、立ち上がって左腕のシャツを捲り上げた。

「これは新田、アンタがつけた数多のキズとリストカットだ。おかげで未だにこのキズたちは治らねえし、雨の日には痛む…。眠ろうとすればあの記憶が毎晩呼び起こされて、全く寝られねえ!いつもどこかで怯えながら生活をし、俺だけじゃなく母さんも父さんももうめちゃくちゃで、会話すらまともにできなくなった!……お前のせいで…お前のせいで俺の人生はグチャグチャになったんだよ…ッ!!狂ったんだよッ!!!…だからこそ、だからこそアンタにはその絶望を知ってもらうッ!」

ひどい傷痕だった。見ていられないようなひっかき傷と縦に並んだ新しい切り傷が無数にある。整った顔には似合わないひどい腕の惨状だった。

この男の憎悪と復讐心は真っ向に歩麻へ向いていた。

歩麻はそっと立ち上がると、求のそばから離れ、その男の方へ近づいていく。
近くに立ち、男の顔をジロジロと見ては、歩麻は男に言い放った。


「…誰だよ、てめえ。お前みたいなクズ、顔すら覚えてねえよ」


その言葉に男は顔を般若の如くひきつらせた。
カタカタと肩は震え、歩麻を喰い殺そうという憎悪が瞳に一気に満ちた。

「アンタは絶対地獄に落とす……」

男はそう言うと、ドスンッ!と鈍い音を立てて拳を壁に叩きつけた。壁に大きくヒビが入り、パラパラと破片が散る。握り込んだ拳から血も滲んで、壁は赤黒く色づいてしまう。

しかし、そんな状況にも歩麻は一瞥しただけで、何事もなかった様に求の方へ振り返り抱き上げようと手を伸ばしてきた。

(何を考えているんだ、歩麻は)

この異様な空気感と歩麻の不可解さから、求は先ほどよりも強く歩麻の手を払い除けた。
パシン、ッと乾いた音が響く。
歩麻は無表情でこちらを見ていたが、求はここを譲ってはダメだと思った。歩麻の後ろでは、血で濡れた拳を壁に突きつけたままの男が歩麻をいたく憎み睨み上げている。歩麻を逃さなければ。求はその瞬間、咄嗟にそう思ったのだ。

「求」
「歩麻…行ってくれ…」
「求」
「歩麻、早く行けッ」
「へえ、そこのお兄さんは賢いね。俺にあくまで従うというわけか。まあ、それにその格好じゃ出るにも出られないしね」

キッと口端を噛んだ。それが一番の痛手だった。もうこれ以上屈辱を味わいたくない。俺の情けないプライドがそう訴えていた。

歩麻は俺の顔をじっと見ては眉をグッと潜めた。しかし、俺のことを諦めたのか、怒りをぶつけるように近くのテーブルを再度強く蹴り倒し、何も言わずに部屋から出て行った。






静かになった部屋。忌々しいように男の浅く息を吐いた音が響いた。

「お兄さん、それで新田の身代わりになったつもり?それとも、もしかして続きをしたいの?」
「服を返してくれ、お前が持っているんだろッ」
「……ああ、そう」

男はそう言うと、興味を無くして別口のドアを開いた。ドア口から見える箱の中を漁ると、俺の着ていた衣服をそのまま差し出してきた。綺麗に折り畳まれた衣服とあっさりものを差し出してきた態度に不信感を抱く。
じっと男を見ていると、「服は着ないのか」と再度問われた。俺は急いで無理矢理服を奪い取り、一つ一つ手早く身に付けた。

「フンッ、着替えた?」
「あぁ…」
「なんだその目。俺を警察にでも突き出してやろうとでも思ってそうだな」
「その通りだ。お前がやったことは犯罪だ!」

そう言い放てば、男は馬鹿にしたように顎を上げて笑った。

「ハッ!ここから裸で出られない人間が、警察に『男から強姦されました』って告発できる度胸があるのか?それに、お前にはまだ役割がある。そう簡単には解放しねえよ」

ほら、と男はスマホをこちらへ向けた。画面にはいっぱいの肌色が映し出され、シーツの上に人間が寝転がされていることがわかる。男がそのまま再生ボタンを押せば、先程の俺と男の地獄のような行為が録画されていた。ベッドの上で女のように下半身を弄られて、腰を打ち付けられている映像に、胃液が喉元まで込み上がってくる感覚がする。
ゴクリ、と自分の喉から緊張して息を呑む音が響き、それを聞いた男は確信したように目を細めて笑った。

「言いたいことはわかるな?俺が新田歩麻を復讐するまで、俺に従え」

その恐ろしい動画がやつの手元にある。脅されているのだ。それでも俺に残された選択肢は一つしかない。ーーそれに、裏をかけば歩麻を守る道にもなる…。
杞憂としていた大学生活だが、彼が友人であることには違いない。無愛想な自分が明るい彼に助けられたことだって何度もあった。

「…わかった」
「そうか。俺の名前は林環也(はやしかんや)だ」

茶髪の男は端正に微笑んだ。







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