10
空は急いで家に駆け込むと、自分の部屋へ入り、鍵をかけた。
中学生のとき、プライベートがあるからと部屋の鍵をつけてもらったことが今初めて良かったと思えた。
はぁはぁと呼吸をしながら、しゃがみ込む。息がままならなくてそんなに走ったのかと自分でも驚いた。

息を整えていくうちに、空は疲労困憊の体をベッドに預けた。スプリングが跳ねて体少し上下に弾んだ。
スマホを取り出してとりあえず充電させた。今日一日、誰とも話さなかった空は携帯ばかりいじってていて充電が少なくなっていた。
制服を着たままベッドの上で目を閉じる。ウトウトしかけていたとき、ガチャリと鍵のあく音がした。
急いで空は飛び上がったが、どうやら部屋の鍵ではなく玄関のドアの鍵が開いたようだった。おそらく蒼が家に着いたのだろう。ガチャガチャと下で物音がしている。空は毛布をかぶって蒼の声を聞かないようにした。
しかし、階段の響く音が大きくて毛布を深くかぶってもよく聞こえてしまう。ダダンと連なる足音は蒼だけじゃない。誰かが蒼と一緒にいるのだ。蒼の部屋は空の手前側でガチャリと蒼の部屋が開く音がした。
『おじゃましまーす』
『どうぞ、入って』
こういう時、空は蒼の部屋の壁と近い位置にベッドがあったことを後悔した。嫌なほど蒼の部屋の音が聞こえる。
やはり誰か家にあげたのだ。靴があるから、蒼は空がいることは明らかにわかっているだろう。

ほんとに蒼は何を考えているのか。
空は怒りたくなった。
しかし、空がそんな風に怒ってるのも知らず、会話は進む。
『初めて蒼くんの家きたー』
『そうだよね、汚くてごめんね』
『大丈夫!蒼くんの部屋ってこんな感じなんだね』
声は少し高かったが、明らかに男だった。親そうにしているということはクラスメイトなのかも知れない。自然と聞き耳を立てていたことに空はハッとして壁に背を向けた。
『ねえ、俺の部屋に誘ったってことは、わかるよね?』
『うん、わかってるよ。蒼くんに相手してもらえるなんて嬉しいなぁ』
何か不穏な雰囲気を空は感じた。ドサリという音が聞こえた気がした。
『俺さ、オナニーしてるの見るの好きなんだよね』
『えっ、蒼くん思ったより変態じゃん〜。でもいいよ、僕そういうとこも好き』
そう会話が途切れると、物音しか聞こえなくなった。
空は心臓がドキドキとして目が瞑れない。
嫌な予感が背中を滑る。そして、それは見事に当たった。
『あっ、あっ』
蒼とは違う男の声が聞こえる。空は思わず耳を塞いだ。隣の部屋で行われている情事に泣きたくなった。
男の声は大きくなっていく。昨日の女とは違うが似たような甘い香りが香った。

ベータでもアルファでもない、蒼が部屋に連れ込んでいたのはオメガだった。
空は頭がガンガンとなった。蒼も裏切るんだ、俺を。オメガの方がいいんだ、俺よりも。
オメガの嬌声がうるさくて気持ち悪くてイライラして、耐えられなかった。蒼を誘うようにフェロモンを色濃く出してきているのが、空にもわかる。だからこそ、腹が立って、また蒼のことが嫌いになりそうだった。



ガタン!!

充電ケーブルに繋がったスマホがベッドの上から落ちてしまった。空は後ろの部屋を気にしすぎて気付かなかったのだ。
オメガの嬌声が止み、ガタンとあちらでも物音がした。
『えっ、なに』
『なんかもういいよ、帰って。隣の部屋に兄ちゃんいるんだ』
『うそでしょ?!』
オメガの叫ぶ音が聞こえ、ドタドタと部屋をかけていく音が聞こえた。そのまま、下へ物音はしていき、玄関が開いて閉じた音がした。







静寂が訪れる。

すると、それをかき割るようにスマホの着信音が鳴った。
空のスマホは床でチカチカ光りながら、音を鳴らしている。ゆっくり、スマホに手を伸ばせば、『蒼』と表示された通話画面だった。


「もし、も、し…」

『兄ちゃん、俺の部屋に来てよ。
……今の全部聞いてたんだろ?』


空はゆっくりと耳から携帯を離した。


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