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翌日、学校へ一緒に行こう、そう蒼が言った。
俺は蒼のことを無視して家を出た。




世の中にはベータがたくさん存在していて、アルファもオメガも希少だ。それでも、アルファは目立ち、並外れた魅力を解き放っている。
信号待ちで隣に並んだのもアルファだ。知らない人間でもわかってしまう。それぐらいアルファを意識していたことが空にはわかってしまい、酷く落ち込んだ。


教室へ着くと、大人しく空は自分の机に近づいた。いつも興味すら覚えなかった、隣で課題をしている生徒に声をかける。
「おはよう」
突然話しかけられた生徒はびっくりした顔をして空を見た。一度たりとも挨拶を交わさなかった空が話しかけてきたのだ。もちろん驚くに決まっている。
「お、おはよう…」
一応返事は返ってきて、空はゆっくり椅子に座った。隣の生徒も空の様子を見ていたが、何も起きないと察したのか目の前の課題へ再度取りかかり始めた。
ここまで、自分の人生ってアルファを取り除くと何もなかったのだなと空は思った。
当たり障りなく平等に生活していたように思えていて、実は隣のベータにすら今まで話しかけたことはなかったのだ。アルファがいなければ空はこの教室で1人ぼっちだ。
それぐらい空はこのクラスで異様な人間だったのかと自覚した。

和正は結局今日一日学校へ来なかった。
あのチャラついたアルファが休み時間空へ話しかけてきたこともあったが、空はそれに全く答えず遠くを見て無視をした。その様子に何やら冷めてしまったのか、あのアルファもその後話しかけてこなくなった。
アルファは自分勝手だ。その考えが余計空に浸透し、自分はそれほどの人間かとガッカリもした。



授業が終わり放課後を迎えると、蒼が教室の前で待っていた。
やはり外見は良くて、さまざまな同級生に話しかけられている。ほとんどが女子だから蒼は曖昧に愛想よく返事をしていた。しかし、クラスでも1番可愛い女子が話しかけたって他意のない愛想だけの笑顔を蒼は崩さなかった。
(そういえば蒼は男が好きだったっけ….)
ぼんやり思い出しながら、教室を出た。蒼にやんわりと股間に触れられた感覚。それを急に思い出して顔が熱くなった気がした。なんで今そんなことを急に思い出したのか。

「まって!空兄ちゃん!一緒帰ろう!」
蒼が空の後ろで大きく声を上げて一目散にこちらへ近づいた。
空は和正から聞いたことや空の体に触ったこと、そしてアルファである蒼が許せなかった。そのせいで朝だって蒼を無視した。空は蒼の声なんか聞こえないふりをして廊下を歩いていく。逃げるように早足で歩いたのだが、結局校門のところで蒼に捕まってしまった。
「空兄ちゃん待ってって」
空を捕まえた蒼は昨日までのような気持ち悪い暗い目の色はしておらず、昔の純粋な瞳をしていた。昨日のことがまるでなかったような蒼の顔に空はむしゃくしゃした気持ちを抱いた。
「触んないで!アルファに近づいたらダメなんだろ!蒼も近づくな!」
肩に置かれていた蒼の手を無理やりどかす。蒼はそれでも「待ってよ」と言ってきた。
自分勝手すぎる。空は怒りが収まらなくて蒼を睨んだ。蒼はその様子を眉を下げて見ている。空が睨んだって怯えすらしない。そのことに空はまた怒りを募らせた。
「俺は心配なんだよ。兄ちゃん」
「お前に心配される筋合いはない!もういいんだ、これで!」
蒼に酷いことをしたのは自分だと自覚はあった。でも、これ以上蒼のそばにいると俺がおかしくなりそうだった。今までの人生が全て信じられなくなる。見えていなかったものが見え出して怖くて怖くてたまらない。
空はそのまま蒼のことも見ないでこの場から走り逃げた。



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