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俺はいつだって悪夢の中にいる。

もう少し早く目がさめていたら違ったのか。



いや、夢から醒めない方がずっと『しあわせ』だ。














******









「ミヤビさん済みました」

マヤが風呂場から出てきた。
上質なスーツの裾や腕に激しく水が飛び散った跡がある。
どうやら彼はかなり暴れたようだ。


「マヤありがとう。
…ねえ勇維、初めての浣腸はどうだった?」

マヤに連れてこられた勇維は服を一切身にまとっておらず、垂れた腕や脚とともに顔は力なく下を向いていた。髪先のしずくがぽたぽたと落ちる。
彼はうなだれたままだった。



雅は反応のない勇維のもとへゆっくり近寄った。

勇維に手を差し出せば、勇維の体はピクリと跳ね、やがて小さく何か呟いた。





「…」

「勇維、なに?」












「………、





……ね……………








…しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね」







死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。











顎を掴んで勇維の顔を無理やり上げる。
水滴の滴る長い前髪からは、憎悪の感情だけを持った勇維が雅をじっと見つめている。

壊れた機械のように何度も何度も言葉を吐きながら、淀んだ瞳孔が雅を食い殺そうと凝視し続けた。






ふっ。



勇維の言葉に、思わず雅は笑ってしまった。


命の恩人に『死ね』、ね。






「…マヤ。勇維の後ろの具合はどう?」
「かなり慣らしましたが…初めてですし、体も小さいので一番小さいこのサイズしか入りませんでした」

マヤに問えば、マヤは勇維を縛り付けている金属具を引っ張りながら、小さなディルドを俺へ見せた。


「へえ…思ったよりも小さいな。マヤだって初めての時この数倍の大きさは入ったのに」
「……」

勇維は顔を沈めたまま、しねという単語だけをひたすら繰り返している。マヤの表情は何も変わらない。



(勇維はもう少し教育してあげないとだめだな。まだこんな感情見せるなんて…)
雅はそう思いながら勇維の髪を愛おしく撫で上げる。


ああ、はやく、幸せにしてあげないとなぁ…。











うっとりと髪を撫でていると、マヤが「どうしますか」と声低く尋ねてきた。


「ユイのアナル、まだほぐしますか」
「うーん、そうだね。痛いのもいいけど、気持ちよさそうな顔してる勇維もみたいしなぁ。………うん、俺がするからいいよ」

勇維の顔を床へ押し付けながら、マヤの持つディルドを渡すよう手を差し出す。
マヤはふがふがっ!とくぐもった声を出す勇維の近くを通り過ぎ、俺へディルドを手渡した。しかし、すんなり渡した割には、顔が何か言いたげだ。



「マヤ、どうした?」
「あっ…いえ。…あの…ミヤビさんが直接だなんて…珍しいなって…」
「まあ…大事な子だからね。他の奴には手渡したくないんだ。この気持ちお前ならわかるだろ?……なあ、マヤ?」

投げかけた言葉にマヤの瞳孔が大きく揺らいだ。クールな仮面が今までで1番動揺した。

ーー雅はその様子を一瞬たりとも見逃さなかった。




「相当気に入ったの?ユイなんて呼んで…。もっとがばがばに穴を広げる方法、お前ならイヤってぐらい知ってるだろう?」
「……!み、ミヤビさ…」
「勇維の初めて、もらえて嬉しかった?小さな穴に指を入れて、勇維がどんどん変わっていく様子はさぞ楽しかったんだろうなぁ。興奮して自分のちんこ突っ込みたかった?泣き叫ぶ勇維をガンガンに後ろ突きたかった?そんなに前膨らませて」
「っ、みや、ミヤビさん、やめ、やめてくだ、」
「ああ…?でも、お前は攻めるより攻められる方が好きだったな。……勇維の穴にねじ込んで満足、なんてもうその体じゃできないよな?男のちんこを咥えて感じる淫乱が」
「や、やめっ……ゆ、…イの…ま、えで…やっ、やだっ…ヤダヤダヤダヤダヤダ!!!」

マヤは身体全身を震わせ恐怖で呂律が回らなくなってしまう。
黒髪の頭をかき乱し、金切り声を上げている。いつものクールな表情は破り捨てられ、狂ったようにユイユイユイと名前を呼んでいる。




雅はついに盛大に舌打ちをした。

「うるせぇな。勇維の体に触れさせてやったんだからとっと消えろ、この穢らわしい糞豚が」




マヤはその声とともにガチャンと勇維を繋いでいたリードの手綱を落とし、部屋を一目散に出ていった。




あーあ、勇維がなかなか仕事を諦めないなぁと思ってたら、ずっとマヤが加減してたのか。

どおりで勇維の傷の治りも早かった訳だ。


(相変わらず姑息な豚だ)

そんなことで勇維に取り入ろうだなんて。



はぁと浅く溜息を吐いて、ミヤビは頬にかかった銀髪をかき上げる。


(勇維は男のイチモツを一度も突っ込んだことないから痛みなく慣らしてやろうと思ってたんだけど…。今までのようにマヤを呼んだのは間違いだったな。こんなことなら、初めから全部俺が勇維にしてやればよかった)




「ごめんね、勇維」
可哀想に、と勇維へ声をかける。

しかし、勇維はいつの間にか途中で気を失ったのか、声をかけても反応は一切返ってこない。










「ねえ、勇維、一人で幸せになんてなれないよ…。


 だから二人でしあわせになろうね」


閉じられた眼はこちらをまだ見ずにいた。







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