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○○○○
「相馬、書く気になった?」
「……」
「…はぁ」

三笠先輩は黙り込んでいる俺の顔を見ると大きくため息をついて、ソファにドスンと座り込んだ。



「相馬、もういい加減諦めなよ。もう4時間よ?いつまでそこにいるんだよ」
「…先輩こそ諦めたらどうですか」
「は?なにそれ、僕に妥協しろって言ってんの?絶対イヤだから」

キッと三笠先輩はこちらを睨みつけてくる。
まずい、無駄に煽ってしまったかもしれない。

横で見ていたマッチョ二人組も「マジか」と顔を青くした。先ほどまでやっていたトランプゲームも飽きたのか、カードがケースの中に仕舞われ、二人とも座り込んでこちらを焦って見ていた。早く帰りたそうだ。


俺は未だ柱に体をくくりつけられながら、思案していた。
三笠先輩の言う通り、親衛隊に入った方がいいのだろうか。いや、入ったところでなんの得になる。むしろ、俺が入ったとなれば、兄が調子に乗ることが目に見えてしまっている。
自意識過剰、と言いたくはないが、兄の執念ぶりは自分自身が一番よくわかっているから、これ以上ヒートアップされると、本当に困る。

やはり、三笠先輩の頼み事は聞けないと、三笠先輩の視線から顔を逸らすように下へ俯いた。



すると、その時、突然部屋のドアがノックされた。
ガチャリとドアが開く。

「どうも〜回覧板です!」
「……はぁ。なんだ睦か」
「え?なんでそんなガッカリしてるの?」

…睦先輩?
視線をドアの方に送れば、菫色の髪が特徴的な
丸っこい頭が見えた。そして、背の高さはというと、高校生というよりは入学したばかりの中学生ぐらいの身長つまり低身長である。
可愛らしい顔から女子と間違えてしまうような容姿をした睦先輩は、手に持ったバインダーを大きく掲げた。


「皆さん、どうもお邪魔しますー。あ、三笠。回覧板…というか、いつもの同好会における報告書の書類持ってきたから、確認して欲しいんだけど」
「あーはいはい。ったくめんどくさいなぁ」
「こらこら、三笠。適当にしちゃダメだよ?全親衛隊にとって大事な報告書なんだから…ってあれ?相馬くん?なんでここにいるの?」

立ち上がった三笠先輩の陰から柱に縛られている俺を見て、睦先輩は目をまんまるとした。
その途端、三笠先輩の動きが壊れたロボットのように止まる。

「あれ?相馬くん?どうしたの?…ん?もしかして拘束され…」
「あ、あ、ああー!!相馬は祈祷…祈祷してんのよ!柱に縛られることで願掛けしてんの!」
「…え?そうなの?」


いや、そんなわけないだろ。柱に縛られる願掛けってなに?

苦し紛れすぎる三笠先輩の言い訳に、反論しようと俺は口を開こうとするが、三笠先輩は光の速さで俺の方に近づいて平手打ちする勢いで口を塞いでしまう。
それにより、喋ろうとするが、器用に口を押さえられててくぐもった声しか出てこない。どうやら睦先輩の反応もない様子から俺の声は届いてすらいないようだ。それをさらにかぶせるように、三笠先輩は大きな声をあげる。

「んー??相馬、なにー?お腹空いちゃったかー!でも祈祷はあと3時間休憩なしでしないといけないのよねー!!アンタも叶えたい夢あるんでしょー?そうそう!だから、頑張らないとねー!!」

絶対喋んなよ。三笠先輩がそう、血が飛び走った目で睨んだ。
綺麗な顔をしているのに、軽くホラーチックな顔になっている。嫌なドキリとした感じで心臓が跳ねた。


一方で睦先輩はまだ怪しんでいるのか、こちらをチラチラと気にしている様子だ。
今しかない。そう思って少しでも睦先輩に伝わるよう大きく抵抗して見せようとする。しかし、暴れる俺に拉致があかないと思ったのか、三笠先輩は先に手を打ってしまう。

「睦!そんなことより!ほら、書類確認するんでしょ?書類チェックするから早く見せて!」
「え?ああうん……。えっと、読んだらここに捺印してほしい」
「かしこまりましたー!……ちょっとっ、そこのマッチョ!何もしてないんなら、こいつのこと一言も喋らないように抑えときなさいっ」

小声で言った三笠先輩の言葉に、マッチョが慌ててこちらへ近づく。睦先輩の視線を遮るように俺の前に立ちはだかった。そして、マッチョらが俺の口元を押さえるのを見ると、三笠先輩は急いで睦先輩の方へ行ってしまう。

くそ…、チャンスを求めるなら今なのに。
三笠先輩よりも強い力で押さえつけられているせいで、抵抗どころか声もあげられない。
そして、三笠先輩はあっという間に書類をチェックしてしまったのか、ハンコをおすと、睦先輩に素早くバインダーを手渡してしまったのだった。

(睦先輩…いかないで!)
「んーっんーっ…!」
「こらっ、暴れないでくださいっ」
身体を左右に振って暴れたせいで、もう一人のマッチョにそのまま柱へ体ごと押し付けられてしまう。肩にめり込む掌がすごく痛い。
その痛さに怯んでいると、三笠先輩は睦先輩をドアの近くまでまた追いやっていた。

「ほら、睦、用事済んだなら早く帰って」
「もう…ちょっとぐらいゆっくりさせてよね、本当に三笠はせっかち屋なんだから…。……あ、そういえば、凌賀くんがきみのこと呼んでたよ?もしかしたらあとで親衛隊の部屋寄るかもーって!言ってたかな?」
「…え!凌賀様が!?ちょっとちょっと!睦、そういうことは早く言いなさいよ!」
「いやー、凌賀くんあんな感じで、やっぱりやめるかも〜とか言ってたから」
「うるさいな、僕が何のために親衛隊隊長やってる考えなさいよ!凌賀様のためなんだからね!凌賀様が言ったことは絶対なの!」
「あーはいはい、そうだったね。それじゃあ僕は用事済んだからこれでお暇します〜。あ、相馬くんもまたねー。その、祈祷…?っていうの?頑張ってー」

「んーっ!」
(む、睦先輩…!待って…!)

しかし、いくら心の中で叫んでも睦先輩に届くはずはなく。三笠先輩を軽くあしらった睦先輩は、俺に気づかずさっさと部屋から出て行ってしまった。

シーンと静まり返る部屋。柱に縛られた自分とマッチョ二人に三笠先輩、そして実は後ろでスヤスヤと寝ていたチワワ先輩2人…という俺にとって絶望的な状況にまた戻ってしまった。





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