小説 | ナノ

 1987年の日本人の平均身長は、女性で154cm、男性で168cm程度だったという。そんな中でハーフといえど195cmの高校生は相当な巨漢に分類されるし、他の面々もかなりの高身長といえるだろう。花京院も小学生の頃から身長順に並ぶと一番後ろだったし、中学生にもなると自分よりも小さい大人がいたくらいだ。
 だから、このメンツの中にいて小さい扱いされるのは仕方ないと思う反面、やはり納得がいってなかった。チーム内最小である公子を小さな女性扱いしているのはそのせいなのかもしれないが……。
「だから、私の166って大分ある方だよ!?」
「そうはいっても周囲は男ばかりなんですから」
「く……全員無駄にデカイから何も言えん」
「おいおい、無駄って言うなよー」
 横から口を挟むポルナレフに対して、花京院は妙に冷めた表情になって答えた。
「ポルナレフの髪で誤魔化している部分は無駄だな」
「にゃにをー!俺の頭皮部分までの身長だってお前よりはデカイぞ花京院!」

 一行の進行方向に大きな用水路が横たわっている。左右を見ると橋がかなり遠くの方に設置されており、迂回するのはめんどくさそうだ。用水路の幅は4m程度だろうか、跳べなくはない。問題は……
「公子はここを超えるのは難しいだろう。橋までいくぞ」
「スタンドを使えばいいだろー」
「あまり街中でスタンドを出すのはよくないな。数分しか違わないのだから歩くぞ」
「あの、大丈夫ですよ。助走つければこの位いけます」
「着地はどうすんだよ。砂場じゃねぇんだから確実に転ぶぜ?」
「支えてやればいいんじゃないか?」
「こうやって話してるほうが時間の無駄だと思うがな」
 そう言うと承太郎が地面を蹴った。ひらりと体が宙を舞い、学ランの裾をはためかせながら、しかもポケットに手を突っ込んだままというすごい体勢で着地した。
「はぁ、仕方がないな」
 一番渋っていたアヴドゥルも軽く跳躍するだけで簡単に向こう側にたどり着く。後ろに結んだ髪が波打つように揺れただけで、体の軸をぶらさずに綺麗な体勢を保ったままだ。
「じじぃは歳だから無理そうか」
「お、随分なめた発言してくれるのう」
 だがちょっと自信がないのか、二人よりも大きく助走をつけて飛び越える。それにポルナレフ、花京院も続いて、流れる水を越えていった。
「公子さん、僕のスタンドに捕まってください」
 花京院の隣に現れたハイエロファントが足元から紐状に身体を変化させ、公子の目前でぴこぴこと端を動かす。
「やはり小柄な女性だと難しいでしょう。さあ」
「……いい。自分で跳べる」
「おいおい、無茶すんなよー」
「公子、つまらん意地を張るのはやめたほうがいい」
「そうですよ。公子さん、ただでさえ小柄なんですし」
「だーかーら、小柄じゃないっ!そこらの野郎共程度にはタッパあるわーっ!」
 という日ごろの心の叫びを掛け声に、公子は全速力で駆け出した。用水路ギリギリのいい位置で踏み切り、小柄と言われているだけで平均よりも随分大柄な身体を青空に投げ出す。アヴドゥルが心配そうな顔をしているが、飛距離は十分だ。
「どうだー……っと!」
 ジャンプの勢いだけなら一番よかったかもしれない。そう、勢いだけ、なら。
「危ないっ」
 目測していた着地地点を大きく越え、ぼんやり突っ立っていたポルナレフにぶつかるところだった。ポルナレフが慌てて両手を広げる目の前に、緑色の網が現れ公子の身体を衝撃から守る。
「ほら。言ったとおりでしょう?もっと僕を頼ってください」
「僕“達”をつけてほしいな、花京院」
「そうだぜ」
「……わ、分かった。今のは私のくだらない意地でポルナレフに怪我をさせるところだった。謝罪する。今後助けが必要なときは遠慮なく言うから、逆に助けを求めていないときは大丈夫だと思ってほしい」
「ああ」

 と、言ったはずなのだが。
「おや、公子はいるか?」
「おーい。主人公子さーん」
「いる!ちょっと遅れてるけどちゃんといる!」
 その声に振り向くも、辺りは現地の人々の顔、顔、顔だ。日本人女性ならば目立つはずなのだが全く見当たらない。
「声はするがどこにいんだ?」
「私はちゃんと承太郎の帽子が見えてるから!大丈夫だから!」
「ほら、こっちですよ」
 スッと花京院が手を差し伸べた。
「あの、もう二、三歩で追いつくから大丈夫」
「これからはぐれないように繋いでおくんです」
「今もはぐれてないから」
「でもこれだけの人ごみだから、小柄な公子さんは埋もれてしまいますよね」
「だから、私日本人女性の平均より10cm以上高いから。私が小柄っつんなら花京院君も平均より10cmくらいしか違わないよね?小柄の部類かな?」
「いや、僕はこの人ごみからも頭が出ますからね」
「そうね、私が男だったら花京院君より大きかったんだろうけど。残念だなー」
「まさか、公子さん小柄だから、170ちょいくらいじゃないです?」
「今の身長に女子は1.089をかけると自分が男子だった場合の身長が出るらしいよ。私は180cmくらいだって」
「その数字の根拠あるんですか?」
「負け惜しみ?」
「おーい、花京院、公子、下らんこといっとらんで行くぞ!」
(12cm差って結構理想的だと思うんですけど、どうして公子さんは僕をやたらと小柄扱いしてくるんだろ……)
 意外と花京院は、自分のこととなると冷静な分析が出来ないタイプであった。


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