小説 | ナノ

 おかしな話なのは自分でも承知しているが、僕は初めのうちは君に嫉妬していた。僕が生涯で出来た初めての親友である承太郎に、スタンドを持っていない君が近づくのが許せなかった。他の騒ぎ立てるだけの女子や意味もなくケンカを売ってくる男子とは決定的に違う、君。僕の親友を奪わないでとさえ思った。
 ね。おかしな話だろう。君は承太郎に対してそんな特別な感情を持っていないのに。そしてそんな嫌いだった相手に、今はこうやって迫っているのだから。
「花京院くん……?ちょっと近すぎるから距離をとってちょうだい」
「相変わらずクールだね、主人さん」
「聞こえなかったのかしら?」
「聞こえてるよ。けど、そのお願いはきけないな。もっと君に近づきたい」
「これ以上は物理的に無理よ」
「キスするにはまだ遠いよ」
「そこまで近づく前にあなたの鼻の穴に指を突っ込んで捻るわ」
「それは痛そうだ。勘弁してほしい」
 君は承太郎に対して特別な感情をもっていなかった。それが珍しいことなんだ。何せ承太郎はこの学校のアイドルであり番長であり……まあとにかく、彼を気にかけない人は君以外誰もいない。だけど君は承太郎への態度も、クラスの地味な女子への態度も、素行の悪い男子への態度も、全部同じなんだ。だから逆に君が目立って見えた。
 でもいつからだろう。全ての人を同じように見る平等すぎる君だからこそ、僕は特別になりたくなった。特別な人を見つめる君っていうのがどういう風な姿なのか、すごく興味がわいた。いつの間にか僕は君の特別になろうとしていた。
「昨日商店街にいたよね。君は青いワンピースを着て、眼鏡も外してた。あのときにいた隣の人、誰?」
「ここの卒業生よ。そして私の恋人」
 そう。思ったとおり、君が向ける特別な視線は眩暈がするほどにきれいだった。僕は呼吸をすることも忘れた。そしてそれが向けられているのが僕ではないことに気づき、僕は自分の愚鈍さを呪ったよ。僕が君に敵意を向けていたあの頃から、ずっと付き合っているらしいね。僕の恋は始まる前から終わっていたんだ。だけど、そんなのは許さない。気持ちを告げることもなく自分の中で終わらせてしまえば、行き場のない気持ちが僕を絞め殺してしまう。
「花京院くんには関係のないことでしょう?だってあなた、私の事嫌ってる」
「痛いところをつくね。確かに僕は君への第一印象は悪かった。でもそれは、転入してすぐの頃の話。今の僕の気持ちは違うよ」
「そういわれても、私あなたから受けた敵意のある視線は忘れないわ。今更仲良くしましょうなんて言われても迷惑なの」
 僕のことを嫌っていたのか。それを微塵も感じさせないほど、君は僕に対しても平等だった。そう。彼女の中には嫌いというものがないのかもしれない。好きか、どうでもいいか。だけど、今少し嫌悪の感情が表に出ている。彼女が嫌っている人というのは、ひょっとして僕一人じゃないのか?この世にたった一人、僕だけ。
「嫌いでいいよ。その代わり……もっと嫌いになって」
「言っていることがよくわからないわ」
「こんなことを無理やりする男性って、やっぱり嫌いだよね?」
 そう言って僕は強引に彼女に迫る。予告どおり僕の顔に向けてくる細い手をハイエロファントで止めてしまえば、抵抗する手段なんてなくなる。僕は教室の壁に君を縫いつけ、今まで溜まってきた感情を発散させるように唇を貪った。
「……嫌いよっ!」
「うん。他の人を嫌いになる隙間なんて与えない。僕の『嫌い』で、君の全てを埋め尽くしたい」
 僕への『嫌い』が、彼の存在すら忘れさせるほどに。君の記憶を塗りつぶすように。


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