小説 | ナノ

 五月頭の大型連休ともなると、当然キャンプ場はそれなりに人で賑わっていた。準備や片づけは全て店に任せるグランピング形式のため、食事を終えたあとはのんびりと食後のひと時を過ごしている。
 だがその中に、花京院の姿はない。女子生徒は皆花京院を探すばかりで、口説く隙さえ与えてくれず、男子生徒たちはもやもやしながらも同性だけでカードゲームに興じていた。
 その花京院はというと、父から借りたカメラで鳥や花の写真を撮っていた。カメラが趣味というわけではないので出来栄えとしてはいまひとつであったが、被写体の森林がいいので自然の迫力は写真に納まっている。
「……」
 周囲に誰もいないことを確認すると、ハイエロファントを使って高い位置からシャッターを切った。なかなかの絶景だ。
「よし」
 キャンプは二泊の予定であったが、一泊終えただけの今日、花京院は早々に荷物をまとめはじめた。
「ちょっと両親から連絡があって戻らないと行けなくなったんだ。ごめんね」
「え。大丈夫?一段落したら一回連絡くれよな」
「うん。それじゃあ」
 明らかに落胆している女子に見送られ、花京院は施設を後にした。
 誘ってもらった手前、一泊は皆で仲良く遊んだ。だがその間も自分にばかり話しかけてクラスの輪を気にかけない女子ばかりのロッジに花京院は正直うんざりしていたのだ。
(やっぱり、本当の仲間っていうのはそう簡単に出来るわけじゃない。人が真に理解しあうには五十日もあれば十分だと思うけど……)
 花京院が転入してきて、もう四十日近く経過している。あの旅で得た絆と同じものが、日常に転がっているはずなどないのだ。

 荷物を家の玄関先に放置し、電話の前に貼ってある二年四組の連絡網を見る。
(主人……主人……03-****-0000……)
 数回のコール音の後に聞こえてきたのは、女性の声。恐らく母親だろう。
「はい主人です」
「もしもし。私、公子さんのクラスメイトの花京院という者なんですが……」
「公子のお友達ですか?すみません、今あの子出かけていまして。多分図書館だと思うんですけれど」
(公子ちゃんらしい休日の過ごし方だな)

 主人母の言った通り、図書館の駐輪場に公子の自転車があった。中庭を向く大きな窓に面した席に、数冊の小説で陣取っている公子の肩をたたきながら、悲鳴を上げることは分かっていたので振り向いた公子の口に手を当てる。
「ふぉっ……花京院くん……あー、びっくりしたー。あれ?キャンプは?」
「ここはお喋りには適さないからさ。外で話さない?」
「あ、うん。じゃあこれ借りてくるから待ってて」
 置いてあった数冊の本を手に、カウンターへ向かった。いつもは人に貸し出す役の公子だが今日は借りる側である。そういえば公子が普段どんなものを読んでいるのかと思い、手に取った本の背表紙を注視する。
(恋愛小説か)
 公子が今ハマっているのは、数年前に映画化されたものの原作本だった。
(どんな話だっけ、これ……?)
「先に外出ててー」
「あ、うん」

 図書館を後にした二人は国道沿いにあるハンバーガーショップのカウンター席に並んで座っていた。二階の大きな窓側の席からは、流れる車や人ごみを見下ろす景色が広がっている。
「それで、キャンプは?もう一泊あったはずじゃ……?」
「ちょっと家の方でトラブルがあったから戻ろうとしたんだけど、途中でやっぱり問題ないってことになってね」
「だったらキャンプ場に戻ればいいのに。きっと皆待ってるよ」
「いや、一度帰り支度をしたら何だか面倒になって……」
「えぇ、もったいないよ。せっかくみんなと遊べるのに」
「でも皆の中に公子ちゃんは入ってないじゃないか」
「え……」
 ジュースを取ろうとした公子の手の動きが一瞬止まった。目の色には動揺が現れる。花京院はそれを見逃さなかった。
(今のはストレート過ぎただろうか。いや、まずは意識させないと話が進まないし)
 だが反して公子の心の中はこうだ。
(私がキャンプを辞退したから気を使ってわざわざ……結果として私、花京院くんの邪魔しちゃったんじゃ)


prev / next
[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -