小説 | ナノ

 相変わらず花京院と会長の噂は流れていたが、以前からちらほらあった二人でいるところの目撃情報はきれいさっぱり聞こえなくなっていた。
 そうなってくると花京院のファンである女子はまだ芽があるのかもと期待してしまうところだ。転入したての頃よりも激しいアプローチに見舞われているのはそのせいもあるだろうが、もうすぐゴールデンウィークを迎えるこの時期だからこそという理由のせいだろう。休み中に親しくなることでライバルと差をつけたいという心理が、女子を更に積極的にさせる。
 何せここで親しくなっておけば次へ繋げやすい。逆に次に繋げられなければアウトなのだ。次、というのは当然夏。夏祭り、花火、キャンプ、海……どれもこれも恋愛成就においてマストなイベントばかりだ。
 水着や浴衣で意中の男の子にアタックをかける、その前哨戦こそがゴールデンウィークなのだ。これはもう大型連休ではない。女の闘いそのものだ。
「なぁ!GWに四組みんなでキャンプしないか!?」
 だが闘っているのは女だけではなかった。恋人がほしいのは男子とて同じこと。まずは人数集めのために客寄せとして花京院に声をかけたのだが、
「えーと……」
 困ったような笑顔で周囲を見渡す。先ほどの男子の大声に耳を大きくしていた女子たちが緊張の眼差しで皆花京院を見つめる。行くのか、行かないのか、それが問題だ。
(どうすんだろ)
 公子もまた花京院の返答を固唾を飲んで見守っていった。一瞬目が合うと彼はその温和な表情のままこちらに微笑みかけたので、公子も返事をするようにへらっと顔を崩した。
「僕、この辺りまだ詳しくないから場所の設定とか甘えちゃうことになるけど構わないかい?」
「もちろん!」
「あー、私も行く!」
「私もー!」
「ちょちょ、待て待て!メンツ整理するから待てってば!」

 その日の放課後、近くでキャンプが出来そうな場所はどういった場所があるのかと、花京院の方から公子に話題を振って来た。場所はもちろんいつもの図書室だ。返却された本に貸し出しカードを戻しながら公子は区内の地図を頭に浮かべる。
「区民の森か、公暁森林公園かなぁ。キャンプってできたっけ……?」
「あまりそういう場所には行ったことないから楽しみだよ」
「ね。しかも皆で二泊かぁ……あ!」
「ど、どうしたの大声出して」
 今日は周囲に他の利用者もいる。皆が一斉にこっちを向いたので公子は慌てて頭を下げた。そのあと花京院にちょいちょいと手招きをして内緒話の体制を作る。
「女の子も来るところに外泊って……会長怒らない?」
「会長?」
「生徒会長の」
「なんで」
「付き合ってるって聞いたから」
「まさか。僕彼女なんていないよ」
「え……っとと」
 また大声を出しかけたところを、花京院の指が公子の唇を優しく諫めた。
「でも、彼女いたら楽しい高校生活になるだろうなぁとは思う」
「本当に会長とはなにもなかったの?」
「もちろん。それに、今先輩方は受験生だろう?いくら生徒会長と言えどそんなことしてる余裕ないはずだよ」
(それもそっか)
 公子は会長ならば花京院と釣り合いが取れる才色兼備の女性だろうと思っていたが、肝心の会長側がそれどころではない状態ならばどうしようもない。
(でも花京院君に似合う女子かぁ………………い、いないのでは?)
 完璧すぎると相手がいないという欠点が産まれてしまうのか、と公子が難しそうな顔をしていると、カウンターにクラスメイトの男子が現れた。だが手には本がない。
「主人、悪いんだけどキャンプの話さ」
 その出だしでなんとなく話の顛末は察することが出来たが一応最後まで聞く。
「利用人数に限りがあってさ、何人か削ろうって話になって、あみだくじ作ったんだ。空いてるところに名前書いてもらっていいか?」
 予想していた内容と違って驚いた。てっきり今回は諦めてくれと言われすでに抽選に落ちてるものだとばかり思っていたのだ。そして、それに対して異論を唱えるつもりはなかったので、
「じゃあ私辞退するよ。一本減らしておいて」
「え、でも」
「いいよいいよ。その代わりいっぱい写真撮ってきてほしいなぁ」
「な、何か悪いな。また別のこと企画すっからさ」
「うんー」
「ちょっと待ってくれ」
 話がまとまりそうなところで声をかけたのは花京院だ。
「だったら僕も辞退するよ。これでもう一人行けるはずだろう」
「や、ちょっと花京院は来てもらわねぇと困るっつーか、最悪女子の暴動が起こるというか」
「主人さんにだけ抽選にかけて僕は無条件参加というのは納得できない」
「男女比のバランスもあるからさ。ここは折れといてくんねぇかな。なっ?」
 そう言われるとこれ以上追求は出来なかった。だが。
(だったら僕は何のために参加すればいいんだ……?)


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