小説 | ナノ

※全員生存帰国後

 エジプトから戻ってきてまず承太郎と花京院が直面した問題が、
「テストやばい」
 である。

「しかし俺たちはスタンドがあるから別に……」
「承太郎!君まさかカンニングをしようってんじゃ……」
「まあ、時と場合によるが」
「この場合完全に使う流れじゃないか」
 結局それでは身にならないということで、大学生の公子に勉強を見てもらうことになり、一人暮らしのマンションにカバンと土産を持って訪れたのだ、が。
「あれ?承太郎と一緒に来たんじゃないの?」
「サボりです」
「あらー……」
 カンニングする気満々なのか本当は余裕なのか、いや、承太郎のことだから順位や点数をまったく気にしていないのかもしれない。
 買ってきたケーキを広げると公子も紅茶を入れてくれる。甘い匂いが立ち込める室内、ピンク色の小物が目立つ女性の一人部屋、そこに男女が二人きり。
(……まさか承太郎、今日来なかったのって僕を公子さんと二人きりにさせるためなんじゃあ……!)

 エジプトへの道中宿泊施設で同室になった時のことを思い出す。
「花京院、公子のことどう思う」
「え?どど、どうって……」
「何をそんなに慌ててるんだ。そんなに変なことを聞いたつもりはないが」
「いや、だって」
「俺たちは全員男だし、じじぃが歳とはいえあのガタイだから体力は公子以上にあるだろ。俺らのペースに合わせて消耗してるんじゃねぇか」
「……あー、うん!無理させてしまってないか心配だね」
「……」
「……」
「……花京院」
「はい」
「何を考えてた」
「え?公子さんが心配だなって」
「テメェは違うベクトルのこと考えてただろ。オラ、吐けよ」
「やめ……やめろよ……ははっ、くすぐった……!」
「んー?公子の名前がでてまずどんなこと考えちまったのか言ってみろよ」
「くすぐるなってー……ハハ、そういう承太郎こそ、本当に公子さんをただ心配してただけかい?」
「俺はアイツは範囲外だ。もうちっとおとなしけりゃよかったかもしれんが」
「本当?だったら、僕らのこと応援してくれる?」
「やっと吐く気になったか」
「分かったからそのくすぐりポーズやめてくれ……僕は、公子さんのことを一人の女性として見ている。好きなんだ」

「花京院くん?」
「あっ、はい……えっとここの計算なんですけど……」
 シャーペンを握る細い指と、旅の間はボロボロだったが今はきちっとケアされているネイル。問題集を抑える左手に目をやれば、薬指は空いている。
「まあ勉強せずとも平均点はクリアできそうだね」
「平均程度で満足するような男じゃありませんので」
「お。強気だねぇ。じゃあ学年順位がそうだな……上位二割に食い込んだらご褒美をあげよう」
 意中の異性が「ご褒美」と口にすれば、それはもう完全に変な方向にしか想像が膨らまない。自分の邪な考えを払い除けながら公子の顔を見ると、いたずらっぽく笑っている。今自分がしていた努力が完全に無駄になりそうだ。
「何かいただけるんですか?」
「そうだねぇ……お取り寄せでチェリーパイでも注文してあげようか」
「それは頑張らないと」
 それはつまり、またこの部屋へ来てもいいということだ。しかも今度は勉強のためじゃない。
(頑張ろ)
 カンニングをするなと承太郎に言ったところだが高配点の部分は仕方ないかも、と一瞬考えてしまう。だが後ろめたさなく公子に会いに来たいから、やはり自力で上位を狙わなければ。
 シャーペンを数回ノックし、集中モードへと入った。


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