小説 | ナノ

 ジョセフの見舞いに病院を訪れた花京院と承太郎。そろそろ部屋を出ようかというときに財団職員が訪れた。
「あ、花京院さん。主人さんのIDカードが出来たので花京院さんにお預けしようと思って探していたんです」
「ありがとう。渡しておくよ」
 職員が去ったあと、主人公子と書かれたカードを財布にしまう花京院を承太郎がにらみつけた。
「アイツは外すんじゃなかったのか」
「でも初めてスタンド使いの場所にたどり着けたのは大体彼女のおかげだろう?僕たちじゃバイト先から履歴書を探そうという発想にまず至らなかったかもしれないし、相手がケチな泥棒だという決定的な証拠をつかんだのだってアンセムの能力というより主人さんの洞察力があってこそじゃないか。戦地に向かわせるのは大反対だが財団で僕の帰りを待っててもらうというのはいいんじゃないかなと思ってる」
「……」
「不機嫌そうだね。それは彼女をこれ以上巻き込みたくないから?それとも、僕が彼女に対して特別な感情を持ってるように聞こえたから?」
「チッ」
 舌打ちを残して承太郎は一人で病室を後にした。不思議そうな顔をして聞いていたジョセフだったが、察しのいい彼は今の会話の流れで以前見かけた少女を巡って甘酸っぱい物語が起きそうだということにすぐに興味を示した。
「花京院はあの少女のことが好きなのか?」
「まあ僕のことはいいじゃないですか。自分の孫の恋愛事情のほうが気になりません?」
「ありゃお前さんに聞くまでもないじゃろ」
 そう言って鼻で笑った。
「完全に惚れておる」

 翌日昼休み。財団施設に出入りできるIDカードを受け渡すために公子は屋上に呼び出されていた。昼食を食べながら捜査の進捗を報告し、最後にカードを渡す。しかし、公子がそれに手を伸ばすのを躊躇っていた。
「どうかした?」
「じ、実は……アンセムが、出てきてくれないんです」
「え」
「何度も出そうとしてるんだけど……今までどおりやってるつもりなんですけど……」
「うーん。ちょっと失礼」
 ハイエロが公子の目の前にしゃがみこむ。眼球のないハイエロ相手におかしな表現かもしれないが、お互い見つめあうような近さにまで接近される。
「あ、あの?」
 本体の花京院を盗み見ると、目を瞑って何かを考えているようなポーズになっている。
(よ、よくわかんないけど何かしてるんだろうな)
 とりあえずされるがままにされてみる。しばらくしてハイエロが離れると、花京院が目を開けて困ったような顔をしていた。
「うーん、ちょっと原因が分からないな」
「すみません」
「いや、まあ勝手な憶測だが前に財団でも言われていた精神的な何かだと思う。この間はキツく言い過ぎたかなって僕も反省しているんだ」
「そんな、先輩方は悪くありません。先輩のお腹を傷つけてしまったのは、半分は私のせいのようなものですから」
「じゃあ傷跡が残ったら責任とってお婿さんにでもしてもらおうかな」
「えっ!?」
「冗談だよ。それに僕、もっと大きい傷跡持ってるからいまさら気にすることじゃないよ。ただしこれは、僕が男だからだ。君に同じものが残ってしまったら、それこそ僕が責任を取らなきゃいけない」
「責任をとっていただく必要はないと思ってますが……先輩に迷惑をかけるくらいなら潔く諦めます」
「何もすべてを忘れろって言ってるわけじゃない。そうでなきゃこのカードを渡しに来た意味もなくなっちゃうしね。君にはサポートを勤めてもらいたいんだ。アンセムは銃ももちろんだがスコープが随分役に立つようだし、何より主人さん自身の洞察力を僕は買ってるんだ」
「必要としていただけるならどこにでも行きます」
「はは、なんだか会社の面接みたいだね。じゃあ今の捜査状況についてちょっと相談したいから、今日一緒に財団施設に行かないかい?」
「はい、喜んで」

 放課後、財団施設の談話室のような場所でその後の経過の詳細を聞いた。残る写真について、一人は何とか詳細をつかんだのだがやはりこちらからも真犯人に行き着く手がかりは得られなかった。残りの写真についてはどこの誰だかすらまだ分かっていない。
「以前承太郎がこうやって写真一枚を手がかりにその人物が住む場所を当てて見せたんだ。エジプトにしか生息しないハエが写りこんでいて、それをスタープラチナが見つけてくれてね。だが今回はそういうわけにもいかないようだ。そこで違う視点を持った人にももう一度見てほしくてね」
 写真を改めて渡されるが、そこにはオッサンが写っている以外の情報を読み取ることは出来ない。
「この写真って、いつ撮ったんでしたっけ。過去の映像が写るとかそういうことはないんですか?」
「ジョースターさんが来日した日だからね。あのお見舞いに行く数時間前といったところか。写真はそのときのリアルタイムで出てくるはずだ」
「だとしたら、平日昼間にスーツを着ずに外に出ているというところから絞ってみますか?休みが平日である、勤務時間が夜間である、私服で外回りする仕事である、職についていない」
「うーん、そこだけだとまだ絞るには厳しいな」
「事件発生現場はアーケードを中心としています。あの辺りだと遊びに来ている可能性のほうが高いと思うので、思い切って私服で外回りの仕事は外しましょう。そしてこれは男性にお聞きしたいんですが、この髭の伸び具合からしてどのくらい剃ってないと思いますか?」
「……少なくともこの日の朝剃ったとは思えないな」
「もし二日以上剃ってないようなら夜間労働の線も消えます」
「これは……なんとも言えないな。個人差もあるし」
「すみません、全然的外れなことばかり言ってたようで」
「いや。そんなことないさ」
「あとはこの服ですね。どこのメーカーかって心当たりないですか?メンズはちょっと私には見当がつかないので」
「僕も服にはあんまりこだわらないからな……承太郎に聞いてみようか。彼、結構おしゃれなんだよ」
「いや、多分空条先輩も分からないでしょうね。先輩に庶民感覚を求めるのはダメだと思います」
 あの広大な敷地に広がるお屋敷と呼んでも差し支えない住居を思い出し、公子はいやな気持ちをイヤミに変えてそう呟いた。自分とは住む世界が違う人。言っちゃ悪いがおそらくこの写真の男は平日昼間にパチンコでもしにきているような人物なのだろう。そんな生活を送る人間のことを、承太郎が察せるとは到底思えなかった。
 しかしそうなると、結局写真を見てよく分からないという感想しか出てこなかったことになる。こういったときのために役に立てるのではないかと意気込んできたのにとんだ空振りだ。
 公子は一旦お手洗いに向かうために席を外した。長い廊下で誰ともすれ違わないままトイレの看板が見えてきたとき、曲がり角から現れた大きな影に身を強張らせた。
 廊下を曲がろうとした承太郎がこちらを見下ろしている。冷たい目で。
「あ……どうも」
「……ハァ」
 大きなため息の中に、彼の口癖である「やれやれ」が思いっきり含まれていたことを感じて公子はむっとなった。
「今日は花京院先輩のお供で来ただけです」
「何?」
 口答えが気に食わないのか更に不機嫌そうな顔でにらみつけてくる。正直その眼力だけで泣き出しそうになるが、ここ数日で涙を堪えることには若干慣れた。
「戦うだけがスタンドの使い方じゃありません。私は私の出来ることで“花京院先輩の”お役に立ちたいと思ってここにいます。空条先輩にはご迷惑をおかけするつもりもありませんしそもそも極力かかわらないように精進しますので!では!」
 なんだかよく分からない不満を理不尽にぶつけられた気がして承太郎が公子を引きとめようとしたが、すぐそこにある化粧室の看板の下に入っていくのを見ると声をかけづらくなってその場を後にした。


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