小説 | ナノ

 二発目が狙ったのはわき腹だった。一度目の狙撃があったからか、公子のいる方角に遮蔽物が来るように移動していたようだが、それはつまりすり抜ける弾丸の性質までは見抜けていなかったようだ。
 花京院と同じ場所にダメージをもらったスタンドと本体は同時に倒れる。そこにスタープラチナの拳が振り下ろされる。
「承太郎っ!」
 花京院の姿はまだ室内になかったが、外から聞こえる声に攻撃をパンチから組み付きに変更し、スタンドを羽交い絞めにした。
「どうやら腕力勝負なら俺のスタンドのほうが上らしいな。それとも、本体同士のサシの勝負もどちらに軍配が上がるか試してみるか?」
 その結果は一目見るだけで分かっている。男は観念したようにスタンドを引っ込めた。
「三対一かよ。しかもこのにょろにょろはテメェのスタンドじゃないのか」
「にょろ……ま、まあ別に構わないが」
 遅れて花京院が部屋に入ってきた。わき腹を押さえながらの登場に承太郎が舌打ちをする。
「止血が先だ」
「ああ。悪いがタオルを何枚かもらうよ。もちろん君にも応急手当を施すからね」
 引越しの荷造り中だったようで部屋にはダンボールが積み上げられている。どの箱に何が入っているのかきちんと書いていたので目的の物を引っ張り出すまでに時間はかからなかった。
 そこに公子も到着する。
「花京院先輩!大丈夫ですか!?」
「今まで様子見してて大丈夫だと思ってんのかよテメェは」
 平気さ、と言おうとした花京院を遮るように、承太郎が割って入る。
「主人。テメェのその武器は頭や心臓を狙ってこそだ。武器を落とすなんて手ぬるい真似してんじゃあねぇぞ」
 その口調は、公子を非難するというよりも観念したポーズをとっている男に向けられたものだった。俺はこの女のように甘くねぇぞという意思表示は、これから行う事情聴取に必要なものだ。
「さて、まずテメェのスタンド能力について聞こうか。何故俺が突入した時点で仲間がいると分かった」
「……すたんど、って言うんだな、これ。俺がこの力というか……背後霊を出せるようになったのはつい先日だ。だから把握しきってない部分もまだあるが、まあ外見と能力からアイツのことはコマンダーって呼んでる」
「司令官、という意味か?」
「ああ。俺サバゲーが趣味でよ」
 弾道から咄嗟に遮蔽物に身を隠すことが出来たのは本体の能力だったようだ。だがまさか銃弾が壁をすり抜けるだなんてスタンド初心者に想像がつくはずはない。
「敵や味方の位置を完璧に把握できりゃ一方的にやれるわけじゃん?それを実現させてくれるんだよ、アイツは。俺に敵意を持ってるヤツと、俺を味方と思ってるヤツの位置が分かる。まあ距離に限界はあるだろうが」
「その能力を与えたのは誰だ?」
「え?」
「最近高熱は出たか?」
「あー、熱は出たな。バイト休んだし」
「病院にいかなかったのか?」
「ちょちょ、何でそんな質問ばっかすんだよ!何かちくっとしたかなーと思ってから意識が朦朧としはじめたから家帰って、熱測ったら四十℃くらいあったけど」
 その言葉に三人は顔を見合わせて唖然とした。
「何故その状況で病院にいかない……」
「金がねぇんだよ!金が!見ろよこのボロアパート!俺が熱程度で病院にいけるようなヤツに見えるか!?」
「だからって四十℃ですよ……まあ今は、なかなかお金がありそうですね」
 その公子の言葉に反応した男の背後に再度スタンドが現れる。スタープラチナが素早く拘束すると慌てて引っ込めた。
「わ、悪い。違うんだ、反射的に出るんだよ。さっき言ったろ、敵や味方を区別するって。俺を敵だと認識したヤツがいたら警告しにアイツが出てくるんだよ。今女の子ちゃんが俺のこと敵だってはっきり思ったろ」
「どうしてそう思ったんだい?」
「お話が終わるまで部屋の中を物色させてもらいました。この状態、引越しするということで間違いないと思うので念のため次の住所を押さえておこうと思って。そしたらそれらしき書類を見つけたんですが、東京都公暁区××町、セントラルレジデンス三十五階。相当な高層マンションですね。病院に行けない人の住居とは思えません」
「バイトやめた辺り、宝くじにでも当たったのか?」
「そ、そうだよ」
「ウソです。犯罪に手を染めた方が可能性が高いと思ってそちらも部屋を物色しました。押入れの中のダンボールに大量の財布があります。中に免許もありますが全員違う人です。あなた、スタンドをスリに使ってますね!?」
 花京院が押入れを開け、無記名のダンボールを開いた。中身は高そうな財布ばかりで、おそらくブランドものであろう。この男のものとは思えない女性物の財布もいくつかある。
「成るほど。敵意を感知するスタンドだから、バレそうならば未遂に終わらせることも可能というわけか」
「やれやれ。随分セコいヤローだな。お前のようなクズに似合いのブタ箱を紹介してやろう。そこの職員と面識があってな。スタンド……いや、悪霊がとりついていると言えば分かってもらえるぜ」

 今回初めて容疑者に当たってみて分かったことが一つ。スタンドに矢を使わせている以上、そのときスタンド使いではなかった被害者がその姿を捉えることは出来ない。そのとき周囲に怪しい人物はいなかったかと問うてみても、体調の悪さや出血を伴う怪我をしてるときに回りを気にする余裕がないから覚えているはずもないこと。
 つまり、まだ残っている写真を手がかりに別のスタンド使いに当たってみても、情報は得られない可能性が高いということだ。もちろんその写真に写っているのが今回の件の黒幕の可能性もあるわけだが。
「それでも続けるべきかどうか、だな」
 だが三人のモチベーションは一気に下がってしまった。スタンド使いを念写するのではなくスタンドの矢を持った人物を写してはどうかとジョセフに提案したが、それだと条件が大雑把過ぎて上手くいかないらしく、またスタンドの調子もまだ戻っていない。
「どちらにせよ主人。俺はお前をこのチームから外すべきだと思った」
「な、何でですか!?」
「お前は甘い。武器を振りかざすヤツに威嚇射撃なんて温いことしてるようじゃあ、俺はお前に命を預けられねぇ。事実、花京院が怪我をした」
「まあ結果論なところもあるが、僕もその意見は否定出来ないな。僕はリロードのタイミングだ。アンセムが言っていただろう。一発撃つごとにリロードが必要だと。戦闘の最中にそれを怠る甘さがある限り君を連れまわすのは僕らの身も危険に晒すことになる」
 二人の先輩の厳しい言葉に言い返す文章が見つからなかった。言い訳をして許される類のミスではない。
「それともお前はあれか。試合の最中ラケットを手放すのが普通なのか?」
「……違います。申し訳ありませんでした」
「謝罪はいらん。が、もうついてくるな」
 去り行く二人にかける言葉があるはずなどない。公子はうつむいて涙を抑えることしか出来なかった。


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