小説 | ナノ

 日曜の午後、公子は見回りも兼ねてアーケード街のショップに来ていた。服を選びながら周囲をきょろきょろしていると、なんだか店員にマークされてるような気になり慌てて店を出る。
 そこに声をかけられ振り向くと、見覚えのある外国人女性が手を振っていた。
「空条さん」
「あの時はごめんなさいねー。息子が何か失礼なことを言ったと思うの。よかったらお詫びに今度こそケーキをご馳走するからちょっとだけオバサンに付き合ってくれないかしら?」
 外見は完全に西洋人だったが口から出てくる日本語は流暢で、言葉選びも日本人そのものだった。
 自分を遠慮がちにオバサンと呼んだりはしているが、行動はかなり強引でそこだけは日本人らしくない。やはり返事をする前にずるずると公子を引っ張って近くにある喫茶店へと入っていった。
 中は古い教会を居抜きして作った内装で、店員の態度も一流ホテルでも通用するような言葉遣いに姿勢である。
「ここのパフェすっごくおいしいのよ。あ、でも季節のタルトも捨てがたいわぁ」
「あ、あの空条さん、空条先輩からは特に非礼をされたわけでは……」
「空条さんと空条先輩じゃややこしいから、私のことは聖子さんって呼んでね。私の名前空条ホリィって言うんだけど、Holyって日本語で言うと……」
 といういつもの説明を聞いてる間にパフェが到着した。頂上を飾るダークチェリーはほんのりとアルコールの味がして、値段的にも味的にも公子のような高校生には少し早い店だと思った。
「あの子、夫に似て随分と口下手だから誤解を招くことも多々あるんだけどね。本当は優しくていい子なのよ……なァんてね。親バカってやつよ」
「は、はぁ」
「照れて私には何も話してくれないのよ。だ、か、ら、二人がどういう関係なのか、聞いちゃってもいいかしら!?」
キャァ〜、とかわいらしい声を上げながら両手を頬につけて体を左右に振って楽しんでいる。これでいて外見はどう見ても承太郎の母なのだから遺伝子とは不思議だと公子は思った。
「えっと、聖子さんってスタンド使い、ですよね?」
「ん?そうね……厳密に言えば“使い”ではないわ。見えるだけ」
「そうなんですか?」
 そういうのもあるのかと思いつつ、公子は改めて承太郎と自分との関係を考えた。
「私にとって空条先輩はスタンド使いとしての先輩でもあります。この子が使えるようになってまだ日が浅いので、色々……」
 色々教えてもらってるんですと言葉をつなごうとしたが、色々教えてくれているのは花京院の方ではなかろうか。むしろ非スタンド使いの財団員の方から教わることが多い。
「い、色々ご指導いただいています」
「えぇ、彼女さんじゃなかったの?私ってばてっきり……」
「違います。全然違います」
「二回も言われちゃった〜」
 パフェグラスの底に溜まったソースと溶けたアイスを柄の長いスプーンですくって完食する。アイスで少し冷えた体を温めましょうとホリィが追加で温かい紅茶を頼んだ。悪いですと断ろうとしたが、まだ何かホリィが話したいことがあるのだろうということをすぐに察し、お茶もご馳走になることにする。
「主人さんがウチに来てくれた日ね、慌てて飛び出していっちゃったけど、やっぱり何か息子が失礼なことをしたんでしょ?違うって言ってくれるのはありがたいんだけど、あのあとの息子の様子がそりゃあもうおかしかったんだから。落ち込んでたみたいで」
「えー……」
「色々茶化しちゃおうと思ったんだけど、こう、やっちゃったー、みたいな感じで項垂れてるもんだから話しかけづらくなっちゃってね。だから私からも謝って、また息子と仲良くしてほしいなって」
「あの日は本当に私の方が悪かったんです。その話は、もう」
「だーめ!主人さんが息子と仲良しになってくれるまでお母さんは粘りますからね!」
「あ、あの。よくしていただいてますので、だいじょぶ……です」
 嘘をつくのが心苦しくなる程に、ホリィは素敵な女性だ。だからこそ、現状の不仲を察知されたくない。
 それにしても以外だった。承太郎があの態度を後悔していたというのもそうなのだが、ホリィが公子の苗字を知っているのが何より一番驚いた。公子はホリィに自己紹介をした覚えがない。というより自己紹介をする前にぐいぐいと背中を押されて邸内に案内されたのでそんな暇がなかったはずだ。
 それでも苗字を知っているということは、承太郎が自分のことを話したとしか思えない。
(一体私のこと何て言ったんだろ)

 この街に、ジョセフが念写しきれないほどの大量のスタンド使いがいる。そして驚異的な能力に目覚めた者は、その力を私欲のために振るう。
「元凶を絶つことが第一だけど、目の前の悪事を見過ごすわけにも行かない」
 公子は偶然目撃したスタンド使いを現在尾行してる最中だった。アンセムを出すことは出来ないが他人のスタンドは相変わらず見える。ホリィの言うスタンド“使い”ではないという状態なのかと思った。
(でもホリィさんは一過性のものじゃないみたいだし……私ももう二度とアンセムに会えないのかな)
 アンセムなしの尾行はかなり難しい。今までどれだけスタンドのアビリティに頼っていたか痛感する。
(見失う……!)
 標的は以前と同じ若い男。外見で人を判断するのはよくないかもしれないが、派手な色の頭髪と耳に大量につけられたピアス、何より首から顔面近くまで刻まれたトライバルタトゥーからして、このまま放っておくとロクなことにならない予感がした。
 男は徐々に人気のない場所へと向かう。アーケードを抜け西側に広がる寂れたシャッター街の一角にある細い階段を上る。
 看板は出ておらず、この建物が何の施設なのかすらもよく分からないが、少なくとも住居ではないだろう。
(……いや、ここで一旦引こう。スタンドが出せないこの状況で単騎突入は無謀だ。一回公衆電話で財団に連絡を入れよう)
 相手が入っていった建物の場所を簡単に紙に控え、電話を探してその場を離れた。
 財布からテレカを出し、財団の番号をプッシュする。ぷっ、ぷっ、ぷっ、と音がしたかと思うと、その後続くはずのコール音がしない。
「……?」
 肘に何かが当たる感覚がしてそちらを見る。それが緑色の受話器のコードで、鋭利な刃物で切られたのだと気づいた瞬間、公子は慌てて電話ボックスを出ようと扉に手をかけた。しかしそこには先ほど尾行していたのとは違う大柄な男が立ちふさがっている。身長的に承太郎よりやや低いくらいか、だが横幅は彼よりも大きい。
「俺たちに何の用だったんだ?」
 公子の尾行はバレていた。逆に尾行され、財団の電話番号に連絡していたところを見られてしまった。挙句電話ボックスに閉じ込められ、横にはハサミ型の手をした小さな敵スタンドがいる。
 ハサミといっても紙を切る道具としてのものとういより、カニのような形状をしていた。切ることもできるようだが挟んで相手を拘束することが主な用途なのだろう。暴れるようなスペースのないこの閉所であっさりとはさみに拘束された公子は、そのまま外に引きずり出されて先ほどの怪しい階段のある場所まで引きずられていった。


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